NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「海洋プラスチックごみ 実効性ある対策を」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

 レジ袋有料化や飲食チェーンのプラスチックストロー廃止など身近な暮らしにも関わっている海洋プラスチック問題。今月、東京でその対策を話し合う国際会議が開かれましたが、多くの課題が浮き彫りになりました。

j191022_01.jpg

j191022_03.jpg

 6月に開かれたG20サミットで、各国首脳は2050年までに新たな海洋プラスチックごみ汚染をゼロにすることを目指す、『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』に合意しました。その実現に向けた第一歩となる「フォローアップ会合」が今月9日から東京で開かれ、各国の実務者レベルでの話し合いが行われました。
 しかし、結果は率直に言って残念なものでした。政府はG20を中心に他の国々にも参加を呼びかけたものの、海洋プラスチックの排出量が世界一多いとの推計もある中国をはじめインドやメキシコなどG20の中でさえ8か国も欠席したのです。各国が海洋プラ対策に真剣に取り組む意思があるのかも懸念されますし、開催国として日本がもっと参加を呼びかけられなかったのかも疑問です。そして、この会合では「2050年の新たな汚染ゼロ」に向け、いつまでにどのように削減するかといった具体的な道筋も描かれませんでした。

j191022_05.jpg

 海洋プラスチックごみの対策は待ったなしです。世界の海に漂う微細なプラスチックの密度予測では日本近海も特に高密度なエリアのひとつと見られています。近年世界の海洋プラスチックごみは急増しており、対策を取らなければ2050年には魚の総量を超えるとする見積もりもあります。流出量が特に多いと推計されるのはアジアの国々で、黒潮に乗って日本近海にも流れてくると考えられます。(ただし日本は被害者とばかりは言えません。これについては後述します)
 そして、こうしたプラスチックは波や紫外線で細かくなり、食物連鎖や水資源への混入などを通じて私たちの体内にも蓄積しないか懸念されています。既に「日本を含む各国の人たちの便からプラスチックが検出された」「私たちは毎週5グラム、クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取しているとみられる」といった研究報告も相次いでいます。これが私たちの健康に将来どんな影響をもたらすかは未知数ですが、微細なプラスチックがいったん環境中に広がってしまうと後から回収するのは困難ですから、できるだけ早く対策を取る必要があるでしょう。

j191022_06.jpg

 こうした中、G20で合意されたのが「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」ですが、その実施方法については「各国が自主的に取り組み、その優良事例を情報共有する」という合意に留まったため当初から実効性が疑問視される面がありました。
 ではその自主的な優良事例で海洋プラ問題を解決出来そうでしょうか?環境省が今回の会合で情報共有されたとするのが例えばこれらです。フィンランドは5年後の2024年までに海洋環境中のプラスチックを30%削減するとの数値目標を打ち出しています。アメリカは「海洋ごみ法」という法律を既に作り、海洋プラスチックの実態や影響を調べたり流出防止に取り組むとしています。途上国でも、インドネシアのバリ州では今年から使い捨てのレジ袋やストロー、発泡スチロールの使用自体を禁止する対策を始めました。
 日本はどうでしょう?小泉環境大臣は会合で、日本の知識や取り組みを世界に広げ、貢献できると思う、とアピールしました。その日本は2030年までに使い捨てプラスチックの排出を25%減らすなどとした「プラスチック資源循環戦略」を今年5月にとりまとめています。

j191022_08.jpg

 その柱のひとつがプラごみの分別回収とリサイクルの強化です。よく「日本はリサイクル先進国だ」と言われ、2017年のデータではプラごみを有効利用した割合は86%にも上るとされています。しかし、内訳を見ると最も多いのは「エネルギー回収」、つまり燃やしてその熱などを一部利用しているにすぎません。また、「リサイクル」と分類しているものも実際は半分以上が中国や東南アジアへのごみ輸出でした。そして、去年から中国などがプラごみの輸入を禁止したため、現在はこの数字は大幅に減っているとみられます。一般に「リサイクル」というとイメージする、新たなプラスチック、再生樹脂に生まれ変わるのは国内ではわずか6~7%しかないのです。
 そして、海洋プラの流出が多いアジアの国々には日本のプラごみ輸出を受け入れていた国も多く、日本は海洋プラ汚染の被害者というよりまさに当事者だと言えるでしょう。

j191022_10.jpg

 もう一つ日本がアピールしている対策が「イノベーション」です。既に国内のメーカーが、植物を原料にした、海水中で分解する性質を持つプラスチックを商品化しています。植物が原料なので焼却しても植物が成長する際に吸った二酸化炭素を大気中に戻すだけで実質的に温暖化につながらず、また万一海に流出してしまってもいずれは分解される、ということです。ただ、国内のプラスチック生産量は年間1千万トン以上。その内こうした海洋生分解性プラはまだ千トンです。コストが高く簡単には普及しません。また、仮に現在のプラスチック需要を全て置き換えようとすると、原料の増産が途上国の森林環境や食料生産に影響しないか?という懸念もあります。
 このようにイノベーションだけでプラ問題を解決するのは今のところ困難です。やはり並行して「3R」と言われる、プラごみの発生自体を「減らす」、「再使用する」、そしてごみが出るなら「再資源化」を進める、という基本的な取り組みの強化は欠かせないのです。とりわけプラスチックのリサイクルはコストや品質面でなかなか軌道に乗らないことを考えると、まず減らすことが重要でしょう。
 いま議論が進んでいる「レジ袋有料化の義務化」も使い捨てプラスチックを減らす対策の一環です。しかし、国の検討会では大筋では合意できているものの、様々な例外を求める声も根強く、公平で実効性のある制度にできるか予断を許しません。

j191022_11.jpg

 では、2050年に新たな海洋プラ汚染をなくすことをめざすブルー・オーシャン・ビジョンを実現するにはどうすればよいのでしょう?
 まず求められるのは、科学的な実態把握とそれを統括する国際組織ではないでしょうか。例えば地球温暖化問題では、1988年にIPCC「気候変動に関する政府間パネル」が設置され、温暖化の分析や影響予測など世界中の科学研究を集約してきました。これが各国政府の判断と行動の根拠になり、「気候変動枠組条約」や「パリ協定」につながりました。一方プラ問題では、まだ流出量や人体への影響など基本的なことさえ精度の高いデータが不足しており、それが各国の足並みがそろわない背景にもなっています。
 こうした中、ささやかですが今後に期待をつなぐ動きもあります。きのう(10月21日)日本と中国の専門家が共同で調査船に乗り、日本の言わば川上にあたる中国の領海で海洋プラスチックの実態調査を初めて行いました。これを機に中国の前向きな姿勢を引き出せるかも注目されます。

 客観的なデータを元に冷静な議論を重ね、世界全体で国際組織や条約といった具体的な枠組みを作る。まだ遠い道のりですが、海洋プラスチック問題の解決には最終的にそうした必要があるのではないでしょうか。次の世代に「ブルー・オーシャン」を引き継げるのかは今、具体的な行動に踏み出せるかにかかっています。

(土屋 敏之 解説委員)

キーワード

関連記事