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「消費税率引き上げ 将来の財政・社会保障の姿は」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長
竹田 忠  解説委員
神子田 章博 解説委員

消費税がまもなく、10月1日から、10%に引き上げられます。
平成元年に導入された消費税は30年余りを経て、二桁に引き上げられることになります。
今日は、「消費税引き上げの意味」、議論が始まった「全世代型社会保障の課題」、そして、これから避けて通ることができない「超高齢社会をどう支えるのか」の三つのポイントについて、時間を⑤分拡大して財政担当の神子田委員、社会保障担当の竹田委員と考えます。

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① 消費税引き上げの意味。
(今村)今回の消費税引き上げ、増え続ける社会保障費の財源を確保するとともに財政を立て直すのが狙いですが、消費税を引き上げても日本の財政はまだ厳しい状況ですね。

(神子田)高齢化にともなって医療や介護などの社会保障費が膨らむ一方で、税収などの財源が追い付いていません。

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今年度の予算で見ますと、政策に必要な経費が78兆円に上るのに対し、税収などの収入が69兆円にとどまっています。足りない分は国債発行つまり借金をして補っています。政府の借金の総額は、いまや897兆円。国民一人あたりにすると713万円にのぼる計算となります。
政策に必要な経費の4割以上を占めるのが社会保障費で、その額は今後も高齢化にともなって急速に増加していくことが予想されます。その財源をなんらかの形で手当てできなければ、さらに借金が膨らむ構図です。その借金を返していくのは、後世の世代ということになります。

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こちらは、今年度の一般会計の歳出です。このうち国債費というのは過去の借金を返済したり、利息を支払うための費用ですが、私たちの世代で借金が膨らむと、後世の世代の国債費の負担が大きくなります。そうすると、社会保障や公共事業や教育・防衛といった政策に使えるお金が減ることになる。つまり、私たちの子や孫の世代の予算の使い道の選択肢をせばめてしまうことになるのです。

(今村)一方で消費税の引き上げは景気には短期的にマイナスの影響が避けられません。消費税の引き上げの景気への影響をどうみますか?

(竹田)
景気への影響は、決して油断できないと思います。なぜなら、家計にとって最も重要な賃金が下がっているからです。物価変動の影響を除いた、実質賃金で見ると直近の今年7月は、前年同月比で、マイナス0.9%(速報値)。
実は今年に入って、実質賃金は7ケ月連続で下がり続けています。

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企業のボーナスなどが減っていることが響いたとみられていますが、賃金が減る中での増税というのは、やはり影響は避けられないでしょう。

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(神子田)政府は、電子決済による買い物にはポイントを還元したり、災害に強い国土をつくるための公共事業を拡大するなど、増税による負担を上回る2兆円を超える対策を打ち出しました。景気の下支えに一定の効果があると期待されています。ただ、軽減税率が導入されたことで、店で食べれば10%で、持ち帰れば8%になるとか、電子決済によるポイント還元策も、カードやスマホをもたないお年寄りが使えないなど、非常にわかりにくい、使いづらいという声も多く聞かれます。こうした対策が広く利用されて思ったような効果を生むのか注意してみていく必要があると思います。

② 全世代型社会保障の課題
(今村)今回の消費税の引き上げで、どの程度、社会保障制度を安定させることができるのでしょうか。

(竹田)社会保障制度の安定に向けて道のりは道半ばといわざるをえません。
まず、政府は、その社会保障制度の安定のため、「全世代型社会保障検討会議」というものを立ち上げました。
そもそも、消費税の10%への引上げは、単なる増税ではなくて、社会保障と税の一体改革といって、社会保障の充実策とセットで行われることになりました。少子高齢化で医療、介護を中心に社会保障費の膨張が避けられません。

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社会保障費は現在は120兆円だが、団塊の世代が、全員75歳以上、つまり後期高齢者になる2025年には、140兆円に増大する見込みです。消費税10%は、この2025年に備えることが大きな目的として実施が決まりました。しかし、さらに、社会保障費の膨張は続く見通しです。団塊ジュニアの世代が、65歳以上になって高齢者の数がピークを迎え、2040年には、190兆円に達するとみられています。

(神子田)
社会保障というと、これまでは高齢者に手厚く給付が行われてきましたが、全世代型では、消費税の増税分を財源に子育て支援や教育の無償化など若い世代への給付も拡大しました。社会の格差が広がる中、子供の教育ではだれもが同じスタートラインに立てるようにして、世代を超えて格差が連鎖しないようにする意味合いが込められています。その一方で、こうした政策への財源の手当ても必要になってきます。

(竹田)
尚更、2040年に必要なお金をどう手当てするのか。財源問題をキチンと議論すべきですがこの会議では、その予定はありません。なぜなら、安倍総理大臣は、この夏の参院選の時の党首討論でさらなる消費増税については、今後10年間くらい必要ないと思うと発言して、消費税議論は事実上、封印された形になっているためです。

(今村)
検討会議ではどのような議論が交わされるのでしょうか。

(竹田)
実は、2040年に向けては、財源問題とは別に、もう一つ、深刻な課題があります。高齢者を支える、現役世代の減少です。

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ご覧のように、高齢者は、ずっと大きな割合を占め続けますが、生産年齢人口が、一貫して減っていく。2050年を過ぎると、一人の現役が、一人の高齢者を支える割合になります。そこで、元気な高齢者には支える側に回ってもらう、できるだけ長く働いてもらって、税金や保険料を納めてもらえないか、当面はこうした点について議論が交わされる予定です。

