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「温暖化から『気候危機』へ 急がれる対策強化」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

先週金曜、世界各国で400万人とも言われる若者たちが、デモ行進や学校のストライキなどをおこし、地球温暖化対策の強化を訴えました。こうした行動の先駆けとなったスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさんは、二酸化炭素を大量に出す飛行機ではなくヨットで大西洋を渡りました。

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若者たちのアピールが向けられたのは、アメリカ・ニューヨーク。国連総会にあわせて、23日に温暖化対策サミットが開かれたのです。

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 呼びかけたのは国連のグテーレス事務総長。「気候変動」はもはや「気候危機」であり「気候非常事態」だと発信しています。今年、猛烈な暴風雨で大被害を受けたアフリカのモザンビークやカリブ海のバハマを視察し、対策を強化する必要性をあらためて訴えてきました。
 23日の温暖化対策サミットの前には、ニューヨークで若者たちが参加する「ユースサミット」が開かれ、世界での一斉行動と合わせて、各国首脳に温室効果ガスの削減強化を求める機運を盛り上げてきたのです。

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 この「気候危機」は、最新の科学によっても裏付けられています。
 きょう、IPCC気候変動に関する政府間パネルが最新の「海洋・雪氷圏特別報告書」を発表しました。これは海や極地などでの温暖化の影響を詳しく分析したものです。例えば、海面上昇はこれまで今世紀末に最大80センチ程度と見積もられていましたが、近年、南極の氷が溶け出すスピードが急激に増している影響もあって、このままでは2100年には最大で1m以上上昇するとの新たな予測が出されました。その後も数百年にわたって、海面は数メートル上昇するおそれがあります。海抜の低い沿岸部には、世界で今後10億人以上が住むと予測されていますが、台風の高潮などでより危険にさらされることも懸念されます。また、水温の上昇に加え、海水が酸性化し、水中の酸素が減って海の生態系が崩れ、漁業は漁獲可能な量が最大2割以上減るなど深刻な打撃を受けると予測されました。
 IPCCは先月、「土地関係特別報告書」を去年10月には「1.5℃特別報告書」を発表し、今回と合わせて最新の科学研究をまとめてきました。この土地関係特別報告書では、温暖化により砂漠化や水不足が深刻化すると共に、2050年には世界の穀物価格が最大で23%高騰することを示しました。そして、1.5℃特別報告書では、気温上昇を1.5℃に留められるか2℃上昇するかのわずか0.5℃の違いでも洪水や干ばつの被害を受ける人の数など被害に大きな差が出ること、しかも早ければ2030年代にも気温上昇は1.5℃に達することが示され、対策を急ぐ必要があることが突きつけられたのです。

 さらに重要なのは、温暖化の被害は将来だけではなく今既に生じているという点です。WMO世界気象機関は去年の夏、西日本豪雨をはじめとして世界各地で相次いだ大雨や熱波、干ばつなどの異常気象が、地球温暖化の長期的な傾向と一致している、と警鐘をならしています。温暖化対策に消極的なアメリカ政府が去年まとめた報告書でさえ、温暖化が関連したと見られる山火事やハリケーンなどで、2015年以降だけでも4千億ドルもの被害が出ているとしています。

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 22日に世界気象機関が発表した最新報告では、現在の世界の気温は産業革命前に比べ既に1.1℃上昇しています。
 温室効果ガスの削減を国際的に合意した「パリ協定」の対象期間は2020年から、いよいよ来年からです。このパリ協定では、産業革命前に比べ気温上昇を1.5℃に抑えることをめざすと合意していますが、そのために各国が提出した削減計画を全て実施したとしても、気温は3℃上昇してしまうと計算されています。つまり、対策がまるで不十分なのです。1.5℃に抑えるためには2050年までに世界のCO2排出を実質ゼロにする必要があると見積もられています。
 グテーレス事務総長はこの状況に危機感を抱き、温暖化対策サミットを企画。各国首脳に書簡を送り、「聞こえの良いスピーチではなく具体策を持ってきてほしい」と要請したとされます。

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 これに応えてサミットにはヨーロッパ各国やインドなど多くの首脳が参加。フランスやドイツなど77か国が2050年までに実質的に排出ゼロにすることを約束しました。
 一方で世界最大の排出国である中国は、国連の発表では年間120億トンの削減を表明し、インドは再生エネルギーの大量導入を約束したものの、排出ゼロにはほど遠い内容でした。アメリカはトランプ大統領が短時間出席したのみで登壇せずすぐに退席。日本は安倍総理ではなく小泉環境大臣が出席しました。小泉大臣はサミットに先立って、気候変動対策で日本がリーダーシップを取る意志を表明していましたが、サミットでは登壇することなく新たな対策も示すことはありませんでした。
 日本は今年のG20に合わせて、2050年に排出量を80%削減する長期戦略を提出しています。この80%削減というのも今はまだ実現していないイノベーションを前提にしたもので、現状では大変な目標です。しかし、世界が2050年排出ゼロに向けて動き出そうという中で、日本が期待に応えているとはとうてい言えないでしょう。
 このように、温暖化対策サミットには一定の成果はあったものの、各国の温度差もあらためて浮き彫りになったと言えます。

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 では、排出ゼロの実現に向けては、何から手をつければよいのでしょう?グテーレス事務総長は各国に、まず大量のCO2を出す石炭火力発電の新設をやめることや、化石燃料に課税するなどの「カーボンプライシング」の導入を求めています。
 日本では今も石炭火力の新設計画が後を絶たない上に、途上国に高効率の石炭火力を輸出することが温暖化対策だと主張しています。カーボンプライシングについては環境省の有識者会議で議論されてきましたが、産業界の反対が根強くめどが立たない状況です。
 日本は水素の利用拡大やCO2を回収し再利用するカーボンリサイクルなど新たな技術に大きな期待をかけており、それももちろん重要です。しかしそれだけで排出ゼロの「脱炭素社会」を実現できるのでしょうか?

 「気候危機」は、いま既に私たちの生命や財産を高まる自然災害のリスクにもさらしている現実の危機です。日本がその対策で本当にリーダーシップを示せるのか?それどころか、まず世界と足並みを揃えた取り組みが出来るのか?その本気度が問われています。

(土屋 敏之 解説委員)

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