ふるさと納税をめぐって、国と自治体が全面的に対立する異例の法廷闘争。
大阪高等裁判所は30日、大阪・泉佐野市を制度から除外した総務省の判断が違法ではなかったとして、国に軍配をあげました。
一連の対立からは、利用者が急拡大するふるさと納税の問題と共に、地方自治の課題も見えてきます。
【何がクローズアップされたのか】
(清永)
30日の判決は「過度の返礼品で寄付金を募集することは制度の趣旨に反する」などと指摘し、泉佐野市を除外したことを違法ではないと結論付けました。
泉佐野市の千代松大耕市長は会見で「受け入れがたい」と述べ、最高裁判所に上告する考えを示しました。
この泉佐野市と総務省の一連の対立では、主に2つの点がクローズアップされました。
1つは「ふるさと納税の仕組みとその課題」。そしてもう1つが「国と地方の関係」です。まずはこのふるさと納税の問題点から、考えてみましょう。
【ふるさと納税制度と対立の経緯】
(竹田)
まず、なぜ、こうした事態になったのでしょうか?
それはやはり、ふるさと納税の特殊な仕組みが背景にあります。
ふるさと納税の本来の趣旨は、納税者が、いつも地元に収めている税金。この一部を、ふるさとや、応援したい自治体に振り向けてもらおうというものです。
利用者は年々急激に増えて、今や年間で5000億円を突破しています。
ではなぜ、これだけ増えるのか?
それは、お得な返礼品がもらえるからです。
ふるさと納税をもらいたい自治体が、豪華なお礼の品、返礼品を出すようになって、肉や魚やお酒、一時は豪華な輸入製品や金券までそろえて、まるで税金で買える便利な通販サイト、という様相を呈してきました。
この結果、いい返礼品がそろっている自治体にはふるさと納税が集中する一方、
首都圏など都会の自治体では、税金が流出して住民サービスが脅かされる事態となってきました。
このため、総務省は制度を見直して、返礼品は、ふるさと納税額の3割以下、そして地場産品に限定、ということを求めます。
しかし泉佐野市は、これに従わず、逆にアマゾンのギフト券「100億円分プレゼント」、などという刺激的なキャンペーンまで展開しました。
そして泉佐野市だけで、直近のデータではふるさと納税全体の1割のお金を集めるという事態にまでなりました。こうしたことから、総務省は、去年6月、泉佐野市をふるさと納税制度から除外し、締め出す決定を行いました。
国と泉佐野市の全面対決が始まった、というわけです。
【委員会への審査から提訴へ】
(清永)
締め出された泉佐野市は、指定を求めて第三者機関である「国地方係争処理委員会」に審査を申し出ます。
返礼品競争の過熱を受け、総務省は法律を見直すまで、自治体への「通知」で返礼品の自制を求めていました。
平成29年の通知が「返礼品は寄付額の3割以内に」そして一昨年(平成30年)の通知は「地元の特産品などに限ること」といった内容です。
ただ、通知はあくまでも「助言」です。強制力はありません。法律を改正して返礼品の規制などを設けたのは、その後、去年のことでした。
問題視された泉佐野市の返礼品は法改正前のことで、市は「さかのぼって判断するのはおかしい。当時の取り組みは適法だった」と主張していました。
そして委員会は去年、「不当なおそれがある」と総務大臣に再検討するよう勧告したのです。
(竹田)
この勧告については、実は総務省の中でも、痛い所をつかれたという受け止めはあったんです。
しかし、総務省的に言えば、やりたい放題やった所をそのまま復帰させる、というのでは、制度が持たない、という判断があったわけです。
(清永)
総務省はさらに異例の対応に出ました。再検討した結果、委員会の判断の内容を認めず、泉佐野市の除外を維持し続けたのです。
市は当然反発。大阪高裁への提訴となりました。委員会の審査を経たため、法律の定めで高裁が1審となりました。
【争点の判断と背景や影響】
(竹田)
そうすると、裁判でも引き続き焦点となるのは、総務省が、法律を改正する前の
いろんなことを考慮して泉佐野市を除外したことをどう見るか。それから通知によって規制しようとしたことをどう見るか、なんですが。ここはどうだったんでしょう?
(清永)
判決は法改正の前に「過去の運用を考慮することは問題ない」と判断しました。そして当時の総務省の通知について「あくまで目安を示したものだ。泉佐野市の返礼品は極端なもので是正すべきだったが、従わないことを理由に制裁を行うわけではない」などと指摘しました。
ただ、判決はこう判断しているわけですが、通知という形で国が自治体を事実上従わせていることについては、過去にも繰り返し指摘されています。
泉佐野市は今回、これに公然と反対して「地方自治が阻害される」と主張してきたわけです。一方で仮に泉佐野市が勝訴すれば、今度は通知を自主的に守ってきた全国の自治体から「従った方が損をする」と不満が出たでしょう。つまり、どちらも納得できないわけです。
これがもし、最初から法律を十分整備してスタートすれば、問題は起きなかったはずです。ここに根本的な原因があったのではないでしょうか。
さらに今回、総務省は「国地方係争処理委員会」の判断を受け入れず、裁判となりました。
この「委員会」は地方自治体と国が、対等な立場で紛争を解決するようにと、平成12年に設けられた総務省の第三者機関です。その判断内容を、いわばお膝元の総務省自身が認めず争い続けました。これも、勧告を受けて話し合いで解決ができなかったのかと感じます。
【浮き彫りになった数々の課題】
(清永)
今回の対立を通じて、他にもふるさと納税をめぐる数々の課題が浮き彫りになったのではないでしょうか。
(竹田)
今回、改めて鮮明になったのは、ふるさと納税の「理念と実態の乖離」です。
最初にも触れましたが、本来の理念は、納税者が自分の自由な意思で、ふるさとなどの好きな自治体を応援する、というものです。
しかし、実態はどうでしょうか?
インターネットのサイトでお得な返礼品をさがしてそれがもらえる自治体に
ふるさと納税をする、という人が圧倒的に多いのではないでしょうか?
しかも、お金持ちほど、たくさん返礼品がもらえるという事実上の「金持ち優遇税制」というべき制度になっているわけです。
これは、返礼品の割合が5割から3割になろうが何ら変わりはありません。
ここを変えないと、ゆがんだ返礼品競争はなくなりません。
一つのヒントは、災害が起きた時、多くの人が、被災した自治体に返礼品なしで
ふるさと納税をしていることです。また自治体の中には、日頃から返礼品は出さずに、たとえば、こども食堂への支援など、具体的な使い道をハッキリ示してふるさと納税を募っているケースがあります。
ただ返礼品を規制するだけでなく、ふるさと納税の使い道をキチンと情報公開して透明度を上げる。これが今後、ふるさと納税に必要なことだと思います。
【納得できる制度の実現を】
(清永)
ふるさと納税の理念は、多くの自治体も理解しているはずです。
もし、事前に自治体と十分な議論を重ねた上で、法律を整備してからスタートしていれば、ここまでこじれることもなかったでしょう。
ふるさと納税は地方の協力あってこその制度です。国は謙虚な姿勢で自治体と対等な立場で話し合うことの大切さを忘れないでほしいと思います。
(竹田 忠 解説委員/清永 聡 解説委員)
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