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「新型コロナウイルス 対策の効果と今後の備え」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

新型コロナウイルスの対策について政府の専門家会議は新たな提言をまとめました。「一部の地域で感染の拡大がみられ、爆発的な感染拡大を伴う大規模な流行につながりかねない」と警戒感を露わにし、感染が拡大している地域ではイベントの一律自粛といった対策を検討すべきだとしています。一方、感染が確認されていない地域ではリスクの低い活動を実施するなど地域の状況に応じた対策を進めるべきだとしています。

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(解説のポイント)

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解説のポイントは3つです。▽日本のこれまでの対策とその効果を評価した上で、▽専門家会議が示した新たな提言、そして▽今後感染が広がった場合に備え、重症となった人を救うためにはどうすればいいのか考えます。

(日本の感染拡大防止策は)

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いま感染の拡大を防ぐために日本でとられている対策の柱は主に2つです。1つは人が集まる機会をなるべく減らすこと。専門家会議は感染が拡大するリスクが高くなる条件を示しています。▽密閉空間で換気が悪い、▽手の届く距離に多くの人がいる、▽近距離での会話や発声がある。この3つの条件が重なるスポーツジムやライブハウスでは集団感染が確認されています。政府は大規模イベントの中止や延期、規模の縮小を求めたほか、全国の学校に臨時休校を要請。最も感染者が多い北海道では知事が「緊急事態」を宣言し、週末の外出を控えるよう求めました。そしてもうひとつの対策の柱が“クラスター対策”です。感染者の集団=クラスターを早期に発見し、さらなるクラスターの発生を防ごうというのです。感染者が確認されると、保健所はこうしたシートを元に症状が出る2週間前からの行動を調べていきます。ポイントとなるのが、先ほどの3つの条件が当てはまる感染の拡大リスクが高い場所を訪れていないかということです。こうした調査をもとに一見、つながりがなさそうな感染者同士が、例えば同じライブハウスにいたといったことがわかると、そこでのイベントを自粛してもらったり、同じ場所にいた人の経過観察を行ったりすることで感染の拡大を防ごうというのです。

(対策はうまくいっているのか 北海道のケースは)
ではこうした対策はうまくいっているのでしょうか。緊急事態宣言が出された北海道のケースを見てみます。連日のように新たな感染者が発表され、不安に感じている人も少なくないと思います。ですが、感染が確認された日と実際に感染した日は異なります。感染した日を推測することで対策の効果を考えます。

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こちらは、北海道の公表資料から感染者が発症した日を抜き出したものです。週ごとに見てみますと、発熱やせきなどの症状が出始めた発症日は2月の第3週と4週が40人余りと集中しています。一方、3月に入ってからは減少傾向です。潜伏期間の平均はおよそ5日。つまり、発症日から5日ほどさかのぼった日が感染した日と考えられます。

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このグラフが左にずれると、北海道が緊急事態宣言を出した2月28日以降は感染リスクが高くなる環境は減ったと考えるのが妥当ではないでしょうか。では実際、人の流れは変わったのでしょうか。3月1日から15日までに札幌の地下鉄を利用した人は、緊急事態宣言が出される前の2週間より24%減少。去年の同じ時期と比べると32%減少していました。感染の拡大を防ぐため、中国の武漢では街を封鎖し、ヨーロッパの国々でも外出を制限しています。翻って日本では人々の行動に委ねる対策をとっても意識が変わることで一定の効果が出ている。こう評価することができるのではないでしょうか。北海道の緊急事態宣言はきょうで終了となりますが、引き続き感染が懸念される場合は外出を控えるよう呼び掛けています。

(専門家会議の提言)

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専門家会議の新たな提言では、全国的な状況について引き続き持ちこたえているものの、感染源がわからない感染者の増加が生じている地域が散発的に発生していると警戒感を露わにしています。その上で、感染拡大のリスクが高まる3つの条件が重なる場所を徹底的に避けるよう求めました。そして今後の対策については地域の状況に応じて進めていく必要があるとしています。▽感染が拡大傾向にある地域は独自のメッセージの発出やイベントなどの一律の自粛の必要性を適切に検討する。大阪府と兵庫県は3月20日からの3連休、双方の間の不要不急の行き来を控えるよう呼びかけました。これは地域独自の対応といえます。そして▽感染が確認されていない地域は学校の活動や屋外でのスポーツ、文化・芸術施設の利用などリスクの低い活動から実施するなどとしています。政府は専門家会議の提言を受けて具体的な対策を検討することにしています。

(今後の備えを急げ)

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地域の状況に応じて対策を行うと当時に、今後さらに感染が広がった場合を想定し、重症化する人、亡くなる人をできる限り少なくする。そのための備えを急がなければなりません。
ポイントは2つあります。まず、クラスター対策の強化です。感染者の増加で調査の対象者が増えると保健所の対応が追い付かず感染拡大の防止が難しくなる懸念があります。保健所の職員が専門性をいかした調査などに専念できるよう、事務作業などをほかの部署の職員に担ってもらうなど支援の必要があります。そして2つめのポイントは検査と医療体制です。重症化のリスクがある人に重点を移していかなければなりません。すでに対策をとっている自治体もあります。熊本県では先日、介護施設の職員の感染が確認されました。こうした場合、通常、施設を休止して保健所はほかの職員や利用者について2週間の経過観察を行います。症状がない限り検査は行われません。ですが、利用者は高齢ですので、重症化のリスクがあります。県は感染の有無を速やかに調べる必要があるとして施設の利用者や職員など185人すべての検査を行いました。結果的に陽性の人はおらず、施設の休止も最小限で済みました。こうした柔軟な対応が命を救うことにつながるのだと思います。

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医療体制についても同様です。いま、検査で陽性となった人は症状が重くても軽くてもすべて入院することになっています。ですが軽い人がベッドを塞いでいると重症の人を救えなくなります。WHO=世界保健機関はすでに多くの国でこうした状況が起きていると警鐘を鳴らします。感染者が増えた際には軽症の人は自宅で療養してもらうという国の方針を元に都道府県は具体的な計画の策定を急ぐ必要があります。感染の状況は地域によって異なりますので、これからはますます都道府県の役割が重要になってくると思います。

(まとめ)
新型コロナウイルスは未知のウイルスです。ですが、わかってきたこともあります。私たちの行動を変えることで感染のスピードを抑えられそうだということです。専門家はウイルスとの闘いは1、2か月で収束せず長期戦になるという見方を示しています。一方で学校生活や経済、社会活動も取り戻さなければなりません。どのような地域でどのような活動であれば感染の拡大防止と両立することができるのか。状況が刻々と変わる中、政府は一歩先を見据えた対策を示す必要があります。

(堀家 春野 解説委員)

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