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「来年度予算案 財政再建と消費税対策」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

政府の来年度の予算編成に向けた作業がきょうから本格的に始まりました。来年度予算には、通常の政策に関わる経費とは別に、一か月後に予定される消費税率引き上げによる経済の悪化を最小限に食い止めるための対策が盛り込まれます。この対策のための予算について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです。

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1)来年度予算 注目の消費税対策
2)駆け込み需要と反動減の行方
3)景気対策を“ばらまき”にするな
です。

1) 来年度予算 注目の消費税対策

まず先週末にまとまった来年度予算の概算要求についてです。

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来年度予算をめぐっては、厚生労働省が要求した医療や介護などの社会保障費が、高齢化にともなって32兆6000億円あまりに膨らんだことなどから、一般会計の要求は105兆円程度と、過去最大となりました。さらに、来年度予算では、これに加えて消費税率引き上げに伴う景気対策の予算が年末までに別枠という形で盛り込まれることになっています。このいわば特別扱いの予算今年度はおよそ2兆円がもりこまれています。
今後の予算編成の過程では、全体の3分の1を占める社会保障費をはじめ、制度改革や優先順位の見直しを通じて予算の効率化をはかり歳出の伸びを可能な限り抑えることが求められています。そうした中で、私は消費税対策の予算についてどう考えるかが重要なポイントだと思います。

消費税率の引き上げは、もとはといえば、悪化する政府の財政の再建が狙いでした。

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政府の借金は今年度末には、897兆円、国民一人あたりに換算すると713万円に達する見通しです。また予算の基礎的な収支をみてみると、今年度は政策に必要な支出が78兆円にのぼる一方で、借金をのぞいた税収などの収入は、およそ69兆円です。この差額は新たな政府の借金として積みあがっていくことになります。そこで増税によって収入を増やすことで、追加の借金の額を抑えようと、消費税率が引き上げられることになりました。

2)駆け込み需要と反動減の行方

ここで問題となるのは消費税率の引き上げが景気に与える影響です。増税をきっかけに景気が悪化し、それが長引けば、所得税や法人税も含めた税収全体の伸びが鈍ってしまいますし、最悪の場合は、税収が落ち込んでしまうことになります。狙い通りの歳入増加につながらず、財政再建が遠のいてしまうということになりかねません。

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実際に2014年に消費税率を5%から8%に引き上げた際には、引き上げ前の駆け込み需要が大きくもりあがったあと、引き上げ後は、その反動で大きく落ち込み、回復するのに3年もかかりました。景気減速の結果、2016年度には税収が前の年度を大幅に下回る結果となったのです。
これを教訓に政府は今回、駆け込み需要と反動減のでこぼこができるだけ平らになるように、様々な措置を盛り込みました。

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例えば住宅では、税率引き上げ後に購入した人には、所得税の減税をより長い期間受けられるようにして、増税による負担増を実質的になくす仕組みをつくりました。さらに日々の買い物に関しても、クレジットカードなどのキャッシュレス決済で買い物をした場合に、払った額の一部がポイントとして還元される制度などを10月から導入します。税率があがる10月以降の消費を支えようという対策です。

では実際に今回の駆け込み需要の動きはどうなっているでしょうか。

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このグラフは、前回2014年4月と今回の税率引き上げ前の消費の動きを、引き上げから18か月前を100とした指数で表したものです。前回に比べて今回は、消費拡大のペースがゆるやかなことが見て取れます。この7月も持ち家の新規の住宅着工数は前の年に比べて3.3%のプラス、また先月の新車の販売台数は6.7%のプラスにとどまっており、駆け込み的な動きは前回と比較して限定的といえそうです。これまでのところ政府の対策が功を奏しているという見方もできそうです。
ただ、この駆け込みの動きが小さかったという点に関しては、政府の対策の効果というより、そもそも消費の勢いが弱いからではないかという指摘も出ています。その見方に立てば、駆け込みの需要増がないまま、増税後の需要の落ち込みだけを招くという結果になりかねません。

10月以降来年にかけての景気がどうなっていくのかは、経済対策の規模を考えるうえで重要なポイントとなりますので、ここからはこの問題についてみていきたいと思います。
来年にかけての日本経済に関しては、大きくいって三つの懸念があると思います。一つは、このところ消費者の消費に対する心理が悪化していることです。

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内閣府は、毎月、全国の8400世帯を対象に、今後半年間の買い物への意欲などについて尋ね、その結果を指数にして発表しています。その指数は先月まで11か月連続で悪化しています。背景には、人件費や運送費などのコストの上昇で様々な製品が値上げされている一方で、賃金の上昇の伸びが、ひところに比べて鈍ってきていることがあるといわれます。こうした中で消費税があがれば消費者は一層財布のひもを締め、景気の冷え込みにつながりかねないという懸念があります。

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 二つ目は、日本経済をとりまく環境の悪化です。前回消費税率を引き上げた2014年。円相場は年末にかけて120円台まで値下がりしました。当時は、世界経済全体もゆるやかな回復基調となっていましたので、輸出を増やすことができ、内需の落ち込みをある程度カバーすることができました。

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しかし、今回は円高傾向が続いているうえ、米中貿易摩擦が激しさを増す中で、世界経済の減速が予想され、輸出や生産にもマイナスの影響が及びそうです。

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三つ目の懸念は、様々な対策が終了しオリンピックもパラリンピックも終わった後の需要の落ち込みです。今年度の予算には、防災や減災、国土強靭化にむけた公共事業の予算1兆3000億円あまりが、経済を広く支える効果があるとして、消費税対策のための臨時特別な措置として盛り込まれました。この予算が来年度、一気にゼロになってしまうと、経済に与えるショックが大きすぎるのでは、という議論がでています。また今回とられている消費税対策のうち、キャッシュレス決済をすればポイントが還元される制度は来年の6月いっぱいで打ち切られます。その後は、東京でオリンピック・パラリンピックが開かれ、内外から旅行客による買い物や移動・宿泊に関わる消費支出が国内需要を支えると見込まれていますが、そのビッグイベントが終わった後、経済を支える力が一気に弱まるおそれがあります。

3)景気対策を“ばらまき”にするな

来年度予算での消費税対策は、今後、10月からの反動減が実際にどうなるのかを見たうえでその内容や規模が今後検討されていくことになりますが、ここで私が思い出すのが、去年12月の予算編成過程です。
今年度予算に盛り込まれる消費税対策の規模が2兆円あまりにのぼったことにたいし、消費税対策にかこつけたばらまきではないかという批判が出ていました。これに対し、政府の説明は、前回の消費税引き上げによる景気悪化を教訓として十二分な対策をとったというものでした。確かに増税が景気の悪化を招けば、税収が思ったように得られず財政再建が遠のくおそれもありますから、充分な対策は必要です。しかし景気対策という名目なら予算が認められやすいということで、この際、様々な予算の要求を一気に通してしまえということになれば、歳出の伸びを抑えて財政再建をはかろうという取り組みに逆行することになります。
内外の経済の動向を探りながら、景気の下支えにどの程度の規模の対策が必要となるのかを厳格に見極め、くれぐれも消費税対策に名を借りた予算の“ばらまき”にならぬよう、強く釘をさしておきたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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