「新型コロナウイルス 教育現場の混乱をどうするか」(時論公論)
2020年02月28日 (金)
西川 龍一 解説委員
新型コロナウイルスの感染の広がりが小中学校を中心に教育現場を直撃しています。安倍総理大臣は27日の政府の対策本部で全国すべての小中学校や高校などを臨時休校にするよう要請しました。
▽異例の全国休校要請
▽高まる家庭の困惑
▽年度末の学校の混乱
以上、3点を中心に、新型コロナウイルスによる教育現場の困惑と混乱について考えます。
安倍総理が明らかにしたのは、全国の小中学校や高校、特別支援学校について、来月2日から春休みに入るまで臨時休校にするよう要請するというものです。これによって、多くの子どもたちや教員が日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクにあらかじめ備えるのが狙いです。
ただ、突然の全国一律の休校要請によって、学校や家庭に困惑と混乱が広がっています。文部科学省が今月25日、児童や生徒などに新型コロナウイルスの感染が確認された場合などの対応について全国の都道府県教育委員会などに通知したばかりだったからです。学校で児童や生徒、教職員などに感染者が出た場合、学校がある自治体だけでなく周辺地域の学校も積極的に臨時休校を検討することを求めました。また、感染拡大を防ぐため、発熱やせきなどのかぜの症状が見られる時は、自宅で休養させるよう徹底し、その場合はインフルエンザにかかったケースと同じように出席停止扱いにできることも示していました。
学校の臨時休校は、自治体や学校法人などの設置者が決めるほか、出席停止は校長が判断することになっています。このため今回の通知は、公立の小中学校だけでなく、高校や大学、私立の学校にも対象を広げました。学校現場では、北海道で感染が相次いで確認されているほか、金沢市では中学生が新型コロナウイルスに感染していたことがわかるなど、感染の判明が相次いでいました。各自治体や学校にしてみれば、新型コロナウイルスそのものの情報が乏しい中、感染拡大を防ぐため手探りで対応している状況の中で、ようやく国が対応方針の基準を示した形でした。
文部科学省が基準を示したことを受けて、必要だと判断した自治体では、学校を休校にする動きが始まっていました。通知の翌日の26日には、北海道教育委員会が道内のすべての小中学校を休校にするよう市町村の教育委員会に要請し、休校が始まっていました。
文部科学省の通知をさらに拡大した形で対応する自治体も出ていました。千葉県市川市は、きょうから2週間にわたり、市内のあわせて61の市立小中学校などを臨時休校にしました。市川市では児童・生徒や教職員に新型コロナウイルスの感染は確認されていません。しかし、市内の小学校の教職員4人が、新型コロナウイルスへの感染が確認された千葉県内の3人と同じスポーツクラブを利用していたことがわかり、念のための措置として休校を決めました。まさに設置者が自主的に休校を決めた矢先の全国一律の要請だったわけです。
学校での感染症への対応は、感染者が出た学校に限って休校を求めるのが一般的で、自治体内の学校を一斉に休校にするのは、異例の措置です。新型コロナウイルスの感染者の確認が相次ぐ北海道でも児童生徒や学校関係者の感染の確認は1部の自治体に限られているだけに、影響の大きさを考え、休校は1週間とするなど対応に苦慮していました。休校になったものの小学生の子どもを1人自宅に置いておくわけにはいかず、共働きや1人親世帯では、保護者が仕事を休まなければなりません。しかし、休校が急に決まったため思うように休暇が取れないケースが懸念されています。今回は感染拡大を防ぐことが目的のため、子どもの預け先を見つけるのが難しい地域もあり、保護者の負担が増えることにどう対処すべきなのかという難しい問題をはらんでいます。春休みまで休校となれば、この先4月の新学期が始まるまで1か月以上休みが続くことになります。安倍総理大臣は、行政機関や民間企業などは休みを取りやすいよう、保護者への配慮を求めたうえで、こうした措置に伴って生じる課題は政府が責任を持って対応する考えを示しました。しかし、パートや非正規で働く人などは休業補償もなく、収入に直結します。総理が約束したから信じろと言われても具体的な対応策が示されないままでは家庭の不安は高まるばかりです。
年度末に長期間の休校を余儀なくされることは、学校の運営にも大きな影響があります。1つは、授業時数が足りなくなったり、教科書の内容を教えきれなかったりするのではないかということです。学校では教科ごとに年間に行う授業時間数が決まっています。今回の新型コロナウイルスの感染拡大のように不測の事態で授業時間数が減っても進級などには影響はないことになっています。しかし、計画通り授業が終わらないとなれば、地域によって習ったことに差が出ることにつながりかねません。学年末の成績をどう付けるのかという問題もあります。休校になった学校の一部では、休み中に自宅で学習が進められるようプリントを配ったり、ネットを利用して指導することを検討したりする学校もあります。休校になることを想定していなかった多くの学校は、何ができるのかを考え、児童生徒に示す必要があります。
多くの地域の中学3年生は、これから高校入試を控えています。休校となれば、休み期間を縫っての高校受験という異例の事態です。何より受験生が動揺することなく試験に臨めるようなケアが必要ですし、仮に新型コロナウイルスに感染した場合は救済措置をどうするのか。国立大学入試では対応が分かれ、東京大学などが救済措置を取らないことを明言したことに、体調の悪い受験生が無理を押して受験することにつながるとの批判があがりました。万が一の状況を想定し、中学校の内申を中心に判断したり、追試を設定したりするなど対処法を明らかにすることが急務です。
今回の要請に対する学校の対応は、要請通り来月2日から休校を決めたところがある一方で、準備期間が必要だとして休校に入る日程をずらすところなど、地域によってわかれることになりました。萩生田文部科学大臣は、きょう午後記者会見を開き、多くの課題の解決策を示せない状態のまま全国一斉の休校要請となったことを認めた上で、「休校の時期や期間は各教育委員会で判断を」と、地域の事情に合わせて学校の設置者の判断を尊重する姿勢を強調しました。
政府は今月25日に発表した新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための基本方針を決定しました。しかし、この中では一律には求めなかった大規模なスポーツなどのイベントの自粛を翌日になって要請し、きのうの突然の全国の学校休校要請とあわせてちぐはぐな対応との批判の声があがっています。
小中学校の臨時休校が始まった北海道帯広市では、子どもの世話をするため看護師の2割以上が出勤できなくなり、予約のない患者の外来診療を休止する事態が起きています。
全国一律の休校が必要かどうかは意見が分かれるところです。国は、効果的で必要な対応であるというのであれば整合性の取れた説明をし、教育現場だけでなく社会全体が混乱しないため明確な分析によって明確な一手を打ち出す責任があります。
(西川 龍一 解説委員)
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