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「イラン議会選挙 強硬派圧勝の意味」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■アメリカによる厳しい制裁にさらされている中東のイランでは、先週、議会選挙が行われ、アメリカを敵視する「保守強硬派」が7割以上の議席を獲得して圧勝しました。国際協調路線をとってきたロウハニ大統領を支持する勢力は大幅に議席を減らしました。このような選挙結果になった背景と国際情勢に与える影響について考えます。

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■解説のポイントは、▼史上最低となった投票率。▼保守強硬派が圧勝した背景。▼そして、国際情勢に与える影響です。

■私は、21日に投票が行われたイランの議会選挙を取材して参りました。欧米との外交交渉によって「核合意」を実現させた「穏健派」のロウハニ大統領を支持する勢力が、今後も議会の多数派を維持できるか。それとも、アメリカを敵視する「保守強硬派」が、4年前、前回の選挙での敗北から巻き返すのか、今後の国際情勢を左右する選挙として、世界的に注目されました。

■ところが、選挙戦は盛り上がりに欠け、投票率は42%と、1979年のイスラム革命後、最低となりました。イランの指導部は、投票率をイスラム体制への国民の支持の度合いを示すバロメータとして重視しています。国民に投票を呼び掛け続けたにもかかわらず、なぜ、そうなったのでしょうか。

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新型コロナウイルスの影響を指摘する声もあります。投票日の2日前、イラン政府は、国内で初めての感染者が発生し、うち2人が死亡したと発表して、投票所でもマスクをした人の姿が目立ちました。
最高指導者のハメネイ師は、外国のメディアが新型コロナウイルスの脅威を強調したため、多くの有権者が投票に行かなかったと述べ、外国の陰謀だと非難しました。
しかし、実際のところ、この騒ぎが起きる前から、「今回は投票に行かない」と公言する有権者が数多くいました。理由を尋ねると、「投票する前から結果はわかっている」、「今の政治体制を信用していない」と言った答えが返ってきました。

■投票率の低さは、国民の根深い「政治不信」によるもので、コロナウイルスの影響は、極めて限定的だったと考えられます。実際、イランの選挙では、立候補者に対する資格審査が行われます。イスラム法学者らでつくる「護憲評議会」という機関が、「イスラム体制を心から信奉しているかどうか」を審査し、そうでないと判定されれば失格となります。今回は、届け出たおよそ1万4000人のうち、およそ半数しか立候補が認められず、「穏健派」や「改革派」の現職の議員の多くが失格となりました。ロウハニ政権を支持する候補の多くは初めから排除され、有権者の選択肢は限られていたのです。

■もちろん、ロウハニ政権への失望感もあります。イランは、「核合意」を守って、核開発を大幅に制限したにもかかわらず、アメリカのトランプ政権が「核合意」から一方的に離脱し、イランの原油輸出をストップさせるなど、厳しい経済制裁を科してきたため、激しいインフレや失業問題が国民の暮らしを直撃しています。
去年11月には、政府がガソリン価格を大幅に値上げしたことをきっかけに、人々の激しい抗議デモが全国に広がりました。治安部隊が実弾を使って鎮圧を図り、300人以上が犠牲になったと見られますが、真相は明らかにされていません。

■さらに、先月初め、革命防衛隊のソレイマニ司令官が、アメリカ軍によって殺害され、国民の反米感情が高まったこともあります。その際、革命防衛隊が、ウクライナの旅客機を誤って撃墜し、イラン人の乗客など合わせて176人が犠牲になった事件で、イラン政府が当初、撃墜した事実を隠していたことも判明して、国民の間に政府への強い不信感が広がっています。
街中では、ソレイマニ司令官の肖像が数多く掲げられ、候補者たちよりも、存在感を示していました。

■ここから、保守強硬派が圧勝した選挙結果を分析します。

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議会の定数290のうち、279議席が確定しました。残る11議席については、どの候補者も当選に必要な票数に足りず、4月に決選投票が行われます。
イランでは、政党政治が確立していないため、政治家を明確に色分けすることができません。地元メディアの報道を総合しますと、▼イスラム革命の原則を厳格に守り、アメリカを敵視する「保守強硬派」が、およそ210議席を獲得して圧勝しました。これに対し、▼国際協調を重んじ、ロウハニ政権を支持する「穏健派」と「改革派」は、合わせて20議席程度しか獲得できず、惨敗しました。▼どちらにも分類できない議員がおよそ50人います。

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■前回4年前の議会選挙は、「核合意」が履行されたばかりだったこともあり、経済制裁が解除されるだろうという期待感から、「穏健派」と「改革派」が大きく躍進しましたが、今回は全く逆の結果になりました。低い投票率が、必ず投票所に足を運ぶ傾向のある「保守強硬派」の議席を押し上げました。とくに、首都テヘランでは、定数30のすべての議席を「保守強硬派」が独占しました。ロウハニ政権の穏健路線が国民からの支持を失ったことが如実に現れた選挙結果でした。

■続いて、今後の国際情勢に与える影響を考えます。

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すでに2期目のロウハニ政権の任期は来年8月までです。議会の支持を失えば、法案や予算を通すことは困難で、急速に求心力を失う可能性もあります。
ロウハニ大統領は、欧米各国との厳しい外交交渉の末、結んだ「核合意」に政治生命を賭けてきました。トランプ政権の制裁圧力を受けても、核合意を維持することを目標に、ヨーロッパなど関係国と折衝を続けてきましたが、今後は、革命防衛隊に代表される保守強硬派の勢力が、アメリカへの報復や挑発の軍事行動に出たり、核合意やNPT・核拡散防止条約から離脱したりすることも考えられます。ロウハニ大統領がそれを押しとどめるのは難しいとする見方も出ています。そのことは、核合意の崩壊を招いて、アメリカとの軍事的緊張はもちろん、サウジアラビアやイスラエルなどとの緊張も高めることになるでしょう。

■イランは、今後、アメリカとどう向き合ってゆくのか、2人の専門家に聞きました。

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【テヘラン大学 ガッセミ・タリ准教授】
「アメリカとの関係改善を目指す交渉を支持した者らは、悲観的になった。
秋の米大統領選挙の結果にかかっていると思う。」

【フィナンシャル・トリビューン紙 サブーニ副編集長】
「もし、トランプ大統領が再選された場合、アメリカとの直接交渉はほぼ不可能となる」。

■2人の発言は、今のイランが、自力では難局から脱することができず、アメリカに、より柔軟で対話のできる政権が誕生するのを待つしかないという、八方塞がりの状況にあることを物語っています。
イランのコロナウイルスの被害は、その後も拡大の勢いが止まりません。亡くなった人はすでに26人、感染が疑われる人は900人を超え、イラン政府による感染拡大を防ぐための対策は、後手に回っています。政府がコロナウイルスの感染に関する情報を隠蔽していたのではないかという批判の声もあがっています。かつてない政治不信の高まりが、革命から41年を迎えたイスラム体制の根幹を揺るがし始めていることを、今回の選挙は浮き彫りにしています。

(出川 展恒 解説委員)

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