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「台風19号 どう備えるか 新幹線の浸水被害」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新幹線は浸水の被害に、どのような備えが必要なのでしょうか。2019年の台風19号では、長野県にある北陸新幹線の車両センターが浸水し、止めてあった車両に被害が出ました。新幹線は、災害が起きた地域の復旧・復興を進めるためにも、また日本経済を支えるためにも、早い時期から運転を再開することが重要です。

北陸新幹線は、10月25日に全線での運転を再開する予定です。しかし、運行に使える車両の数が足りず、平常ダイヤでの運転できるメドはたっていません。

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そこで、今回は、
▽北陸新幹線の被害と平常ダイヤへの復旧が遅れている原因、
▽台風19号でわかってきた車両センターの浸水対策の大きな課題、
▽今後、どのように対策を進めなければならないのか、考えます。

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台風19号のよる豪雨で千曲川が氾濫し、近くを走る北陸新幹線の長野車両センターが浸水しました。12両で1つの編成となっている北陸新幹線の10編成が水につかりました。車両の価格は10編成で、およそ360億円です。
車両センターの近くでは、本線も浸水しました。

北陸新幹線は、10月25日に全線での運転を始める予定ですが、運転本数は平常ダイヤの88%です。長野車両センターの復旧によって平常ダイヤにいつ戻せるのか、そのメドはたっていません。何とか平常ダイヤで運行できないのでしょうか。

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北陸新幹線には30編成の車両があり、平常の時は、検査や予備の編成を除いた24編成で運行しています。しかし、今回10編成が浸水したため、残りは20編成。4編成足りません。
上越や東北新幹線の車両をやりくりして、もってくれば良いように見えますが、それはできません。

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北陸新幹線には、特殊な車両が使われているためです。
一つは、電力の問題です。家庭に送られてくる電力の周波数が、東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツになっているのと同じように、東日本の新幹線はほとんどが50ヘルツの電力で運行しています。しかし、北陸新幹線は、軽井沢付近などを境に50ヘルツと60ヘルツに切り替わります。車両が50ヘルツと60ヘルツどちらにも対応しているのは、現在、北陸新幹線だけです。
また、群馬県と長野県の境の碓氷峠付近には、他の新幹線にはない勾配が急な区間があります。北陸新幹線はこの坂を安定して下るために、自動車のエンジンブレーキのような下り坂用の特殊なブレーキを備えています。
このため、他の新幹線の車両は使えず、運転本数を減らすことになるのです。

各地を走る新幹線は、日本を支える重要な鉄道です。長い期間、運転ができない、あるいは運転本数が減るというのは、日本経済にも大きく影響することが懸念されます。
では、他の車両センターに、同じような浸水の危険はないのでしょうか。

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全国には新幹線の車両センターが19か所あります。上の図、ハザードマップで想定されている浸水について、JR各社と整備新幹線を建設している「鉄道・運輸機構」に取材してまとめたものです。
その結果、19か所の車両センターのうち、一部浸水も含めると12か所が浸水することがわかりました。浸水によって新幹線の運行ができなくなり、経済や生活に影響が出てしまうリスクは、各地に存在することがわかります。

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長野車両センターは、過去の水害の記録を考慮して、2メートルの盛り土をして作られました。
しかし、2007年に作られたハザードマップでは、5メートルの浸水が想定され、このとき既に浸水する想定になっていました。さらに2019年に作られた1000年に1度のハザードマップでは、最大10メートルまで浸水となっています。
建設した鉄道・運輸機構は、「ハザードマップの想定は認識していたが、新幹線の運行を続けているため、盛り土することはできず、そのままになっていた」としています。

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ここで注目したいのは、建設中の「九州新幹線・長崎ルート」の車両センターです。この車両センターは、2018年作成のハザードマップで、1メートルから3メートルの浸水が想定されたため、平均で7メートルの盛り土を行ったということです。
1000年に一度、想定される浸水に対しても、数メートルの余裕があります。これであれば、浸水対策として評価できるでしょう。

しかし、その一方で、これだけ危機意識があるのであれば、JR、鉄道・運輸機構ともに、過去に建設された車両センターにさかのぼって対策の再検討を、なぜ進めなかったのかという疑問も出てきます。

また、今回の浸水では、盛り土はできなくても、被害を最小限に抑える対策はできたのではないかという指摘が出されています。車両を高いところを走る「本線などに退避」させるという方法です。

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この方法は1967年、大阪の「鳥飼車両基地」で行われたことがあります。近くを流れる川の氾濫を心配していた当時の国鉄の担当者が、車両を本線に退避させたということです。このことは、関係者の間で今も語り継がれているといいます。

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実は、今回の台風19号で、この措置をとっていたところがありました。
那須塩原駅近くの施設に8編成止めてありましたが、過去に浸水を経験していたことから、JR東日本は、本線の駅などに退避させたということです。
しかし、長野車両センターについては、退避させませんでした。これについて、JR東日本は、台風の進路から外れていたことなどを理由として挙げています。

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車両の退避が実践できるよう、JR各社は、手順などを検討するとともに、それぞれの車両センターで訓練を行うなどして、次の浸水に備える必要があります。
さらに言うと、一定の危機感があったにもかかわらず、今回、なぜ車両を守ることができなったのかという点についても、徹底した検証が求められます。

ただ、車両を守っただけでは、新幹線を守ったことにはなりません。車両センターそのものも、私たちの見えないところで運行を支え続けているからです。

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車両センターには、「車庫」としての機能だけでなく、車両の定期的な検査などを行う役目もあります。
定期検査には、概ね2日に1回と頻繁に行わなければならないものがあって、車両センター1か所が使えなくなると、検査のスケジュールが調整できなくなる恐れがあります。

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また、定期検査の中には、概ね3年以内に1回、車体を分解して調べる、いわゆる「オーバーホール」に相当する「全般検査」という検査があります。
この検査が行えるのは、上の図で「全」のマークのある6か所の車両センターだけです。
例えば、東海道新幹線で全般検査ができるのは、浜松だけです。専門性が必要な全般検査は、1か所に集中させた方が効率は上がると思います。しかし、浜松の浸水想定は2メートルから3メートルです。仮に浸水して、復旧が長引けば、全般検査がストップ状態になりかねません。
いずれのケースも、検査ができなくなれば、走行できない車両がたまって、新幹線の運行に大きな影響が出てしまいます。

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このように、車両とともに車両センターの機能を維持することは、非常に重要です。
車両センターを守る浸水対策としては、例えば、敷地を壁で囲む方法があります。こうすれば、壁の高さまでは浸水被害を防ぐことができます。車両センターを守る具体的な対策の検討を急がなければなりません。

台風19号によって、新幹線に思わぬ弱点があることが表面化しました。そしてその影響は、非常に大きなものになる恐れがあります。
災害が激甚化する中にあって、どのような被害が想定されるのか、過去に作った施設も含めて、対策が遅れているものはないのか。
JRや鉄道運輸機構、それに国土交通省は、徹底した検証を行い、新幹線の運行を維持するため、十分な備えに結び付けなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

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