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「サウジアラビア石油施設攻撃と米・イラン対立」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

サウジアラビアの石油施設が、今月14日、何者かに攻撃されたことをきっかけに、アメリカとイランの間で緊張が高まっています。今週、ニューヨークで開かれている国連総会を、両国の緊張緩和の機会とするための外交努力も続けられましたが、期待されていた首脳どうしの直接対話は実現しませんでした。今夜はこの問題を考えます。

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■解説のポイントは、
▼謎が多いサウジアラビアの石油施設への攻撃、▼失敗に終わった緊張緩和に向けた外交努力、そして、▼これ以上の事態悪化を防ぐためには何が必要か、です。

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■最初のポイントから見てゆきます。
問題の攻撃は、今月14日、サウジアラビア東部のアブカイクとクライスにある2つの主要な石油施設で起きました。大規模な火災が発生し、サウジアラビアの1日の生産量の半分にあたる石油生産が一時的にストップしました。
同じ日、イエメンの反政府勢力「フーシ派」が、犯行声明を出しました。「イエメンの内戦で、サウジアラビア軍に攻撃されたことへの報復として、10機のドローンを使って攻撃を実行した」という内容です。

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サウジアラビアとアメリカは、「イランが攻撃に関与し、責任があるのは明白だ」と、イランに非難の矛先を向けました。背景には、「フーシ派」が、イランの支援を受け、強い影響下にあるという認識があります。

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サウジアラビア政府は、石油施設は、南のイエメンからではなく、北のイランの方角から攻撃されている。現場に残された残骸の分析から、イラン製のドローン18機、巡航ミサイル7発で攻撃されたと主張しています。

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一方、アメリカ国防総省は、「計画的かつ洗練された攻撃であり、すべての兆候が、イランに責任があることを示している」という見方を明らかにしました。
ポンペイオ国務長官も、「使用された武器はフーシ派のものではないと確信している」「サウジアラビアに対する直接の戦争行為だ」と強く非難しました。
これを受けて、トランプ大統領は、イランの中央銀行や革命防衛隊、そして、原油輸出を対象にした経済制裁を強化する措置を発表しました。ただ、今のところ、軍事行動は控えています。イランと本格的に衝突すれば、来年の大統領選挙に、マイナスになると考えているようです。

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これに対し、イランのロウハニ大統領は、「アメリカの主張には根拠がない」と、攻撃への関与を強く否定し、トランプ政権による制裁強化を非難しました。

■いくつもの疑問や謎があります。

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サウジアラビアもアメリカも、「イランに責任がある」と非難しつつも、「イランによる攻撃」と断定するのを避けています。攻撃にイランがどう関与したのか、ドローンやミサイルがどこから発射されたのか、詳しい説明も、具体的な証拠も示されていません。
次に、もし、イランの指導部が攻撃に関与していたと仮定すると、その目的がはっきりしません。制裁を続けるアメリカとその同盟国サウジアラビアに警告を与える狙いがあったのではないかという見方も出ています。しかし、イランの関与が露見した場合、報復攻撃を受けるリスクや、国際社会からの批判で孤立するリスクは、あまりにも大きすぎます。
いったい誰が、何の目的で、攻撃を計画し、誰が実行したのか、国連などによる真相究明が不可欠です。

