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「台風19号 被害把握と救援を急げ」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

台風19号の記録的豪雨から丸2日。「被害が甚大である」ということはわかってきましたが、浸水した地域や山間部に取り残さるなどして救援が必要な人が、どこに、どれくらいいるのか、詳しい全体像はまったくわかっていません。確認された犠牲者も50人を超え、増え続けています。こうした状況の中で、いま何が必要なのかを考えます。

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【記録的豪雨はなぜ起きたのか】
今回の豪雨はまさに記録的なものでした。

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観測点ごとに24時間に降った雨量を示した図です。棒が延びているところが記録を更新した観測点で、東日本の広い範囲に及んでいます。

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拡大してみます。赤い点は300ミリ以上、紫色は400ミリ以上で、そこから太い棒が延びているところは観測史上最大になったところ。細い棒は10月として最大のところです。観測史上最大が103ヶ所、10月として最も多くなったところは231ヶ所にのぼり、まさに記録的豪雨だったことがわかります。

なぜこのような大雨になったのでしょうか。

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今回の台風は本州の半分を覆うような巨大な強い雨雲を伴っていました。本体が接近する前から湿った空気が流れ込んで台風から離れた場所でも雨雲が発達し、本体の北上に伴って長時間にわたって大量の雨を降らせました。大雨の特別警報が13の都と県に出され、去年の西日本豪雨のときの11府県を上回り、最も多くなりました。

【被害の全体像はどこまでわかったのか】
被害の全体像はどこまでわかったのでしょうか。

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河川の氾濫は千曲川、阿武隈川など大きな河川で、広い範囲で起きたのが特徴です。堤防が「決壊」したのは37河川の52カ所、水が堤防を乗り越える「越水」による氾濫はおよそ200河川にのぼっています。
専門家は「これほど広い範囲で同時に多くの川が氾濫したのは、河川整備が進んでいなかった昭和30年代まではあったか、それ以降はあまり見られなかった被害だ」と話しています。

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このうち千曲川では長野市穂保地区で堤防が70メートルにわたって決壊し、濁流が住宅地に流れ込みました。南北5キロほどの範囲が浸水し、深さは2~3メートルに達したと見られています。

また阿武隈川では宮城県の丸森町や福島県郡山市など流域のいたるところで氾濫が発生し、福島県須賀川市では水の深さが9メートル60センチを記録しました。

また、がけ崩れや土石流など土砂災害は19の都県の140カ所で確認されていますが、今後調査が進めば大幅に増えると見られます。

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浸水した地域や土砂災害現場などから自衛隊によって1700人以上が救助されたほか、警察や消防、海上保安庁も救助にあたっていますが、浸水地域や山間部にどれくらいの人が取り残され、救援・支援が必要な人がどれくらいいるのか、被害の全体像はわかっていません。

また犠牲者は増え続けていてNHKが各地の放送局を通じてまとめたところ、これまでに全国で58人が死亡し、14人が行方不明になっていて、211人がけがをしています。

【いま必要なこと】
ではいま何が必要なのでしょうか。

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▼まず新たな災害の発生への警戒です。
被災地ではきょう日中からふたたび雨が降って、まとまった雨量になっているところもあります。
台風の大量の雨で山の斜面が多くの水を含んでいるところに新たな雨が加わり、土砂災害が起きやすい状態になっています。すでに土砂災害が起きた地域の周辺や土砂災害の警戒区域などでは十分に注意する必要があります。

また台風の大雨で高くなった水位があまり下がっていない川もあります。そこにあらたな雨が加わって、水位の高い状態が続いているため堤防の内部に水がたくさんしみ込んで崩れやすい状態になっているところもあると見られます。川を管理する国や県が出す情報や市町村が発表する避難情報に注意をして、備える必要があります。

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▼次に孤立したり、取り残されたりしている人の救援です。
東京都奥多摩町では道路が崩落し100人近くの高齢者などが孤立した状態になっています。ほかにも山間地域で孤立していたり、浸水地域に取り残されたりしている人が少なくないと見られます。安否の確認や救助、救援が急がれます。

▼そして避難をしている人への支援です。内閣府の最新のまとめで、おとといの時点で4200あまりの避難所に13万人以上が避難していることが確認されていますが、それ以外に民家などに集まって避難をしていたり、被災した自宅にとどまり支援を必要としている人が相当数にのぼると見られます。避難をしている人、支援が必要な人の全体像とニーズの把握が大きな課題になっています。

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政府は各省庁を横断した「被災者生活支援チーム」をつくり対応するとしています。被災した市町村や県からの要請を待たずに必要な物資や資機材を送る「プッシュ型」支援や、医療や福祉の面での支援などに全力をあげる必要があります。

一方、避難所に避難をしている方や自宅で避難をしている方は、十分な支援物資が届いていないところが多いと思います。きびしい状況ですが、できるだけ水分や栄養をとって、日中はなるべく体を動かすなど体調に気を付けていただきたいと思います。また、つらくなったら周囲の人に相談するなど、ひとりで問題を抱え込まないようにすることが大切だと思われます。

【まとめ】
台風19号が降らせた雨の全体量について、専門家は「詳しい解析を待たなければならないが、驚異的な量になるだろう」と見ています。

そうした雨によって多くの川で堤防が決壊したことが今回の大きな特徴ですが、堤防の決壊はこれまでも増える傾向にありました。

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このグラフは最近20年ほどの堤防の決壊か所の数を示したものです。堤防の整備が進んできたにも関わらず、大きな被害が出るようになっていて、極端な豪雨が増えていることをうかがわせます。

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また、今回の台風で東日本の多くの観測点で雨量が過去の記録を上回ったことを冒頭でお話しましたが、実は、去年の西日本豪雨でも同じくらい多くの観測点で記録が更新されました。ただ、その地域は東と西にはっきりと分かれています。ここ6年続けて集中豪雨や台風による大きな災害が起きていますが、この2枚の図は、地域に関わらず「過去経験したことのない」豪雨が起こりやすくなっていることを示し、一層の備えを促していると言えそうです。

台風19号による豪雨災害は、東日本大震災や西日本豪雨に続く「広域災害」と言えます。確認される被害は調査が進むにつれてどんどん拡大していて全体像はまだつかめていません。広い範囲に広がる被災地の状況と被災者のニーズの把握を急ぎ、必要な救援、支援に全力をあげる必要があります。

(松本 浩司 解説委員)


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