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「東日本大震災9年 『生業』の復興は」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

ニュース解説「時論公論」です。東日本大震災からきょうで9年になりました。被災地ではインフラの復旧は進みましたが地域経済は復興が遅れていて、9年がたった今になって経営に行き詰まる中小の事業者も増えています。被災地のなりわいの復興はどこまで進んで、何が課題になっているのかを考えます。

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■インデックス■
解説のポイントは
▼中小事業者の再建はどこまで
▼なぜ今になって倒産が増えているのか
▼求められる息の長い支援

■中小事業者の再建はどこまで■
1月の末、宮城県石巻市に衝撃が走りました。「復興のシンボル」とされる老舗の造船会社が経営に行き詰まり、会社更生法の適用を申請したのです。この会社は津波で大きな被害を受けましたが、地域経済の牽引役を期待され、巨額の債務免除と、国などから56億円の出資や補助を受けて再建。官民の支援で復活した好事例として安部総理大臣の視察先にも選ばれていました。

被災をした中小企業は再建を果たしたところが数多くある一方、ここへきて経営が行き詰まる事業者も目立っています。

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企業の倒産数を示したグラフです。岩手・宮城・福島3県では震災の翌年大きく減りましたが、その後、増え続け、去年は震災の年を初めて上回りました。全国では減少傾向が続いているのと対照的です。

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経営状況はどうなのでしょうか。補助金を受けた中小事業者への国のアンケートを見ると半数以上の事業者が売り上げが震災前の水準まで回復していません。特に厳しいのが水産・食品加工や旅館・ホテル業などで震災前の半分以下というところが半数を占めています。この状況はここ4~5年、ほとんど改善されていません。

■なぜ今になって倒産が増えているのか■
なぜ売り上げが回復せず、今になって倒産が増えているのでしょうか。

最近、経営破たんした水産加工会社を取材しました。

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従業員30人ほどのこの会社は業務用の加工食品を製造していましたが、津波で社屋が全壊し経営者の肉親や従業員も犠牲になりました。補助金と借金で工場を修理して1年後に事業を再開しましたが、震災前の得意先はすでに別の会社から買い付けるようになっていて販路を取り戻すことはできませんでした。

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このため自社ブランド商品事業に乗り出し、別の補助金を使って新しい工場を建てました。新商品はさまざまな賞を受け売り上げを伸ばしましたが、失った大口顧客の分を補うことはできませんでした。記録的な不漁続きで材料費が高騰したことも打撃になり、経営が行き詰まりました。
経営者は「失った販路を補うため独自商品に賭けて工場を新設したが裏目に出てしまった」と話しています。

この会社の状況は被災地の多くの事業者に共通します。

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さきほどのアンケートで売り上げが回復していない理由を聞くと、最も多いのが「既存顧客の喪失」で36パーセントを占めています。経営者たちは「販路を取り戻すことは想像を超える難しさで9年たっても変わらない」と口を揃えます。またかさ上げなどが終わって最近店を再建したものの住民が戻らず苦しんでいる店が少なくありません。

こうした状況に追い打ちをかけたのが借り入れの返済が始まったことです。

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多くの事業者は、建物や設備の復旧費用の4分3を国と県が補助する「グループ補助金」や新設費用の「8分の7を補助する補助金」を使い、残りの自己負担分は借金をしています。猶予されていた返済がおととしから始まった事業者が多く、資金繰りを圧迫しています。
これまでなかった手厚い補助金の効果は絶大で、多くの事業者が救われました。反面、補助金で施設を復旧・新設したものの、震災後の経営環境の激変で見込んでいた売り上げが得られず、結果的に過剰投資になって経営を圧迫しているケースも少なくないのが現実です。グループ補助金を受けて倒産した企業は3県で85社にのぼっています。災害の補助金のあり方や運用は今後、検証が求められます。

被災地では今後さらに倒産が増えることが懸念されています。建設業などを潤わせている復興需要の減少や新型コロナウイルスの影響に加えて、大きな問題があります。

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東日本大震災では二重ローン対策でも新しい仕組みが作られました。事業者が震災前に抱えていた借金を公的機構が銀行などから買い取って負担を軽くしたうえで棚上げし、事業者は再建計画に基づいて事業を立て直したあと一括して返済するというものです。その期限が早いところで2年後に迫っていて、今後、経営悪化が表面化する恐れが強いと見られているのです。

■求められる息の長い支援■
それでは今後、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
被災企業の再建のため国はさまざまな経営面での支援も行ってきました。販路開拓や新事業のためパートナーを紹介する事業、専門家の派遣、人材育成などです。そうした支援を受けた地域や事業者の連携・グループ化の取り組みが進み始めていて、ひとつのヒントになります。

今年1月、タイのテレビ局が石巻市の魅力を紹介する番組を製作しタイ全国に放送しました。リポーターが観光スポットや魚市場、水産加工場などを訪ね、新鮮な魚介類や特産品などを紹介しました。

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この番組を仕掛けたのは石巻市の食品輸出振興協議会です。水産と農業、食品など32の団体が協力して地場産品と観光を海外に売り込む取り組みを続けています。アジア各地で展示会や商談会を開催したり、現地向けの新商品を開発して売り込むなどした結果、継続的な買い付けが入るなど、少しずつではありますが輸出額を延ばしています。

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ライバル同士が手を組む動きも広がっています。宮城県気仙沼市と岩手県大船渡市、釜石市では商工会議所が音頭を取って水産関連事業者の連携が始まっています。従来は隣同士で競い合う関係でしたが、高速道路の開通をきっかけに県境を越えて事業の共同化や起業をめざし議論を重ねています。
さらに気仙沼では6つの漁業会社が新しい会社を作り、漁船ごとに水揚げを競うのではなく効率的な操業や管理・運営で全体の生産性を高めようという取り組みも始まっています。

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▼こうした連携の取り組みや事業者同士のマッチング、人材育成などは時間がかかりますが、成果は出始めています。容易いことではありませんが、いわゆる「伴走型支援」の態勢強化にさらに知恵を絞る必要があります。

▼また技術力や意欲があるのに、見てきたような被災地固有の逆風で苦境に立つ事業者が数多くあります。そうした事業者と地域をもう一段、押し上げるため国や自治体、金融機関などが連携した金融支援のフォローアップが求められています。

(まとめ)
今、新型コロナウイルスの影響で全国の中小企業の経営が圧迫されていて救済が急がれます。一方、東日本大震災の被災地の地域経済の復興は道半ばで息の長い支援が求められています。そうした支援を実現するために国も被災地の側にも地域経済復興をどう成し遂げるのか、10年目以降のビジョンを示すことが求められていると思います。

(松本 浩司 解説委員)

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