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「教員の働き方新制度審議入り 論点は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

大きな社会問題となっている教員の働き方改革を進めるための法律の改正案が先週、審議入りしました。学校の長期休暇期間中にまとまった休みを取れるようにすることなどが柱となりますが、総合的な対策を抜きにしたままでは抜本的な解決はできないだけに、現場からは不安視する声が絶えません。

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▽限界とされる学校の勤務実態
▽新制度で何が変わるのか
▽求められる抜本的な解決策とは
以上、3点を中心にこの問題について考えます。

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はじめに限界とされる学校の勤務実態を見てみましょう。
文部科学省は3年前、10年ぶりに公立の小中学校の教員の勤務実態調査を行いました。その結果、小中学校の教員はすべての職種で勤務時間が増え、過労死ラインとされる月平均80時間以上の時間外勤務となっている教員が小学校でおよそ3割、中学校はおよそ6割に上ることが明らかになりました。教員の場合、タイムカードによる勤務管理がほとんど行われていなかったことや、制度上時間外手当がほとんど支給されないことなど大きな社会的反響を呼びました。
このため文部科学省の中教審・中央教育審議会は、今年1月、学校の働き方改革について答申をまとめました。答申の柱は▽規定がなかった時間外勤務を原則月45時間、年360時間以内とすること。▽授業準備や部活指導なども業務として勤務時間に加えること。▽学校が担っている業務を仕分けして、負担を軽減することです。
このままでは教員の健康を守ることができないうえ、子どもたちに対して効果的な教育活動が行えなくなるという学校教育の根幹に関わる事態への危機感があります。

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ただ、答申の言う時間管理の徹底や業務の仕分けは、そう簡単には進みません。そこでまずは、勤務制度の柔軟性を高めようというのが、今回の法律の改正の目的です。何をどう変えようというのでしょうか。
最大のポイントは、教員の休日のまとめ取りの推進です。そのため、地方自治体の判断で休日のまとめ取りの導入ができるよう、1年単位で勤務時間を調整する「変形労働時間制」を条例で実施できるとしました。

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「変形労働時間制」は、繁忙期と閑散期がはっきりわかれる工場などで使われてきた制度です。これを学校にどう取り入れようというのか。文部科学省の想定を具体的に見てみましょう。学校行事などで業務が多い4月、6月、10月と11月の1部のあわせて13週について、所定勤務時間を週あたり3時間、合計で39時間増やします。39時間は5日間分の勤務時間に相当するため、その分については、夏休み中の8月に休日としてまとめ取りができるようにします。これによって年休と合わせて長期休暇を取りやすくするとしています。

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これにあわせて、文部科学省は、原則月45時間、年360時間以内とする教員の時間外勤務の上限のガイドラインを「指針」として法律で示すことで、勤務時間の縮減の実効性を高めるとしています。文部科学省は、「あくまで学校の業務の削減に向けた総合的な取り組みの徹底とあわせて導入できるようにするもので、学校の働き方改革推進のための一里塚としたい」として今の臨時国会での成立を目指しています。

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しかし、現場には不安や不満が上がっています。ことはそう簡単ではないからです。現状の月ごとの時間外勤務は、繁忙期に増やされた所定勤務時間を大きく上回っています。時間外手当もそのままです。

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このため教員の中には変形労働制に反対する声も多く聞かれます。これでは、現状の学校の長時間勤務を事実上容認することにつながるのではないかという意見です。現実的には1日11時間近く働くケースも多い中で、見かけ上、時間外勤務が減ることになっても、働き方は変わらないのではないかというわけです。また、時間外勤務の上限をガイドラインから指針に格上げしても、時間外手当は現状と変わらないことから、実質月45時間のただ働きの肯定ではないかとの意見もあります。
夏休みに本当に休みのまとめ取りができるのかという疑問もあります。特に中学校では、夏休み中は部活の大会の開催や秋に備えて練習時間も多くなっています。最近は、夏休みに教員の研修を集中させる傾向もあり、中教審の議論の中でも、教員の休みが取れない大きな要因の一つとして指摘されています。
先月には、現職の教員や教員だった家族が過労死した遺族たちが法案の撤回を求める3万3000人分の署名を文部科学省に提出しています。結局、変形労働時間制を導入はしてみたものの繁忙期の勤務時間が長くなっただけで、休日のまとめ取りはできなかったとなれば、働き方改革にむしろ逆行することになりかねないという懸念はもっとものことです。

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こうした声を文部科学省はどう受け止めるのか。文部科学省は、現場にこうした懸念の声があることは十分理解しているとしています。今月7日に開かれた衆議院本会議での趣旨説明と質疑の中で、萩生田文部科学大臣は、「中教審の答申でも制度を導入することで学期中の勤務がさらに長期化しては本末転倒と指摘されており、導入にあたっては業務縮減を前提にする必要がある」と述べています。
ことは子どもたちの学びに直接影響する問題です。業務の見直しとともに、より大きな視点での議論を進める必要があります。同時に進めるべき点を2つあげたいと思います。
1つは、教員定数の抜本的な見直しです。文部科学省は、来年4月から、小学校の新しい学習指導要領が実施されるのに伴い、高学年で英語が教科となることから、全国で英語の専科教員を新たに1000人追加して3000人配置できるよう来年度の概算要求に盛り込みました。必要な教員数をしっかりと積み上げていくことは、業務の平準化という意味からも重要です。一方で、そもそも仕事の量にみあった教員が配置されているのかという根源的な問題は、積み残しの状態が続いています。この問題については、中教審が今年4月から教員定数の抜本的な見直しを含む議論を進めています。法改正を急ぐ以上、こちらの議論も急ぎ、財政当局が納得できるような結論を早めに示して欲しいと思います。

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そして、もう1つは、教員の労働時間の継続的な調査です。文部科学省は今国会での法改正が実現すれば各自治体が2年後の2021年度から変形労働時間制を導入できるようになることを想定し、2022年度に改めて教員の勤務実態調査をするとしています。しかし、その間の現状がわからないままでは、総合的な取り組み、とりわけ業務の仕分けや教員1人1人の仕事量の軽減が徹底されているのか検証することは不十分です。今回、学校の働き方改革が大きな注目を集めて以降、各地の教育委員会では、学校にタイムカードを導入して教員の勤務状況を記録しているところが増えています。一律の全国調査は難しいと思いますが、こうした学校のタイムカードの状況を分析することで、実態の検証につなげることも考える必要があると思います。

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教員の働き方改革の問題は、学校の持続性に関わるだけに、文部科学省だけが抱え込むのではなく、国全体の問題として取り組まなければならないことです。小中学校の学力そのものを支えられなくなればどうなるのかを真剣に考え、現場の教員の多くがなぜ変形労働時間制導入に反対するのか、それでも必要というなら、どう不安を払拭していくのかを審議の中で解き明かす必要があります。

(西川 龍一 解説委員)

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