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「千葉・大規模停電 見えてきた課題」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

台風15号の上陸から1週間あまり、千葉県の大規模停電で、市民生活は限界に。今回は東京電力が復旧のめどを何度も先送りさせ混乱に拍車をかけたが、東電は今月27日までに全面復旧させるとして電柱の建て直しなどを急ぐ。
ただ災害が激しさを増す中、電柱に頼る限り停電はまた起きかねない無電柱化など災害に強いインフラ作りも一部では始まっているものの、課題も多い。
大規模停電から見えてきた課題について水野倫之解説委員の解説。

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停電発生からすでに8日、千葉県では今も6万戸近くが停電。
その影響は深刻。

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エアコンが使えず熱中症で亡くなったり、学校や公民館も避難所としての役割が果たせなく。病院でも非常電源が切れて入院患者が転院を余儀なくされた。

またポンプの電源が無くなり断水も起き、
電話やインターネットもつながりにくくなり、被災者は混乱の度。

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こうした中、今回は東電が復旧のメドをたびたび先送りしたことが混乱に拍車。
東電は当初11日中には全面復旧できると。
しかしその後撤回して、復旧のメドを度々遅らせ、今は今月27日までの復旧を目指すとしている。

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こうした先送りの背景には東電の見通しの甘さ。
今回の台風15号は関東に上陸した中では過去最強クラスで、気象庁も「一気に世界が変わる」と最大級の警戒を呼びかけ。
にもかかわらず東電は一般的な台風被害を想定し、現場の被害状況の把握も十分でないまま、甘い復旧見通しを発表。

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実際には千葉市で57.5mの風が観測されるなど強風が吹き荒れ、経済産業省の推定で千葉県で2000本の電柱が倒壊、損傷した。
これに加えて多くの倒木が復旧を長引かせる要因。
倒木に阻まれ修理の車両が通行できなかったり、木が電柱や電線に倒れかかることで多くの電気設備が傷つき、部品交換を人海戦術で行うしかなく時間がかかっている。
東電が過去に経験したことがない倒木の多さに気づいたのはしばらくたってからで、ほかの電力への応援を増やすなどしましたが、対応は後手に。

こうして見ると、早く停電を復旧させるためには、事前の的確な被害想定に加え、いかに早く被害状況を把握して、資材や人員を整えられるかが重要。

その点大手電力の中には台風で痛い目に遭い、より早く被害状況を把握するための実証試験を始めているところも。
去年9月、台風21号で関西で260万戸が停電したのに続いて、台風24号が中部地方を直撃し、愛知・静岡を中心に100万戸以上が停電。今回と同じように倒木による電柱の被害の確認に手間取り、復旧には6日。
これを教訓に中部電力は倒木で人がすぐに行けない場所にドローンを飛ばす試験。ドローンが現地を上空から撮影、修理が必要な箇所をいち早く発見。
その情報を元に資材や人員を整えた上で現場に向かおうというわけで、復旧の見込み情報もより正確になることも期待。
ただドローンは安全上どこでも飛ばせるわけではないため、中電ではさらに有効性を検証することに。
全国の電力会社はこうした取り組みも参考に、如何に早く復旧させるかその対策を急がなければ。

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ただ温暖化の進行で災害はこれまでの常識を超えて激しく、増えることが予想。
今回東電は電柱の建て直しを急ぐが、電柱は通常風速40mまでしか耐えられない。そこで経済産業省は今後この基準の見直しを検討する方針。
またあらかじめ電線周りの木を伐採することも考えられる。
しかし電柱だけ強くしても電線に木が倒れれば停電するし、木を切るにも所有者の了解が必要で簡単ではない。

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そこで災害に強い送電方法の一つとして注目されているのが、電線を地中に設置する無電柱化。きょうの閣議の後の会見で赤羽国土交通大臣も無電柱化の対応を急ぐ考え。
阪神淡路大震災で電柱よりも被害がかなり抑えられ、災害に強いことが実証され注目され始めた。
電柱が道路をふさいで緊急車両の通行を妨げることもなくなる。
さらには歩行者の安全も高まり、街中の景観もよくなるメリット。

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海外ではニューヨークのマンハッタンや、ロンドンやパリ、ベルリンなどヨーロッパ主要都市も100%地中化されています。

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日本でも度重なる台風や震災を経て、国を挙げて無電柱化が必要という気運が高まり、2016年に「無電柱化推進法」が成立。国と自治体、電力会社などが協力して取り組むことが明記。
国土交通省は来年度までの3年間で、主要幹線道路を中心に2400㌔分整備する計画。
また積極的な自治体もあり、東京の山手通りでは20㌔に渡って無電柱化が完了、20年前の写真と比べると、見た目もすっきり。
ただこうした取り組みは一部にとどまり、無電柱化率はわずか1%。
法律で無電柱化を進めるとしているにもかかわらず、電柱は減るどころか今も毎年7万本ずつ増。

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一体なぜなのか。最大の壁は高いコスト。
現状地下施設は不具合防止のため電線や通信ケーブルをそれぞれ特殊な管に入れた上に人が点検できる空間も設けることから深く掘らなければならず、1㌔5億円。
これを国と自治体、電力会社で分担、でも電力会社の負担は電柱の数倍となり、電力自由化で競争が激しくなる中、簡単にはできないと言う。

一気に進めるのは難しいが毎年のように大規模停電が起きているわけで、課題解決のための対策を急がねば。

まずはコスト削減。
欧米では電線を直接埋設する方法が一般的で、これができれば安くなることが期待できるわけで、その安全性確認の実証を。
また国は条例などで電柱の新設を禁止する自治体に対する財政支援を増やすことも検討しては。

ただある程度コスト削減が実現したとしても電柱よりはコストがかかり、その分電気代に跳ね返るわけで、国民の理解なしに進められない。
政府は今回の長期停電をきっかけにあらためて災害に強い電力インフラ整備に向けた検討の場を作り、中長期的な無電柱化の計画とそのメリット、そして国民が負担することになるコストなどの見通しも示していかねば。

(水野 倫之 解説委員)

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