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「蔡英文総統再選 2期目の課題は」(時論公論)

加藤 青延  専門解説委員

台湾の総統選挙が先週末行われ、過去最多となる800万を超える票を獲得した与党民進党の蔡英文総統が再選を果たしました。そこで、今回の総統選挙の結果と、中国が受けた衝撃、そして蔡英文政権の2期目の課題について考えてみたいと思います。

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【VTR:選挙風景と各候補】
台湾の総統選挙には、与党民進党の現職、蔡英文(さい・えいぶん)氏と、南部高雄市長で最大野党国民党の韓国瑜(かん・こくゆ)氏、それに、野党親民党の宋楚瑜(そう・そゆ)氏が立候補し、先週11日に投開票が行われました。

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その結果、民進党の蔡英文氏が817万票余り、国民党の韓国瑜氏が552万票余り、親民党の宋楚瑜氏が60万票余りとなり、蔡氏が、韓氏に260万票余りの差をつけて圧勝しました。
800万票以上というのは、1996年台湾で民主的な総統選挙が始まって以来最も多い得票になります。
再選を果たした蔡英文総統は次のように述べ、勝利を宣言しました。
【VTR:蔡英文の勝利宣言】
「今回の選挙には重要な意味がある。主権と民主主義が脅威にさらされる中、台湾の人たちが自分の気持ちを主張したかったからだ。」

蔡英文氏にとって強い追い風となった動きとしては、主に次の三つが挙げられます。

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▽一つは習近平国家主席が去年初めに「一国二制度による祖国統一」を呼びかけ、武力行使も放棄しないという強硬な姿勢を示したことです。これによって台湾の人たちの反発が、中国とは一定の距離を置く蔡英文支持につながりました。
▽二つ目は、アメリカの蔡英文政権支持の動きです。アメリカは台湾に、戦車や戦闘機を売るなど、台湾の民主主義を強く支援する姿勢を強めました。
▽三つめは、一国二制度で高度な自治が保証されているはずの香港で大規模なデモが半年間続き、これに対して香港当局が強硬な姿勢を鮮明にしたことです。
【VTR:香港の弾圧】
香港では、容疑者を中国本土に引き渡し可能にする「逃亡犯条例の改定案」を当局が無理やり成立させようとしたことをきっかけに大規模なデモが起こりました。しかし香港当局は大量の警察官を動員して、力でデモを抑え込むという強硬な姿勢を示しました。実弾を発砲し、若者たちが次々と連行される光景をテレビで目の当たりにした台湾の人たちは、香港のような「一国二制度」での台湾統一に強く反対してきた蔡英文氏をますます支持することになったのです。

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実際、各種世論調査では、おととしの11月の統一地方選挙で与党民進党が大敗したころには、蔡英文総統の支持率は、30%を切るほどの厳しい状態でした。しかし習近平演説があった去年1月に上昇の火が着き、香港のデモが始まった6月には40%台にまで回復しています。さらにアメリカの武器売却や香港のデモが警察官によって厳しく抑え込まれるようになった夏から秋にかけて支持率はまたまた上昇、選挙直前には50%前後かそれ以上の支持を得る形になったのです。

一方、野党国民党の韓国瑜氏の大きな敗因は何でしょうか?

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韓国瑜氏は「庶民の目線」で政治をするという点で当初人気を集めましたが、終盤にはそのような人気にも陰が差したように見えました。
また、中国との関係を重視することが、かえって反発をかい大きな逆風になったといえます。
そしてもうひとつ、母体である国民党の中枢部の足並みがそろっていないように見受けられたこともありました。総統選の予備選、国民党の候補者選びで韓国瑜氏と対決した財界の大物が、敗北後にすぐに離党届を出し、また、党の最高幹部らが団結して戦うイメージにも力がかけ、どこかぎくしゃくしている感じがしたという指摘も出ています。
その意味で、今回の総統選挙の敗北を教訓に、結束を取り戻し体制を立て直せるのか、それとも瓦解の方向に向かうのか、国民党にとってはこれからが大きな正念場になりそうです。
さて、今回の総統選挙では蔡英文総統が圧勝しましたが、同時に行われた国会にあたる立法院選挙は、なんとか過半数を維持し逃げ切ったという印象を受けました。

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実は、改選前の議席数は、定数113のうち、与党民進党が68、野党国民党が35と圧倒的多数を占めていました。ところが今回の選挙によって、与党民進党は61と7つも議席を減らし、野党国民党は逆に38と3つ議席を増やしました。また、去年新たに結成された台湾民衆党が5議席を獲得し、第2野党に躍り出ました。民進党でも国民党でもない」第三の勢力として売り出し中で、今後の動きが注目されます。

さて、今回の総統選挙で、蔡英文総統が圧倒的得票で再選を果たしたことは、とりもなおさず、台湾の有権者が、中国による統一にきっぱりと「ノー」を突き付けた形になりました。
では、ここからはその中国側が今回の総統選挙をどうとらえていたかを考えたいと思います。
中国は今回の総統選挙の期間中から非常に神経をとがらしてきたといえます。
NHKが海外に発信しているテレビ国際放送のニュースもその影響を受けました。
【VTR:NHKの国際放送】
先週末、台湾総統選挙でそれぞれの立候補者が自ら投票をする場面では、蔡英文候補が一票を投じた画面が遮断されて真っ黒になりました。ところがそのあと続いて中国が支援しているとされる韓国瑜候補が一票を投じる場面になると画面が復活し、露骨な差をつけられました。
中国の主要メディアは、蔡英文総統の再選について、国営テレビの主要ニュース番組で一切触れないなど、非常に簡単な報道をするにとどまっています。
また、国営の新華社通信は、「狂ったような金のバラマキで票を買った」などと批判する論評記事を配信し、中国政府が再選にいら立ちを強めていることをうかがわせました。

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中国外務省の耿爽(こうそう)報道官はコメントを発表し、アメリカなど主要各国が蔡英文総統の再選に祝意を表明したことに、「『一つの中国』の原則に反しており、強い不満と断固とした反対を表明する。台湾といかなる形であれ公的なやり取りをすることに反対する」として各国に厳重抗議したことを明らかにしました。

最後に、少し先ですが、ことし5月にスタートする蔡英文総統の2期目の課題について考えたいと思います。やはり最大の課題は、中国との距離をどう置くかに尽きると思います。

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今回、蔡英文総統が圧倒的な勝利で2期目を果たしたことを、中国が快く思っていないことは明らかです。しかし、中国との関係がさらに悪化することは、台湾にとって必ずしも良いことだとは限りません。中国との経済交流が大きな打撃を受たり、台湾海峡をはさんで安全保障面での緊張が高まれば、人々の暮らしにも少なからず影響が及ぶ可能性があります。それをどううまく切り抜けてゆけるかが最大の課題になるでしょう。
一国二制度による統一は受け入れられない。しかし、台湾にとって巨大な市場であり投資先でもある中国と完全に絶縁するわけにもゆきません。総統選挙で再選を果たした蔡英文氏は、これまで以上に巧みな政治手腕が求められることになると思います。

(加藤 青延 専門解説委員)

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