■2つ目のポイントです。
今回の攻撃は、イランをとりまく国際環境を悪化させ、ペルシャ湾岸の緊張を再び高めています。ニューヨークで行われている国連総会には、関係国の首脳が顔を揃え、緊張緩和に向けた外交努力が続けられました。
フランスのマクロン大統領、イギリスのジョンソン首相、それに、ドイツのメルケル首相は、23日、ニューヨークで、共同声明を発表しました。今回の攻撃について、「イランに責任があるのは明白だ」と非難しました。こちらも、根拠を示していません。これまでイランの立場に理解と同情を寄せていた3か国が厳しい姿勢に転じたことは、イランにとっては大きな痛手です。
マクロン大統領は、その後、トランプ、ロウハニ両大統領と個別に会談を重ね、両者が問題解決に向けて、直接対話するよう、強く働きかけました。
24日、国連総会で演説したトランプ大統領は、「イランの脅迫的な行動が続く限り、制裁は解除されないばかりか、いっそう厳しくなるだろう」と、制裁を解除する可能性を否定しました。そのうえで、「イランの指導者たちは、一歩前に踏み出す時だ」と述べて、自らが一方的に離脱した「核合意」に代わる新たな合意を目指して、交渉のテーブルに着くよう求めました。
これに対し、25日、国連総会で演説したロウハニ大統領は、「最も厳しい制裁を科したと言う相手からの誘いには応じられない。対話を始めたいなら、アメリカは核合意に復帰すべきだ」と述べて、アメリカが制裁を解除しない限り、対話や交渉には応じない立場を強調しました。
こうして、期待されていた国連総会での直接対話の可能性は消滅しました。ロウハニ大統領は、すでに帰国の途に就いています。

■ここからは、日本を含む国際社会の対応と、緊張緩和に向けた方策について見てゆきます。

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安倍総理大臣は、25日、国連総会での演説で、サウジアラビアの石油施設への攻撃について、「国際経済秩序を人質にする卑劣極まる犯罪だ」と強く非難したうえで、イランに対し、「歴史ある大国にふさわしい、叡智に基づく行動を求めてゆく」と述べました。

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この演説では、イランの責任には言及しませんでしたが、トランプ大統領との首脳会談では、「イエメンの反政府勢力フーシ派の能力に鑑みれば、攻撃を実行できると考えるのは困難だ」と述べて、イランの主張に疑念を示しました。さらに、ニューヨークでの記者会見で、「アメリカと同盟関係にあり、イランとも友好関係を維持してきた日本ならではの舵取りが求められている」と述べて、緊張緩和のための外交努力を続ける考えを表明しました。一連の発言からは、攻撃にイランが関与したとするアメリカやヨーロッパ諸国の見方に近づいている様子も窺えます。
トランプ政権は、ペルシャ湾などを通る船の安全を守るための、いわゆる「有志連合」の結成をめざし、日本など各国に参加を働きかけてきました。イランは、「有志連合」は、イランに圧力をかけ、封じ込める狙いがあると見て、これに参加しないよう、日本にも要請しました。今回の攻撃へのイランの関与を疑う見方が広がったことで、新たに「有志連合」への参加を表明する国も出ています。今後、国内での議論に影響が出ることも予想されます。

■注意すべきなのは、イランは、北朝鮮などとは異なり、「一枚岩の独裁国家」ではないと言うことです。

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たとえば、最高指導者ハメネイ師は、トランプ政権との対話の可能性を一貫して否定してきました。これに対し、穏健派のロウハニ大統領は、国連総会で、「もし、制裁が解除されるなら、核合意の変更や修正について議論してもよい」と発言しました。指導部の中でも、アメリカに対する姿勢には温度差があります。
また、アメリカを敵視する「革命防衛隊」や、その影響下にある武装組織が、状況を読み誤って、攻撃を実行したのではないかという見方も出ています。意思決定や指揮命令のプロセスは、外からは窺い知れません。
今、イランの最優先の目的は、制裁を解除させることです。これに対し、トランプ政権は、イランを屈服させ、交渉のテーブルに着かせようと、制裁強化一辺倒です。
確かな証拠がないまま、「イラン責任論」が広がれば、イランをいっそう追い詰め、ペルシャ湾を舞台にした軍事衝突の危険性も高まりかねません。日本を含む国際社会は、対話以外に緊張緩和の道はないことを肝に銘じ、アメリカ、イラン双方への説得を続ける必要があると考えます。

(出川 展恒 解説委員)

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