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「アメリカ大統領選挙2020『本命バイデン』はなぜ復活したのか」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

再選をめざすトランプ大統領に誰が待ったをかけるのか?アメリカ大統領選挙に向けた民主党の候補者選びは、大きなヤマ場となったスーパーチューズデーの結果、バイデン前副大統領がサンダース上院議員を土壇場で大逆転。“本命候補”として劇的な復活を果たしました。今後の選挙戦の見通しを考えます。

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ポイントは3つ。

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▼まずバイデン氏のまるで奇跡のような復活劇。
▼次に「この人ならトランプ大統領にきっと勝てるはず」そんな魔法のイメージ。
▼そして政権奪還をめざすバイデン氏の課題です。

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14の州で予備選挙が一斉に行われ、この日だけで全米の3分の1を超える票が固まるスーパーチューズデー。そこに大方の予想を超えたドラマが生まれました。

青色がバイデン氏の勝った州。 決戦の僅か3日前、南部サウスカロライナ州の予備選で、念願の初勝利を飾ったバイデン氏は、テキサスをはじめ南部各州を席捲。中西部ミネソタなど選挙キャンペーンをほとんど行っていなかった州もあわせて10の州で勝ちました。

これに対して緑色はサンダース氏が勝った州。このほかサンダース氏は人口が全米で最も多く民主党の固い支持基盤、西部カリフォルニア州でもリードしています。集計はまだ続いています。ただ、ここで弾みをつけて一気に独走態勢に入る。そんなサンダース陣営の目論見は外れ、これまでに勝利が確定した州は、地元の東部バーモントなど3つにとどまっています。

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その結果、各候補がこれまでに獲得した代議員数がこちらです。民主党の大統領候補に指名されるためには、州ごとに割り振られた代議員の過半数、1991人を獲得しなければなりません。そのラインにはまだ遠く届きませんが、バイデン氏とサンダース氏、この2人が混戦から抜け出して事実上の一騎打ちの構図となりました。

巨額の選挙資金をすべて自前で投じて途中参戦した中道派の大富豪、ブルームバーグ前ニューヨーク市長は早々と撤退に追い込まれ、バイデン氏を支持すると表明。バイデン氏にはさらに追い風が吹いています。

一方、左派で女性初の大統領をめざすウォーレン上院議員は去就を明らかにしていません。地元の東部マサチューセッツ州でも勝てなかったことから、近く撤退を余儀なくされるのではないか?そんな観測も広がっています。仮にそうなった場合、バイデン氏とサンダース氏、どちらを支持するのかも焦点になりそうです。

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去年4月に立候補を表明してから全米の支持率でほぼ一貫してトップを走り、当初は“本命”と目されながら、いざ予備選挙が始まるとまったくふるわなかったバイデン氏。そのバイデン氏がなぜ、ここで突如息を吹き返し、サンダース氏に追いつき、追い越すことに成功したのでしょうか?

バイデン氏は77歳。政治キャリアが半世紀近くに及ぶ中道派の重鎮です。民主党の中枢に常に身を置いてきたインサイダー。しかし、この人ならではの具体的な政策を打ち出して注目を浴びたわけではありません。ひたすら訴える公約は「トランプ大統領の再選を阻んで政権奪還を果たす」そんなメッセージです。

これに対して、もともと無所属議員のサンダース氏は「民主社会主義者」を名乗り、極端に左派に偏った独自の政策を唱える自他ともに認めるアウトサイダー。「格差是正に向けて革命を起こす」そう訴えて若者を中心に草の根の支持を広げてきました。

ふたりの明暗を分けたのは、今回の大統領選挙で民主党の支持者たちが盛んに口にする「Electability=当選可能性」という言葉です。それはたとえば、その候補が勝てる確率は何%というような科学的に算出された数字のデータではありません。むしろ「バイデン氏ならトランプ大統領にきっと勝てるはず」「サンダース氏ならたぶん負けてしまうだろう」そうした個々の有権者の見方や願望が、メディアを通じて増幅されたイメージなのです。

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このため、有権者が投票にあたって、上院議員を36年務めてオバマ前大統領を8年間、副大統領として支えたバイデン氏の政策に深く共鳴した。あるいはバイデン氏の指導者としての優しい人柄に心底ほれ込んだというだけでもなさそうです。もし、そうであったなら、バイデン氏は予備選挙の初戦から、あれほど無残な負け方はしなかったはずだからです。

つまりはタイミング。「このまま急進左派のサンダース氏が大統領候補の座に突き進めば、無党派層や民主党内の中道派を遠ざけて、トランプ再選を助けることになりかねない」そうした見方が現実味を帯び始めたまさにその時、南部サウスカロライナで黒人からの圧倒的な支持で起死回生の初勝利をつかんだバイデン氏の存在が急浮上。そこに、撤退した中道派のライバルや党内の有力者たちが相次いでバイデン支持を表明したことで、トランプ大統領を倒せる“本命候補”のイメージを増幅し、多くの民主党員が、まるで魔法にかかったかのように、バイデン氏のもとに再び集まってきたのです。いわば“本命候補”のイメージが、現実の本命候補を復活させたかたちです。

現に、劇的な復活を演じたバイデン氏その人はいま、指名争いの対立よりも党内の融和を、攻撃よりも癒しのイメージを盛んにアピールしています。

(バイデン前副大統領の声)
「人種、性別、支持政党の違いを乗り越えて、この国をひとつにして勝たなければならない」

このようにバイデン氏が、民主党内の融和を最優先にしているのは、サンダース氏との激しい対立が長引けば、自分が大統領候補になってもサンダース支持者の離反を招き、本選挙で民主党はトランプ氏に敗れた前回の大統領選挙の二の舞になりかねない。そんな危機感があるからでしょう。

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そうした危機感を高める要因は、有権者の世代交代です。今回の大統領選挙は、これまで長年アメリカ社会の中心を担ってきたベビーブーマーとそれ以前の世代に代わって、21世紀に成人したミレニアル以降の若い世代の有権者が、新たな主役になりそうです。
いまの若者たちはリベラル化する傾向にあり、現状の政治に不満を抱くそうした若者たちがサンダース氏を後押しする現象を生んでいる。そう考えるバイデン陣営は、若く新しい力を党内に引き寄せておかなければ、政権奪還はおぼつかないとみているのです。

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このため、バイデン氏は、背後のサンダース氏から自分に刃を向けさせず、出来るだけ早く指名争いに決着をつけて、ともにトランプ再選阻止という正面の目標に向かわせたいと考えているでしょう。無論それは簡単ではありません。いまの民主党が支持基盤とする女性や若者それに黒人やヒスパニックなどマイノリティーを含めて、幅広い層を政権奪還の旗印のもとに結集できるか?そのためには、副大統領候補に誰を起用するのかも、早い段階から次の焦点になってくるでしょう。挙党体制をどれだけ早く築けるか?それが本命候補に躍り出たバイデン氏の課題です。

トランプ大統領もまた、中道派と左派の根深い対立で民主党が分裂している現状と課題を知っているからこそ、その弱点を攻めてくるでしょう。「この人ならきっと勝てるはず」そうしたバイデン氏のイメージは、急速に再び固まったその分、急速にもろくも壊れてしまう可能性もあるからです。民主党内をまとめる“本命候補”のイメージが、バイデン氏を現実の本命候補に蘇らせたスーパーチューズデー。この先11月まで続く長丁場の攻防はますます激しくなっています。

(髙橋 祐介 解説委員)

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