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「原発処理水問題 説明をつくせ」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島の漁業者からはいかりの声。
福島第一原発廃炉の当面の最大の課題、放射性のトリチウムを含む大量の処理水をどうするのか。国の有識者会議は、海や大気への放出が現実的とした上で、海への放出の方が確実だとして、海洋放出の優位性を強調した提言。
今後政府が、最終的な処分方法を決めるが、風評被害をどう抑えていくのか有効な対策は示されておらず、先は見通せない。政府や東電が処理水問題にどう対応すべきか水野倫之解説委員の解説。

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今回の提言に対して、相馬市の底引き網漁船団体の代表は、
「我々の海は本当に貴重な財産で漁業者の命がかかっている。リスクがあるけど仕方がないで済まさないでほしい」といかりの声を上げ、あくまで海への放出に反対する考えを強調。

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このトリチウムを含む処理水とは一体どんなものか。
第一原発では地下水が流れ込んだり、破損部分から雨水が入って溶けた燃料と混じり、いまだに毎日190tの汚染水。
東電はこれをALPSで処理。
中の特殊な樹脂によって、汚染水の中のほとんどの放射性物質が吸着されて基準以下にすることができると東電は説明。
しかし唯一トリチウムだけは、水素の仲間で水の一部として存在するから除去できない。東電は浄化出来ているか確認するため、処理水を分析室に運び詳しく調べる。処理水は普通の水に見える。トリチウムは天然にも存在し放射線のエネルギーは比較的小さいとされる。仮に体内に取り込んでも水として存在し速やかに排出されるため、濃度が低ければ健康への影響はほとんど考えられないと政府と東電は説明。
しかし分析室で測定されたトリチウムの濃度は平均で100万㏃と基準の16倍にのぼるため、東電はすべてタンクに。
その量はおよそ120万t、1000基近いタンクにためるも、1週間でタンク1基が満杯になるため、今も作り続ける。
しかし今後は、溶けた燃料の保管場所も必要で敷地に余裕がなく、このままでは2022年の夏にタンク貯蔵は限界を迎えると、政府と東電は説明。

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そこで政府の専門家会合が3年前に海や大気への放出、また地下深くに埋設するなど5つの案を提示。
これに加えて今回の有識者の会合で風評被害も考慮して大型のタンクで長期保管する案も加えて議論を進めた結果、海や大気に放出する方法が現実的で、海への放出が確実だと提案。

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そのおもな理由は実績。
トリチウムは原発を運転すると必ず出てくる。このため、これまでも国内の原発はもちろん海外の原発でも基準以下にして海への放出。
また大気への放出も40年前にメルトダウン事故を起こしたアメリカのスリーマイル島原発で行われた。
またそれぞれ被ばく影響を試算したところ、いずれも自然の放射線の1000分の1以下で影響は十分に小さいことも、この2案が現実的とされた理由。
ただ放出後のトリチウムの監視については、海洋放出は比較的容易に行えるのに対して、大気放出は国内では監視の実績はなく風向きによってばらつきが大きく拡散の予想がしにくいとして、海洋放出の方が確実にできると、優位性を強調。

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今回の提言で、処分方法について技術的には絞られてきたようにも。
しかし実際に処分できるかどうかは別問題。
地元福島の人たちの理解や了解が絶対に必要だから。
事故で福島県内には大量の放射性物質が飛散し、一時は16万を超える人が避難。今も帰還困難区域が残る。
また海には事故直後に高濃度の汚染水が放出された。
福島県産の食品は、放射性物質が検出されなくなっても風評被害で売り上げがなかなか元に戻らない。
いくら基準以下に薄め、健康への影響は考えにくいと言われたとしても、福島の人たちにとってはもうこれ以上の放射能はまっぴら。

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今回の提言を受けて、今後は政府が最終的な処分方法や時期を決めていく。
その際重要なのは、まずは地元福島の人たちの意見を十分に聞くこと。
政府はどんな態勢で、いつから誰を対象に、どんな方法で意見をきくのか、まずは具体策を早く示していかなければ。

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中でも福島の漁業者との対話は必須。
事故で福島県沖の漁は全面自粛となり、その後放射性物質の検査で安全性が確認された魚から試験的な漁が続けられ、現在出荷制限されているのは1種類だけ。
漁業関係者は各地で安全性をPRするイベントを開くなど風評払拭の取り組みを続けているが、売り上げはなかなか伸びず、水揚げは事故前の15%。
こうした中、海へ放出されれば取り組みが台無しとなり、死活問題だと。
まずは漁業者との意見交換を、その考えが広く伝わるよう公開の場で行って行かなければ。

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ただこの問題は福島県だけで説明し理解を求めても状況は変わらない。
漁業者が反対するのは、福島の魚をためらう消費者がいるからで、全国の消費者への説明も重要。
消費者庁の調査では福島県産の食品をためらうという人の割合は当初は20%近く、去年の段階で12.5%まで減少。しかしいまだ一定の割合はいる。
また東大のグループが行ったアンケートでは国が処理水を海や大気に放出する可能性を検討していることについて53%が知らないと回答。処分方法を決める前提となる国民への周知が進んでいない。

なので全国の消費者に、この処理水問題を詳しく知ってもらい、考えてもらう必要あり。
そのためにも政府は主要都市で消費者団体なども交えて説明や意見を聞く機会を設けていく必要がある。

(水野 倫之 解説委員)

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