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「新型コロナウイルスで視界不良 日本経済の行方は?」(時論公論)

今井 純子  解説委員

日本の景気に、急ブレーキがかかっています。きょう発表された去年10月から12月のGDP=国内総生産は、大幅なマイナスに転じました。消費増税の反動が大きく影響していますが、この先も、新型コロナウイルスの影響で、雲が立ち込め視界が遮られている状態です。日本経済はこの先どうなるのか。きょうはこの問題について考えてみたいと思います。

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【景気回復のもともとのシナリオ】
これまで、日本経済をめぐっては、戦後最長の景気回復がなんとか続いている中、米中の貿易摩擦が改善したり、世界的な半導体の需要の落ち込みが底を打ったりして、先行き、明るさが見られるのではないか。消費増税の影響を乗り越えれば、景気の回復は続くのではないか。そのような見方がでていました。ところが、きょう発表されたGDPでは、消費増税の影響がかなり大きかったことが明らかになりました。その上、新型コロナウイルスの影響が広がり、日本経済は大きな試練に直面しています。

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【GDPの結果】
(推移)
まずは、消費増税の影響を見てみましょう。こちらは、GDPの推移。前の3か月と比べた成長率が、一年間続いたらどうなるかを示した年率の数字です。グラフのゼロより下だと、経済は悪化。上だと改善したことを示します。きょう発表された10月から12月の速報値は、マイナス6.3%。1年3か月ぶりの、しかも、大幅なマイナスでした。

(要因)
中身を見てみますと、
▼ 「輸出」が2期連続でマイナスだったのに加えて、
▼ GDPの半分以上を占める「個人消費」、そして、企業の「設備投資」が大幅なマイナスに転じました。
▼ 大型の台風の影響に加えて、消費増税前のかけこみ需要の反動で自動車や家電製品などの売れ行きが落ち込んだこと。そして、軽減税率やポイント還元制度に対応するためにレジを改修する動きが相次いだ反動などで設備投資が減ったこと。このように、消費増税の影響が大きく反映された形になっています。

(経済はそもそも弱いとの指摘も)
政府は、前回、消費税率が8%に上がった時と比べると、その反動は小さいという見解を示しています。ただ、事前のかけこみ需要が、大きくなかったのに増税後にこれだけ落ち込んだことで、そもそも経済の勢いが弱まっているのではないかとの見方がでています。

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【分かれる景気の見方】
もともと、日本の景気をめぐっては、本当に回復が続いているのか。見方は分かれていました。

(景気悪化を示す指標)
様々な指標から景気の現状を機械的にはじきだす「景気動向指数」は、5カ月連続で「悪化」が続いています。景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」の判断が、これだけ長く続いているのは、リーマンショックの時、以来のことです。

(政府は「回復」)
一方、政府は、「月例経済報告」で、景気は緩やかに回復しているという判断を変えていません。雇用や賃金は改善を続けており、消費や設備投資など内需は底堅く推移してきたという考えです。

(すでに景気後退でもおかしくない状況)
景気の回復・後退についての正式な認定は、専門家による研究会でもう少し先に行われることになりますが、今回のGDPで、頼みの消費や設備投資が大きな落ち込みを見せたことで、いつ、景気後退と認定されてもおかしくない。というか、すでに景気は後退していたと認定されてもおかしくない。経済の専門家の中からは、そのような声があがっています。

【先行きに影を落とす 新型コロナウイルスの影響】
そして、この先に一気に不安の雲を広げているのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。

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(大企業への影響)
国内ではすでに様々な影響がでています。
▼ 中国に集まっている多くの工場で、本格的な操業再開に時間がかかりそうなことから、日産自動車など一部の工場では、部品の調達が滞り、一時、生産をストップする事態となっていますし、
▼ 中国からの観光客が減っていることで、大手デパートでは、春節の期間に免税の売り上げが5~15%減りました。

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(NHKアンケート)
NHKが主な企業100社を対象に行ったアンケートでは、回答のあった81社のうち
▼ 経営にすでに影響がでている。と答えた企業が27%
▼ 今は影響がでていないけれど、悪影響を見込んでいるが6%、
▼ 事態が長期化すれば悪影響が及ぶおそれがあるが60%と、
経営への影響を懸念している企業が90%を超えました。
企業の間では、今年度の業績見通しを下方修正する動きも相次いでおり、労使交渉が始まっている春闘で、賃金引き上げにブレーキがかかったり、今後設備投資が落ち込んだりする懸念があります。

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(地域経済への影響)
影響は、大企業だけでなく、地域経済や中小企業などにも広がっています。
▼ 11日に閉幕した「さっぽろ雪まつり」では、訪れた人が去年より26%減りました。中国からの観光客だけでなく、地元の小学校など国内の観光客も減ったといいます。
▼ また、中国からの技能実習生に頼っている地方の企業や農家、介護施設などからは、新たに来る予定の実習生が日本に来られなくなるのではないか。そうなると事業が続けられなくなるという声が上がっています。

(中小企業の悲鳴)
▼ さらに、キャンセルが相次いだ中小のツアーバス会社の中では、社員の給料の削減に踏み切る動がでているほか、
▼ 東京商工会議所がきょう開いた、小規模な事業者を対象にした相談会では、「中国からの原材料の仕入れや生産に影響がでている」(製造業)「春に向けた商品が中国から届かない」(アパレル)「飲食店に来る国内の客も減っているため、2月に入って売り上げが30%落ち込んでいる」(食品卸)といった深刻な相談が相次ぎました。

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(国内感染拡大で広がる対策)
中国での混乱に加え、日本国内でも感染が拡大していることを受けて、企業の間では、
▼ 例えば、ヤフーがすべての社員に対してラッシュを避けて時差出勤をするよう推奨し、100人以上が集まる会議の開催や参加を原則禁止する。
▼ NTTがグループ20万人の社員に対して、テレワークや時差出勤の積極的な活用を呼び掛けるとともに、会議もできるだけテレビ会議や電話会議にするよう促すなど、
社員の感染を防ぐために対応をとる動きが急速に広がっています。政府もこうした対応を呼び掛けており、今後、イベントを中止したり、外出を控えたりする動きが強まることが予想されます。そうなると、経営体力が弱い中小・零細企業や、地域の経済に深刻な打撃を与える心配もでてきます。政府は、先週決めた緊急対応策に、中小企業の資金繰りを支援する対策を盛り込みましたが、目配りを続け、対策を強化することも必要になってくるかもしれません。

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(経済への混乱の影響は?)
経済への影響については、様々な試算がでていますが、例えばこちら。大和総研は、経済の混乱が一年間続くような場合、日本は、今年、マイナス成長に陥ると試算しています。ただ、3か月ほどで経済の混乱が収まれば、大きな影響は避けられる。事態が収束した後で、一気に増産態勢に入れば、ある程度は挽回できるし、観光客も東京オリンピック・パラリンピックに向けて増えることが期待できる。という見通しです。

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【まとめ】
それだけに、まずは、なにより、事態を「早く収束」させること。

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一時的に、人の流れや、企業の活動に支障がでることがあっても、少しでも早く感染の拡大を抑えることが最優先です。それができるかどうかに、人の命だけでなく、日本経済の行方もかかっていると言えると思います。

(今井 純子 解説委員)

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