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「台風19号 相次いだ大規模浸水」(時論公論)

清永 聡  解説委員

台風19号の豪雨から丸3日になります。今も浸水した自宅に戻れず、避難所などで不安な夜を過ごしている方も多いと思います。
今回の災害では河川の氾濫が相次ぎました。被害の詳しい全体像は今もつかみきれていません。
私は14日、埼玉県の浸水した地域を取材してきました。その様子も伝えながら、大量の水はどのように住宅地を襲ったのか。そして、被災地ではどのような支援が求められるのかを考えます。

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【河川の決壊と氾濫は】
●今回の台風に伴う河川の決壊や氾濫は、東海から東北にかけての広い範囲に及びました。特に台風が通過した12日の夜から翌日の朝にかけて、千曲川や阿武隈川などで同時多発的に決壊が発生しました。

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●河川の決壊や氾濫は、地域や集落を短時間で一度に巻き込んでしまうという特徴があります。自分だけでなく周りが同時に被災してしまう災害です。
●地域全体が機能しなくなり、水が引くまでは復旧もすすまず、被害が長引く恐れもあります。特に防災拠点である役所や消防、警察などの庁舎が浸水すると、支援活動や救助が滞る可能性もあります。

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●こちらは去年の西日本豪雨で堤防が決壊した場所です。25の河川が35か所に上りましたが、被害は岡山県と広島県に集中しています。
●これに対して、今回は、国土交通省による現時点のまとめで7県の52河川、73か所に上ります。被害はより広い範囲に広がっています。
●さらに市町村などが管理する小規模な川もあるため、詳しい被害の把握には、なお時間がかかっています。

【水が引かない被災地】
●私は14日、埼玉県内で川が氾濫した住宅団地を取材しました。実はここも、高齢者が命の危険にさらされる被害が出ていました。

●坂戸市東坂戸の県営団地です。14日の午前中の様子です。川を挟んで、道路と田畑が広がっていますが、大規模に冠水しています。取材した時点では、周辺は2日たっても水は引いていませんでした。
●住民の話では、団地の隣を流れる大谷川という小さな川が氾濫し、団地は1メートル50センチほど浸水したということです。ただ、住民によると、川があふれ出した時間は、台風や大雨のピークと異なることが分かりました。
●私が話を聞いた複数の住民は「浸水が始まったのは、台風が埼玉県を通り過ぎ、雨や風が弱まった午前2時前後だったのではないか」と話していました。

●県営団地の自治会長を務める牛久保哲雄さんの部屋も、わずかな時間で、床上まで水につかりました。慌てて自宅にあったハンドマイクを持ち、住民に避難を呼びかけようと外に出ます。
●台風が通り過ぎたため、住民の多くは自宅で休んでいました。しかし、水はあっという間に団地へ流れ込んだため、多くの高齢者が避難できず、自宅にとどまって助けを待ったということです。防災倉庫に備えていた自家発電機や物資も水没し、使えなくなりました。
●団地の中だけでも1階部分50棟が床上浸水し、家具の上などに載って、助けを待った住民もいたということです。亡くなった人はいませんでしたが、断水が続き、団地には給水車が来るなど、不自由な生活が続いていました。

【高齢者が被災者に】

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●自治会長の牛久保さんによると、この団地では階段を上り下りしなくて済むよう、1階の赤い部分にはお年寄りが入居していました。このため、床上まで水につかって被災したのは、お年寄りの部屋ばかりという結果になってしまいました。
●加えてここでは団地全体が高齢化して手助けをする人が少なく、孤立して片付けが進まない人もいるということです。高齢化する地域だけでは、被災したお年寄りの支援は難しくなります。牛久保さんは「復旧はまったく進んでいない。高齢の被災者を手助けする支援が必要だ」と話しています。

【どのように浸水したのか?】
●では、なぜここでは、大雨のピークが過ぎた後に小規模な川が氾濫したのでしょうか。

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●団地の先には4つの河川が合流する場所があります。団地の前を流れている大谷川は、国が管理する越辺川に注いでいました。
●国土交通省や大谷川を管理する組合によると、氾濫を防ぐため、台風が来る前の12日の昼には川の水門を絞め、ポンプで本流の越辺川へ排水をしていたということです。その後想定を超える大雨で、本流が増水し、大谷川にも大量の水が流れ込んだとみられますが、詳しい状況や氾濫の原因はまだわかっていません。
●さらにその後、明け方までには越辺川が決壊し、ポンプの排水も間に合わなくなって、逆流していった可能性があるということです。

●今回の原因は、これから調査が行われるとみられますが、一般的に支流が氾濫するケースとしては、「バックウォーター現象」があります。これは本流の水位が上がって支流の水が流れにくくなり、支流の水位も上がって逆流、氾濫するというものです。去年の西日本豪雨でも発生し、大規模な浸水の原因となりました。
●埼玉県坂戸市のような浸水被害は、台風の通過に伴って、同時多発的にあちこちで発生していましたとみられます。浸水した住宅は全国の1万3000棟に上ります。

【増水時間とのズレ】
●大雨のピークと河川の増水が一致しないケースは、大規模な河川の方が、さらに顕著です。

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●新潟県の信濃川の水位です。もっとも高くなったのは、台風が通過した後の午後4時ころです。同じ河川ですが、130キロほど上流では、「千曲川」になります。この2つの地点では、水位のピークは半日もずれています。

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●さらに時間がずれるのは、利根川の茨城県の水位です。台風が茨城県を通過したのは、13日午前0時頃。それから徐々に水位が上がり続け、18時間後の午後6時に氾濫危険水位に達しました。支流からの水が大量に流れ込んだため、時間が経過してから下流で増水したとみられます。
●今回は全国で浸水が相次ぎましたが、川の上流か下流か、そして本流か支流かによっても、危険な時間帯は大きく異なります。台風や大雨の時間帯だけ警戒するのではなく、最新の情報を得て適切に避難ができるよう、備えが必要です。

【求められる対策は】

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●これから被災地で求められる対策は何でしょうか。何より、水が引かなければ、住民は自宅に戻ることができません。決壊した堤防の復旧に全力を挙げるとともに、排水を急ぐ必要があります。
●合わせて、孤立したり、取り残されたりしている人の救援が必要です。大規模な河川ほど、決壊した時には広い範囲を一度に巻き込んでしまうため、被災者の把握に時間がかかります。自分で避難所まで出向くことができず、やむを得ず自宅にとどまっている方もいるのではないでしょうか。こうした人たちの把握を急ぎ、救いの手が必要です。
●昨年の西日本豪雨では、避難所に大量の食糧などが届けられているのに、自宅にとどまった人が受け取ることができないケースもありました。支援物資が、隅々まで届けられるようにしてほしいと思います。

【1日も早く普段の暮らしを】
●台風から丸3日です。体力が落ちている人もいるのではないかと思います。電気や水道などのライフラインを早く復旧させ、被災した方々が1日も早く、自宅で普段の暮らしを取り戻すことができるよう支援してほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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