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「新型コロナウイルス『瀬戸際』のいま何が求められるか」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

「これから1~2週間が“瀬戸際”となる」
政府の専門家会議は、新型コロナウイルスの対策ついて、このように表現しました。感染が「急速に拡大」するのか、それとも「収束」するのか、私たち一人一人の行動にかかっています。政府は、2020年2月25日、今後の感染対策の「基本方針」を取りまとめました。
生活や経済へ影響が広がり、韓国やイタリアなど海外でも感染拡大が報告されています。こうした中、感染を収束させる道を示すことができるのか、重要な時期になっています。

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今回は、政府が発表した基本方針の考え方を見た上で、その課題、いま何が求められているのか考えます。

基本方針は、新型コロナウイルスに、国民が的確に対応できるよう、今後の対策などを示ししたものです。その対策は、大きく2つの考え方からなっています。

ひとつは、感染者がまとまってみつかる「集団」(クラスターとも呼ぶ)をいかにして作らないかです。これが感染収束のカギです。

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感染者の集団は、これまでにいくつか見つかっています。特に、感染者の集団から、次の集団ができ、さらに次の集団といったように、連鎖が起きると対策が追い付かなくなります。

もう一つ避けなければならないのが、感染者の集団の大規模化です。

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集団が一つであっても、感染者の数が多くなると対策が難しくなります。教会で感染が広がったとみられている韓国のいまが、この状態と考えられています。

集団を作らないために、どうするのか。

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現在は、一人一人の感染を確認して、周辺の濃厚接触者などを調べて集団が発生していないかどうか確認しています。

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基本方針では、仮に集団が発生している恐れがあるときは、関係する「施設の休業」や「イベントの自粛」などを要請するとしています。

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さらに、今後、患者が継続的に増えた場合、その地域では、広く「外出の自粛を求める」といった生活に大きく影響する対策を行うことが想定されています。

この集団は、どういった時に発生するのか。

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その一つがイベントや集会などです。
専門家は、
▽近距離で向かい合わせの状態が
▽一定の長い時間続いて、
▽多くの人がいる
といった条件では、感染が起きやすく、人数が多ければ、それだけ大規模な感染者の集団ができてしまう恐れがあると指摘しています。
基本方針には、イベントなどを開くかどうかの判断基準は示されていません。

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政府は、2月26日、大規模なスポーツや文化イベントなどについて、今後2週間は中止・延期・規模の縮小を要請することを明らかにしました。ただ、いまが「瀬戸際」なのであれば、大規模集団のリスクを抑える判断は適切にされなければなりません。国は、主催者がイベントを中止するかどうか、より判断しやすいよう一定の考え方、「指針」を示すことも検討が必要だと思います。

基本方針のもう一つの考え方は、「患者の重症化を防ぐ」というものです。

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新型コロナウイルスの典型的な症状は、せきや発熱、倦怠感などが1週間程度あるとされています。80%以上は、軽症で回復するとされますが、中には重症で人工呼吸器が必要になるケースもあります。

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▽重症になった人に十分な医療を提供して、回復を図ること、
▽リスクが高い「高齢者」や「持病がある人」を重症化させないこと
が重要になります。

そのために基本方針では、医療提供態勢について示しています。

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現在は、診察を受けるタイミングとして、
▽「かぜの症状」や「37度5分以上の発熱」が4日以上続いたとき、
▽高齢者や持病のある人は、これが2日続いたとき、
▽強いだるさや息苦しさがあれば、すぐに、
各地の「帰国者・接触者相談センター」に連絡して、紹介された医療機関を受診するようになっています。

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インフルエンザが疑われるときなどは、かかりつけ医に連絡した上で受診するようにしてください。

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ただ、今後、感染者が増えた場合、そうした地域では、受診の仕方を切り替えます。
▽変更する一つは、一般の病院にも新型ウイルスの患者を受け入れてもらいます。
▽もう一つは、重症の人は医療機関へ、軽症の人は基本的には自宅療養してもらいます。
こうすることで、患者が増えた時でも、重症の患者に十分な医療が確保できるようにします。あわせて、医療機関にとっても患者が集中せず、態勢の維持が図れます。一般の病院では、新型ウイルスの患者と他の患者が接触しないよう、診療の時間を分けるなどの対応をすることになります。
ただ、軽症の人が抱く「病気が重くなるかもしれない」という不安をどうするのかなど、「この医療提供態勢は分かりにくい」という声に、答えることが必要だと思います。

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医療機関の対応で課題のひとつが、院内感染です。同じコロナウイルスのSARSやMERSでは、いずれも過去に院内感染が起きて感染が拡大しました。新型コロナウイルスの感染力は、そのSARSやMERSより強いのではないかと指摘されていて、院内感染に警戒が必要です。
今後、一般の医療機関も、新型ウイルスの患者を診察する際に、高いレベルの院内感染対策ができるか、指導や相談を受ける態勢づくりを万全にする必要があります。これができないと、院内感染によって、医療機関内であらたな感染者の集団を作ってしまう恐れがあるからです。

基本方針には、国民に対する正確でわかりやすい情報提供を行うことも記されています。しかし、国の国民への説明は、これまで十分だったといえるでしょうか。

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いくつかありますが、一つの例が「クルーズ船」の対応です。14日間を過ぎて、検査で陰性とされた乗客が船から降りたとき、「新たな感染は起きていないのか」という指摘があったほか、乗客の中には「自分が本当に感染していないか心配だ」という人が少なからずいました。
国は、クルーズ船での検疫について「専門家の助言を得ながら改善を図ってきた」などと対応に問題はなかったとしています。しかし、その後、下船した人からの中から感染が確認された人が報告され、2月26日までに40人以上に発熱などの症状があることが分かり、検査を受けているということです。
詳細な検証は後に回すにしても、クルーズ船の対応で何がうまくいって、どういった課題や反省点があるのか、中間的な報告でもよいので公表することが必要だと思います。こうした姿勢が、国民の信頼を得ることにもつながるのではないでしょうか。

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今回の基本方針を実行していくと、
▽想定どおりに機能する点と、
▽効果が上がらずに課題となって浮かび上がる点が
出てくると思います。
国には、そうした両面を国民に説明することが必要で、その上で基本方針の必要な見直しをすることが大切です。
このウイルスは、日本だけの問題ではありません。感染は中国のほか、韓国、イタリア、イランなどでも、急速に拡大していると伝えられています。

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世界各国は、早い時期から感染が広がった日本が、感染をどこまでコントロールできるか、注視しているとみられます。国民だけでなく、世界にも情報を発信し、役立ててもらう必要があります。
新型コロナウイルスは、地球規模で広がる感染症です。それだけに、日本で抑えることに成功しても、海外で感染拡大が続けば、新型ウイルスのリスクは、日本にも向けられたままになります。日本、そして海外の各国が情報を共有して、「世界的な感染収束」に向かうよう、取り組まなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)


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