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「年金改革 低所得高齢者の増加を防ぐために」(時論公論)

藤野 優子  解説委員

次の年金制度の改正案の内容が見えてきました。
少子化と長寿化で今後先細りしていく公的年金。
今回の見直しではいくつかの柱がありますが、大きな柱は「低年金対策」です。

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▼先細る年金と今後の低所得高齢者増加への懸念
▼焦点だったパート労働者の厚生年金加入はどこまで広がるのか?
▼そして、高齢期の低年金低所得を防ぐための残された課題について考えます。

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【先細る年金と低所得高齢者増加への懸念】
では、なぜ年金は先細りし、将来の低所得高齢者の増加が懸念されているのか。

それは、働く世代の減少が進めば保険料収入が減少し、高齢者の年金にあてる財源も限られてくるためです。
今の年金制度は働く世代が負担する保険料などを、そのまま今の高齢者の年金財源にあてる仕組みとなっています。

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これから働く世代の減少が進めば、保険料収入の減少は避けられません。

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このため、政府は、年金の給付水準を徐々に下げていく方針で、今年8月に公表された厚生労働省の推計では、長期の給付の引き下げによって、30年後には厚生年金はおよそ2割、国民年金はおよそ3割目減り、つまり年金水準が下がる見通しです。

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年金水準を下げなければ、現役世代の負担が重くなり、さらに少子化が進み、経済の成長も維持できなくなる。そうした危機感から給付の引き下げを決めた政府。
しかし、ここまで年金の水準まで下がれば、将来低所得の高齢者が増えてしまう。
特に、受取額の少ない国民年金が3割目減りすると、貧困を防ぐために高齢期の基礎的な生活を下支えするという機能が果たせなくなるのではないか。そうした指摘が専門家から出ています。

国民年金の受取額が少ないのは、厚生年金とは制度の成り立ちが違うことがあります。国民年金は、ひと月の保険料が一人あたり16000円あまり。受け取る年金額も40年満期で65000円。
定年のある会社員の加入する厚生年金は、企業と折半で保険料を負担し、現役時代の収入に応じた年金を受け取れるのに対して、もともとは、定年がなく働き続けることができる自営業者のためにつくられた制度でした。しかも、現役時代に保険料が払えなかった期間がある人は年金額が少なく、ここに給付の引き下げがかかってくるのです。

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そして、加入者の状況も変化しています。今、国民年金の加入者の4割は、厚生年金に加入できないパートや非正規で働く会社勤めの人。シングルマザーや高齢者など自らが世帯主という人も多く、昨年度は、低所得で保険料免除や支払い猶予の人が4割にのぼっています。年金は納めた保険料に応じて受取額が決まりますので、こうした人は、このままだと少ない年金しか受け取れず、将来、低所得の高齢者が急増する恐れがあるのです。

このため、政府は、今回の見直しで、本来、厚生年金に入るはずの会社勤めの人たちが、パートで働いていても、もっと厚生年金に移れるように、厚生年金の加入基準を緩和し、将来的には、会社勤めの人はみな社会保険に加入する「勤労者皆保険」を目指そうしているのです。

【パートの厚生年金加入はどこまで?】
では、今回、政府は、厚生年金の加入基準をどう見直そうとしようとしているのか。

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今回、見直しの対象となっているのは、▼週の労働時間が20時間以上30時間未満の人たちです。
今の加入基準は、従業員501人以上の大企業で働く、月収8万8千円以上などの人に、厚生年金への加入が義務付けられています。

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これを、今回の見直しでは、中小企業で働くパート労働者まで段階的に対象を広げ、
5年後の2024年10月には「51人以上の企業」で働く人まで拡大する方針で、政府・与党内の最終調整が進んでいます。

この見直しが実現すれば、新たに65万人のパート労働者が厚生年金などの社会保険に加入する見込みで こうした人たちは、将来の年金の受取額が増えることになります。

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例えば月収88000円の人の場合、国民年金だと満額でも月65000円だったのに対し、厚生年金に加入して仮に20年同じ月収で働いたとしても、月々の年金額は9000円上乗せされます。
また、保険料の負担も、国民年金だと月々16000円ですが、厚生年金だと収入の18.3%の保険料を企業と折半しますので、自分で負担する保険料は8000円に減ります。

また、パート労働者の厚生年金加入が進むと、企業からの保険料収入が増えることもあり、将来の給付水準を全体的に底上げする効果もあるのです。

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しかし、企業にとっては新たな負担増となります。
厚生労働省によりますと、企業が新たに負担する保険料の総額は、医療保険料を含めると1600億円。負担が増えれば経営が成り立たなくなるという声や、保険料負担を避けようと従業員に勤務時間を減らすよう促す企業が出てくるのではないかという懸念もあります。このため、給与や待遇の改善に取り組む中小企業への支援をさらに強化していくことが必要になっています。

【まだ加入拡大は限定的】

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また、今回の見直し案は一歩前進したとはいえ、まだパート労働者全体のおよそ1割しか厚生年金に加入できません。残りの9割は国民年金のままで、勤労者皆保険の実現には程遠い状況です。このあとの見直しは、より規模の小さな企業が対象になるため、経営への影響をより慎重に見極めながら検討することも必要となります。
今後どのようなスケジュールで対象を広げていくのか、引き続き工程表の策定にむけた検討が求められます。

さらに、国民年金に加入している人の給付の水準がこのままで良いのかという問題も残っています。

【国民年金加入期間を5年延長?】

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そこで、政府が中期的な課題としているのが、国民年金の加入期間の5年延長という案です。
いま国民年金の加入期間は、原則20歳から60歳までの40年。これを、65歳までの45年にしようという案です。保険料を納める期間を5年間延長すれば、将来の年金水準をおよそ7%底上げすることになり、低年金対策につながります。
しかし、国民年金の財源の半分は国庫負担、税金で賄われています。

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仮に加入期間が5年延びると、多い年では年間に1兆2000億円の税財源が新たなに必要となります。
今後、65歳を超えて働く高齢者が男女ともに増えれば、財源問題を含めた検討が必要になってくると思います。

【働けない高齢者への保障を】

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そして、最も重要なのは、働きたくても働けない人のための老後の生活保障をどうするのかという問題です。政府は、今後70歳まで働けるようにする方針ですが、年をとれば健康格差は大きくなり、働き続けられる人ばかりではありません。高齢世代の家計も二極化しています。

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高齢者の生活の実態を分析し、▼低年金で低所得となっている人への給付金などを拡充するのか、▼年金制度以外の社会保障制度を手厚くするのか、高齢期の最低限の生活保障のあり方をもう一度見直すことも必要です。
長く働き続けられる高齢者とそうでない高齢者の差が、高齢世代の経済格差を一層広げることにならないよう、低年金高齢者の増加を防ぐための対策が今、さらに重要になってきていると思います。

(藤野 優子 解説委員)

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