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「新型コロナウイルス クルーズ船 水際対策に『死角』」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

国内で新型コロナウイルスによる感染が初めて確認されてからおよそ1か月。感染経路がわからないケースも報告され未知のウイルスとの闘いは新たな段階に入っています。
かつてない対応を迫られているのがクルーズ船での集団感染です。

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(解説のポイント)。

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解説のポイントは3つ。▽なぜクルーズ船で感染が拡大したのか、▽乗客に船の中にとどまってもらういわば“隔離”のリスク、そして▽今後、感染症対策をどう進めていけばいいのか考えます。

(なぜ?感染拡大)。

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乗客・乗員およそ3700人を乗せたクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」で、最初に乗客の感染が確認されたのは2月1日。すでに船を降りた香港の男性でした。クルーズ船が横浜港に戻ってきたところで、乗客・乗員の健康状態を調べる検疫やウイルス検査を行ったところ、5日に10人の感染が確認されました。以降、検査が進むにつれて感染が判明し、その数は542人に上っています。症状が重い人も24人含まれます。(18日現在)。
政府はウイルスの潜伏期間を考え14日間、船内で健康観察を行いマスクや手洗いを徹底し他の人に接触しないなど感染防止策を徹底することにしました。19日にはその最初の期限を迎えます。国内で感染を拡げないため、リスクが少しでもあれば文字通り水際でくい止める。こうした対策は理にかなっています。ですが、一方の船内で感染が拡大したのはどういうことなのでしょうか。3つの理由が考えられます。

(感染拡大の理由①)。

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まず、水際対策が行われる前に船の中ではそもそも感染が拡がっていたということです。これまでのデータでは乗客の発症のピークは2月7日。潜伏期間を考えると船内での感染防止策が始まる5日より前に感染した可能性が高いというのです。乗客によりますと、香港の乗客の感染が判明した後も横浜に着くまで有効な感染防止策はとられていなかったといいます。クルーズ船は閉じられた空間で多くの人が一緒に生活します。ビュッフェで食事をとり、船が揺れるので手すりを触る機会も多く、ウイルスが付着していればそこから感染が拡がるおそれがあるのです。

(感染拡大の理由②)。
2つ目の理由は、最初からすべての人に検査が行われなかったことです。体制が整っていなかったというのがその理由です。検査が行われない間は感染しているのかいないのかわかりません。このため、同じ部屋の人は感染者と一緒に過ごし、気づかないうちに感染してしまった可能性もあると指摘されています。

(感染拡大の理由③)。
そして3つ目の理由は乗客と接する乗員の感染が相次いでいることです。感染者のおよそ1割は乗員です。船内では症状がある人、それに高齢者や持病がある人からウイルスの検査が行われたため、乗員の検査は優先されませんでした。ここからさらに感染が拡がった可能性があるのではないか。専門家からは懸念の声があがっていました。
なぜ、ここまで感染が拡がったのか。船内の感染防止策は十分だったのか。
厚生労働省はきちんと分析しなければなりません。

(“隔離”のリスク)。
そして、船の中にとどまること自体にリスクがあることもわかりました。水際対策の“死角”ともいえます。

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乗客の8割は60歳以上。持病がある人も少なくありません。乗客の男性に電話で話を聞きますと、感染を避けるためマスクをして手洗いを徹底しているといいます。基本的には部屋に閉じこもっているためストレスがたまり、食欲もだんだんなくなってきたといいます。新型ウイルスに感染しないまでも体調を崩しかねない環境だと感じます。そして情報不足も深刻です。窓の外を見ると救急車で次から次へと乗客が運ばれていく。状況がわからず不安になるばかりだといいます。船内には医療チームが入り持病の薬が届けられるなど生活環境は徐々に改善されているようですが、乗客の男性は「とにかく隔離することが目的だと感じる。人間らしい生活ができるよう配慮してほしかった」と話します。政府は先週になって当初の対応を見直し、ウイルス検査で陰性だった高齢者などのうち希望者には船を降りて、政府が用意した施設で過ごしてもらっています。アメリカ政府はチャーター機を派遣し自国民をクルーズ船から帰国させるに至っています。それにしても、もう少し迅速な対応はできなかったのでしょうか。

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まずは感染者への対応を優先したという事情があります。クルーズ船で一気に感染者が確認されたため、横浜周辺の指定医療機関だけでなく、ほかの地域、それに指定医療機関以外でも受け入れを求めるなど、調整を急がなければならず、船内に残る人への対応が追い付いていませんでした。途中からクルーズ船に残る3000人を超える人を移す場所を検討しましたが、その確保は難しかったという事情もありました。船で過ごす人の生活を支援するという視点から、下船の選択肢を最初から考えておく必要があったのではないでしょうか。今後はこうした多くの人を受け入れる、環境が整った施設の備えも必要だと思います。

(各国クルーズ船の対応に苦慮)。
クルーズ船の対応には日本だけでなく他の国も苦慮しています。

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別のクルーズ船「ウエステルダム」について、新型コロナウイルスに感染した疑いがある乗客がいるとして、日本やフィリピン、タイなどが入港を拒否しました。2週間近くたった後、受け入れたカンボジア政府は、「感染は確認されなかった」としていましたが、下船した乗客が移動した先のマレーシアで感染が確認されたといいます。詳細は検証が必要ですが、クルーズ船に感染者がいた場合、入港が認められなければ治療が遅れることになりかねません。感染が船内で拡がるおそれもあります。それでも受け入れを拒否する理由は検疫の負担だと指摘されています。日本が受け入れた「ダイアモンド・プリンセス」のケースを見てもわかるように、数千人規模の検疫を行い、必要な医療を提供するのは容易なことではありません。クルーズ船の利用客が増え続ける一方、船の中で感染症などが発生した際の国際的な取り決めはありません。今回の問題をきっかけに、検疫の支援体制を構築するなど何らかのルールを決める必要があると思います。

(どう進める?感染症対策)。
クルーズ船の集団感染のケースを今後の対策にどういかせばいいのでしょうか。

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専門家からはクルーズ船をひとつの地域ととらえ、その中で感染が拡がったと見た場合、今後、とるべき対策の参考になるという指摘も出ています。まずは検査を迅速に行うこと。そしてクルーズ船の感染者の中には症状がない人、軽い人、そして重い人もいました。状態は一様ではないのです。いま、感染が確認された人はすべて入院しています。クルーズ船で感染者が増えたため、受け入れは指定医療機関だけでなく、一般の医療機関にも広げましたが、ベッドには限りがあります。リスクが高い人を確実に救うため場合によって軽い人は入院しないで療養してもらうといった先を見越した対策も必要になってくるでしょう。感染を拡げないためには手洗いや咳エチケットといったひとりひとりの協力も欠かせません。同時に、国民が不安にならないようにいま感染の状況はどうなっているのか、これからどうなるのか。政府は説明を尽くさなければなりません。感染の拡大が続く中、対策に死角はないのか、常に確認することが求められていると思います。

(堀家 春野 解説委員)

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