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「アメリカ大統領選挙2020 波乱の幕開け」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ大統領選挙は波乱の幕開けとなりました。政権奪還をめざす民主党の候補者選びは、出鼻をくじく集計の大混乱。そうした異例の事態に加えて、“気鋭の若手”ブティジェッジ前サウスベンド市長がトップ争いに躍り出た一方で、有力と目されたバイデン前副大統領は初戦から躓いたかたちです。そんな民主党をしり目にトランプ大統領は、再選に向けて共和党の支持を固める一方で、無党派層への浸透もはかろうとしています。11月まで長丁場となる選挙戦はどうなるか?白熱する攻防の行方を考えます。

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ポイントは2つ。

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▼ひとつは“中道”対“左派”。民主党内の路線対立は混戦をどこまで長引かせるか?
▼もうひとつは挑戦を受ける側のトランプ大統領。その支持率の好調ぶりは本物か?
まず民主党の情勢から見ていきましょう。

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数々のドラマを過去にも生んできた“大事な初戦”を誰が制するか?世界の目がアイオワに注がれる中で起きたのは、まさかの集計トラブルでした。党員集会の翌日になって発表された途中経過がこちらです。
集計率71%の時点でトップに躍り出たのは、このアイオワからスタートダッシュを狙っていたブティジェッジ前サウスベンド市長。次いでサンダース上院議員が僅差で追いかけています。
残りの集計次第で順位は入れ替わる可能性もありますが、ここから読み取れるのは、全米規模の世論調査で常にトップを走ってきたバイデン前副大統領が予想外にふるわず、現在4位に沈み、期待どおりの結果を得られなかったことでした。
バイデン氏は政治家として半世紀近いキャリアを持つ中道派の重鎮です。大統領選挙に今回で3度目となる挑戦に踏み切ったのは、「民主党内で左派の候補が台頭すれば中道派を遠ざけ、トランプ大統領の再選を助けかねない」「この人ならきっとトランプ大統領に勝てるはず」そうした声に推されたからでした。ところが、同じ中道派の若手ブティジェッジ氏のほか、アイオワの隣ミネソタ州選出の女性上院議員クロブシャー氏が健闘した影響もあって、中道票を奪われたかたちです。

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中道派のピート・ブティジェッジ氏は最年少の38歳。21世紀になって成人した“ミレニアル世代”から初めて頭角を現してきた候補です。いまの民主党内を分ける中道と左派の路線対立を解消し、政権奪還のため党内の融和を訴えます。
これに対して、左派のバーニー・サンダース氏は最高齢の78歳。前回4年前の大統領選挙でも、当時の本命候補と目された中道派のヒラリー・クリントン氏を最後まで苦しめた現職の上院議員です。格差是正に向けて急進的な改革をめざす“民主社会主義者”を自称し、徹底的な弱者救済を訴えます。
一見、対照的にも見えるこのふたり。ともに若者を支持基盤として、SNSを駆使して巨額の選挙資金を集めていることなどは共通しています。今回の大統領選挙は、ミレニアル世代以降の若い有権者がおよそ4割を占め、これまで社会の中心を担ってきたベビーブーマー世代に代わって主役になる“節目の選挙”とも言われています。このため、ふたりのトップ争いは、そうした若い世代の声を反映した結果と言えるかも知れません。

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もっとも民主党の候補者選びは始まったばかりです。アイオワ州に割り当てられた候補者指名に必要な代議員は、全米の1%に過ぎません。来週は北東部ニューハンプシャー州の予備選、その後もヒスパニック系の有権者が多い西部ネバダ、黒人の有権者が多い南部サウスカロライナと、序盤戦が続きます。バイデン氏は民主党が支持基盤とする黒人票にも強いとされていますから、まだまだ挽回は十分可能です。
当面の焦点は、来月3日、カリフォルニアやテキサスなど多くの州で候補者選びが集中するスーパーチューズデーです。ここから今月中の序盤戦には参加しない大胆な戦略で、いま支持率を上げている大富豪、ブルームバーグ前ニューヨーク市長も途中参戦してきます。スーパーチューズデーが終わった段階で代議員のおよそ4割が固まりますから、そこで候補者が絞り込まれていなければ、混戦はさらに長期化し、ひょっとすると民主党の大統領候補を正式に選出する7月の党大会まで決着がもつれ込むかも知れません。

では、そんな民主党陣営に、トランプ大統領は、どのように対抗するでしょうか?

向こう1年の施政方針を示すことしの一般教書演説は、トランプ大統領にとって、さながら再選に向けた決意表明の場となりました。

(トランプ大統領の声)「われわれは少し前には想像もつかなかったペースで前進している/決して後戻りはしない!」

「アメリカ経済は絶好調」。内政や外交・安全保障も含めて、みずからの実績を最大限アピールする一方で、この同じ議会で民主党と激しく対立している弾劾裁判には触れませんでした。演説は前向きなトーンで貫かれ、いつもの攻撃的なスタイルは極力封印。教育問題や医療保険制度の充実など、民主党のお株を奪うかのような政策にも力を入れると訴えました。

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こちらは、トランプ大統領の就任以来3年間の支持率の推移を示したグラフです。これまで高くもなく低くもなく、安定しているのが特徴でしたが、最新の世論調査では、就任後最高の49%まで、じりじり上昇しています。

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同じ世論調査を円グラフにしたのがこちらです。支持と不支持はほぼ拮抗しています。そこに変化の余地はあるでしょうか?今度は党派別に見てみましょう。
共和党支持層の支持率は、年明けの前回の調査より6ポイント高い94%と、就任後最高を記録した一方で、民主党支持層では、前回より3ポイント低い7%にとどまっています。党派の違いによる分断は、ほとんど極限に達していることがうかがえます。
注目は、真ん中の無党派層です。支持率は前回より5ポイント高い42%。なぜ年明け以降共和党支持層だけではなく無党派層でも大統領の支持率が上がっているのでしょうか?
原因として考えられるのは、好調を維持しているアメリカ経済と雇用情勢。そして議会下院で去年暮れ、民主党がトランプ大統領の弾劾訴追に踏み切ったことへの“反動”です。
弾劾裁判は間もなく議会上院で共和党の賛成多数で無罪の評決が下される見通しです。それを機にトランプ大統領の再選キャンペーンは、無党派層を取り込むため反転攻勢に入るでしょう。

ただ、相手候補も決まっていない今の段階でトランプ大統領が再選を果たせるかどうか?確たる見通しを論じるのは、ちょっと時期尚早です。

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アメリカ大統領選挙で長年引用されてきた格言に、「民主党支持者は恋に落ち、共和党支持者は歩調を合わせる」というものがあります。民主党は、例えばジミー・カーター氏やビル・クリントン氏、バラク・オバマ氏のように、経験や実績より将来の可能性にかけて
まるで恋に落ちたかのように大統領候補を選ぶ傾向があり、共和党は、感情より秩序を重んじて、党として決めた候補のもとに結束する傾向があるという意味です。無論例外もありますが、そのような傾向に沿って候補を選ぶと、不思議と成功するケースも多いと言うのです。これを今回の大統領選挙に当てはめますと、トランプ大統領は共和党の大統領候補として指名獲得は確実ですが、民主党は恋に落ちるような候補にたどり着くでしょうか?いまだその成否はわかりません。アメリカ大統領選挙は、さらなる波乱の予感もはらみながら本格化しています。

(髙橋 祐介 解説委員)

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