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具体的な検討項目としては、
▼企業は現在、希望する社員を65歳まで雇用する義務がありますが、さらに、70歳まで働ける機会を確保するよう求める、
▼年金の受給開始は、現在60歳から70歳までの間で自由に選べますが、この選択の期間をたとえば5年ほど引き上げではどうか?
▼収入が一定以上ある高齢者は、年金を減らされる、在職老齢年金制度の見直し、などが議論されることになっています。

(今村)
70歳まで働きたいという人もいると思いますが、ゆっくり過ごしたいと考える人もいるでしょうし、それぞれの事情に沿って個人が選べる余地を残すべきでしょう。

③ 超高齢社会をどう支えていくのか

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この図は、世界各国が、経済規模に比べてどれくらい社会保障にお金を使っているかと、国民が税金と保険料をあわせてどれくらい負担しているかの割合とを示したものです。右上に位置するフランスは、社会保障制度が充実していますが、その分、国民の負担も大きい、いわば高負担高福祉の国です。一方、アメリカは、その逆で低負担、低福祉です。日本は、国民の負担では、ヨーロッパ各国より低いものの、社会保障の水準は国際的にみると中程度です。
日本の場合今後のこのまま社会保障の費用が膨らめば、この給付と負担のバランスが崩れていくことは避けられない状況です。こうした中で日本は今後、税、社会保障の将来像をどう描いていったらよいのでしょうか。

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(神子田)政府は日本経済の将来像について、半年ごとに試算をまとめています。
ただその見通しの範囲は、2020年代までにとどまり、見通しの前提となる経済成長率が現実離れしているという指摘もあります。高齢化のピークは2040年代以降に来るといわれているわけですから、その時点まで見通したリアルな将来像を示すことが必要ではないかと思います。

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こうしたなか、経済同友会は、年度のごとの税収などの収入から政策に必要な支出をひいた数字を、いまの歳出の構造を変えないまま黒字に転換し、さらに2045年まで黒字を維持するためには、2021年度から消費税率を年1%づつ引き上げて最終的に17%にする必要があるとしています。
今のままでは、消費税率を17%まで引きあげる必要があるという試算でしたが、一方で野党の中には、凍結や減税を求める政党もあり、増税の前にもっとやるべきことはあるという議論も根強くあります。もっとできることがあるのではないでしょうか。

(神子田)その通りです。政府には、行政の無駄をはぶくのはもちろんのこと、歳出の一段の効率化を進める必要があります。例えば医療費では、市販薬でも同じ効能をもつ花粉症の薬や湿布薬などは自己負担とすることが議論されていますが、「難病やがんといった重病など大きなリスクは政府に見てもらえる。小さなリスクに対しては、自ら備える」というように、財源が無限にないなかで、何を政府に負担してもらい、どこまで自ら負担すべきか、国民全体でよく考えていく必要があると思います。

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さらに国民の負担を考えるうえで重要なのは、税金や社会保険料を一体のものとして考えていくことです。政府内では、役所の縦割りにしたがって、財政は財政、年金は年金など、別々に議論が進んでいるケースがよくみられますが、年金保険料にせよ、健康保険料にせよ、結局は国民のお財布から出ているものです。税や保険料のお財布を一体として考え、全体としていくらのお金があるのかを見極めたうえで、必要な財源を税金で負担してもらうのか、保険料で負担してもらうのか。経済へのショックを抑えながら持続可能な財政を実現するためにはどうすればよいのか。国民にわかりやすい形で議論を進めてもらいたいと思います。

(竹田)
もう一つ、消費税を引き上げる前にやるべきこと、といえば。それはやはり応能負担をハッキリさせることです。
応能負担。能力に応じて負担する。つまり、お金がある人には、多く負担してもらい、そうでない人には負担を軽くする。格差が拡大する中で、みんなに負担を求めるためには、この原則をハッキリさせる必要があるでしょう。
そのために大きなカギを握るのはマイナンバーです。

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こちらの図をご覧ください。引退生活で、特に決まった収入のない人。この人たちは、低所得という扱いになって、医療でも介護でも低い負担で済みます。しかし、将来、マイナンバーがすべての銀行口座に紐づいた場合、役所は、このマイナンバーを使って銀行に残高を照会することができます。
ここでたくさんの金融資産があることがわかった、という場合は、その人は低所得だけど、多くの資産を持っているということで、高負担を求められる。
資産が少ない人は、引き続き低負担のまま、というこういう仕組みです。
応能負担を進めるためにも積極的にマイナンバーの適用拡大を進めるべきだと思います。
さらに、さきほど実質賃金が下がり続けているという話しをしましたが、内部留保という利益ばかりをためている企業に、もっと賃上げを促す、ということも真剣に考えるべきでしょう。

(今村)
超高齢社会に入り社会保障の負担が今後も日本に重くのしかかってくるとことは避けられません。ただ人口が減りつづける中でも国の成長力を高めていくためには、人材教育や研究開発といった分野にこれまで以上のお金をかけていくことも必要です。年金、医療、介護も含めた様々な行政のサービスは、打ち出の小槌から出てくるものではなく、税であれ保険料であれ、私たちが負担しそれを分かち合うものです。行政にどこまでのサービスを求め、その費用を誰がどういう形で負担していくのか、その選択肢を示し、問題を先送りせずに、どの道を選ぶか、国民一人一人が考える、消費税の引き上げを、そのきっかけにすべきではないでしょうか。

(今村 啓一 解説委員長 / 竹田 忠 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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