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「原発事故9年 廃炉への遠い道のり」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

世界最悪レベルの福島第一原発事故から9年、建屋内の放射線量は依然厳しく、使用済み核燃料の取り出しが5年先送りされるなど廃炉作業は遅れ。加えて今後はデブリ取り出しというより難しい段階に。
にもかかわらず政府と東京電力は、最長40年で廃炉を完了させる方針だけは堅持。残る30年で廃炉を終えられるのか。
9年目の廃炉の課題について水野倫之解説委員の解説。

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事故で唯一、全町避難が続いてきた福島第一原発が立地する双葉町の避難指示が、先週解除。ただ駅周辺などごく一部に限られ、5900人の住民はまだ帰れない。
伊澤町長は5年で2000人の帰還を目指す方針を打ち出し企業誘致などを進めると話す。
ただ戻るかどうかで住民が懸念するのが、廃炉が順調に進み安全が確保されるのかどうかだという。

その廃炉の現場は今どうなっているのか、事故9年を前に取材。

原子炉建屋を見下ろす高台。
建屋から100m離れるも放射線は依然として強く、1時間あたり130μSvと一般人の年間限度に8時間で達する量で、1年前から下がっていない。

事故では1号機から3号機で原子炉の核燃料が溶けて格納容器に落ち、構造物と混じり合ったデブリとなって残された。
廃炉の目標は強い放射線を出すこのデブリとプールの使用済み核燃料取り出すこと。

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このうち使用済み核燃料の取り出しに向けて、1号機ではプール近くの大型のがれきを撤去する作業が難航し、積み重なったままとなっているのがわかる。
爆発を免れた2号機は、プール周辺の放射線量が極めて高く、ロボットによる調査や除染が進められる。
3号機は建屋上部に設置されたドーム内で、1年前から取り出しが始まり。ただ遠隔操作のクレーンのトラブルもあり取り出せたのは566体中98体にとどまる。

この使用済み核燃料の取り出しについて政府と東電は昨年末に改定した廃炉工程表で、1号機で最大5年、2号機で最大3年遅らせ、取り出し完了も2031年と大幅に遅らせた。
がれき撤去による放射性の粉塵の飛散防止対策を迫られたから。
1号機は、大型のカバーを設置。
また当初建屋上部を解体する計画だった2号機も、壁に穴をあける工法に変更し、計画が遅れることになったわけ。

避難指示の解除が進む中、廃炉作業で放射性物質が飛散して住民が被ばくするようなことは絶対にあってはならない。安全を最優先にした計画の遅れは致し方なく、判断は妥当だと思う。

またデブリについても、今月までに行われるはずだった試験的な取り出しが機器の開発の遅れから見送られ、2021年から2号機で始めることに。
2号機では去年、格納容器の底の小石状のデブリとみられる堆積物を持ち上げるなど、調査が最も進む。
ただ最初の取り出しは堆積物をブラシでこすって採取する計画で、取り出し量は1グラムにとどまると見込まれる。
その後段階的に規模を拡大していくというが、1号機と3号機のデブリ取り出しにいつ着手するかについては、今も明確な方針を示すことができない状況。

このように工程が遅れ、見通しを示すことが難しいにもかかわらず、政府と東電は作業は全体としては進んでいるとして、30年から40年で廃炉を完了させる方針だけは堅持。
残る時間は最長およそ30年。本当にできるのか。

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特に最難関となる燃料デブリについては2号機でも確認できたのはごく一部で、1号機は全く確認できておらず、どこにどれだけのデブリがあるのか全体像はほとんどわかっていない。
また作業の安全の観点からも、40年前の事故でデブリが取り出されたアメリカのスリーマイル島原発では、放射性物質の飛散や強い放射線を遮る効果が高い水を張って作業が行われた。
これに対して福島は、3基とも容器が損傷していて水をためることができず空気中で取り出さざるを得ない。
これは世界でも例がなく、放射性物質の飛散をどう防いで安全に作業を進めるのか具体策もまだこれからで、今は存在しない技術の開発が必要。
どんな装置でどう取り出せば安全なのか現時点では見えていない。

こうした状況で30年から40年で廃炉を完了させるというのは非常に難しい。

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そしてさらに問題なのが、廃炉を完了させると言いつつも、更地にするのか一部施設は残すのか、廃炉後の姿についてあいまいにされたままになっている点。

そもそも30年から40年というのは事故を起こしていない原発の廃炉にかかる時間で、核燃料を取り出し建屋も解体して更地に。
しかし過去に重大事故を起こした原発はいまだ廃炉が完了していない。

34年前に爆発したチェルノブイリ原発は、全体を覆うコンクリート構造物が老朽化。4年前、放射性物質の飛散を防ぐ鋼鉄製のドームで覆われた。デブリ取り出しなど廃炉の見通しは全くたっていない。
アメリカ・スリーマイル島原発も、デブリの一部は原子炉に残されたまま30年近く監視が続けられてきた。そして去年、さらに30年かけて廃炉を目指すことが発表。

このように事故炉の廃炉は極めて困難。
そこで日本原子力学会は福島の廃炉後の姿について提言。

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地上も地下もすべて撤去して更地にするケースと、地上部分だけを撤去し地下は汚染が広がらないよう壁で囲って残すケースを掲げ、技術的な検討を進める。
すべて撤去すると放射性廃棄物は800万tと膨大だが、敷地は自由に利用できる。
これに対し地下を残せば放射性廃棄物は半分に減るが、敷地利用は制限される。
これに加え、それぞれの作業を放射線が下がるまで数十年待ってから行う方法も提示。作業員の被ばくを抑制できるのがメリットだが、作業は40年を大幅にこえる。

この提言のようにどういう形で廃炉を終えるのかが明確になれば、廃炉作業の工法や手順は大きく変わり、作業の無駄をなくせる可能性があり、政府や東電は廃炉後の姿について今のうちから様々な選択肢について議論をすすめておく必要。

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というのもこの問題、増え続ける汚染水の処分とも絡んでくる可能性もあるから。
現在構内のタンクにはトリチウムを含む120万tの処理水がたまっており、政府の有識者会合は海洋放出に優位性があるとする提言をまとめ、風評被害を懸念する福島の漁業者の反発が強まる。
ただこの提言は40年以内にデブリを全て取り出し廃炉を完了させることを前提としたもの。
そのためには建屋周りのタンクを撤去してデブリの保管庫を急いで作る必要があり、処理水をタンクに貯め続けるのは限界だというわけ。
ただ廃炉期間を長くしたり、デブリをいつまでにどれだけ取り出すかなど方針が変われば、タンクの場所がさらに確保でき、処理水の保管を続けることも可能になってくるかもしれない。

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ただどんな方法をとるにせよ、福島の人たちの理解なしに廃炉作業を先に進めるわけには行かない。事故から9年の今、政府そして東電は廃炉の現状を丁寧に福島の人たちに伝えた上で、廃炉後の敷地を今後どうしていくのかについても検討を始めていくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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