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「生涯現役のススメ 全世代型社会保障 中間報告」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

人生100年時代、大事な社会保障制度を維持しながら、
どうやって我々の生活を支えていくのか?
安倍総理大臣が「最大のチャレンジ」と位置付ける
全世代型社会保障検討会議が中間報告をまとめました。

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【 何が焦点か? 】

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まず、議論の大きな柱は、社会保障の支え手を増やす、ということです。
そして、ギリギリまで調整が続いたのが迫る2022年問題への対応でした。
では、その結果、社会保障はこれからも安心、
というメッセージをチャンと打ち出せたのか?
実は、残念ながら、最も重要な問題では関係者から異論が噴き出して、
抜本改革に至らず、課題を残す形になっています。

きょうは、この3点について考えます。

【 支え手を増やすとは? 】
まず、支え手を増やすとは、どういうことなのか?

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日本の人口構成を見てください。
社会保障というのは、この真ん中の生産年齢人口、つまり、現役の人たちが
働いて、稼いで、税金や保険料を納めて、
そのお金で高齢者の年金や医療や介護を支える、という仕組みになっています。
今は、若い人がほぼ二人で、一人の高齢者を支える、という割合です。

それが、2050年ごろには、少子高齢化がさらに進んで、
ほぼ一人が一人をささえる計算になります。
これでは、若い人の負担が、重くなりすぎます。

では、どうすればいいのか?
そこで、支えられる側の人に、支える側にまわってもらう。
つまり、意欲のある人、働ける人はできるだけ長く働いてもらって
社会保障をささえてもらおう。
それが、支え手を増やす、という意味です。

【 具体策は? 】
そのために、この報告書は二つの対策を打ち出しています。

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一つは、いわゆる“70歳雇用”です。
現在、国は、希望する社員は全員、65歳まで雇用するよう、
企業に対し、法律で義務づけています。
この仕組みは今後も継続します。

その上で、新たに希望者に対しては70歳まで働けるよう、
企業に努力義務を課す、というものです。

ただ、この働く、という内容が65歳までなら、
会社が雇用契約を結ぶ必要がありますが、
70歳までの新たな制度では雇用契約だけでなく、
たとえばフリーランスとして働いたり
社員が起業することを会社が支援したり、という
いろんな選択肢を用意することにしています。
厚生労働省の審議会で、制度の詳細を詰めていて、
来年の通常国会に法案を提出する予定です。

▼そして、この雇用と表裏一体の関係にあるのが、年金制度です。
現在、年金は、65歳から受け取ることを原則に、制度が設計されていますが、
実は本人の選択で、60歳から70歳までの間で
いつから受け取りを始めるか、選べるようになっています。

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そしてもらえる年金の額も、最大限、前倒しして、60歳からもらい始めると、
65歳の時より月額で30%少なくなります。
逆に、70歳からにすると、月額は42%増える計算です。
今回の報告書では、この受け取り開始の選択の上限を、
70歳から、さらに引き上げて、75歳まで伸ばします。
そしてもらえる年金の月額も、それに応じて増やすとしています。

【 迫る22年問題 】
次にこの会議で、大きな焦点となったのが迫る2022年問題です。

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どういうことかというと、さきほどの人口構成をもう一度見てください。
この黄色の、人口の最も大きなかたまりが、いわゆる団塊の世代です。
このひとたちが、2022年から、
次々と75歳以上になって、後期高齢者になっていきます。
つまり、あと2年ほどで、医療や介護にかかる費用が大きく増え始めるわけです。
この膨れ上がる費用を、どうやって負担するのか?

ここで、報告書が明確に提示したのが「応能負担」という考え方です。
「応能負担」~能力に応じて負担する
つまり、年齢によって負担の割合を一律に決めるのではなく、
たとえ高齢者であってもお金のある人、所得が一定以上ある人には
もっと負担をしてもらう。
一方、所得の低い人は、少ない負担ですむ、そういう考え方です。

中間報告は、この考えに沿って75歳以上の医療費の窓口負担を、
今は原則1割の負担ですが、
一定以上、所得のある人は、2割にひきあげると、明記しています。

【 抜本改革 及ばず 】
このように、中間報告は
雇用と年金、医療で、大きな見直しを打ち出していますが、
実は今回、最も重要な改革が、踏み込み不足になっています。
それが、厚生年金の適用拡大です。

この問題、一言でいえば、
本来、厚生年金に入るべき人が厚生年金に入れてもらえず、
国民年金に追いやられている、とういう話しです。

そもそも厚生年金と、国民年金は制度の作りが全く違います。
厚生年金は、雇われて働く人の年金で
定年があって、それ以降は基本、収入がなくなるので
年金で暮らせるように、会社が保険料を半分負担して、年金を厚くしている。

一方、国民年金は農業や漁業や商店主など、定年がなく、長く働ける人が対象で
年金も、厚生年金のように厚くはありません。

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厚生年金には原則、週30時間以上働いている人が加入しますが、
最近、この条件を週20時間以上に拡大しました。
しかしこの拡大が、義務として適用されるのは従業員数が501人以上の企業だけです。
このため、いまだに多くの人が厚生年金に入れず、
国民年金に個人で加入しています。

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今や国民年金加入者の4割は、こうした雇われている人たちです。
このままだと、将来、低年金、低所得になる懸念があります。

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今回の会議のヒヤリングでも、連合の神津会長が、
「すべての労働者が、厚生年金に入れるようにすべきだ」と、
規模要件の撤廃を求めました。
これに対し、日本商工会議所の三村会頭は、
「短時間労働者が多い、小売りや、卸売り、飲食業の負担を非常に大きくする」
と述べて、慎重な対応を求めました。
労使、それぞれの代表の意見が大きくわかれました。

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結局、報告書では、この規模要件は撤廃するのではなく
従業員数をまず、101人以上まで下げて
その後、一定期間を置いて、51人以上まで下げる、
という二段階で進めるとしています。
もし要件を撤廃すれば、厚生年金に入れる人は125万人増えますが
これだと拡大する対象者は、半分の65万人にとどまります。

非正規労働者が増えるなか
務め先の従業員が多いか少ないかで年金が適用されるかどうかが決まる、
ということがこのまま続いてもいいんでしょうか?

全世代型社会保障とあえて銘打つのなら、
今後、中小企業の経営にも配慮しながら
どのような支援策を用意して働く人の年金を拡大し、支え手を増やすのか
その道筋も示す必要があると思います。

(竹田 忠 解説委員)

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