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「TICAD開幕 アフリカの成長に日本は」(時論公論)

二村 伸  解説委員

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TICAD・アフリカ開発会議が、横浜できょうから3日間の日程で始まりました。開会にあたって安倍総理大臣は、アフリカへの投資の拡大と人材の育成に全力をあげる考えを表明しました。
成長著しいアフリカは、最後のフロンティアと呼ばれ、世界の熱い目が注がれています。しかし、日本はアフリカへの援助に長く関わってきたものの、ビジネスの分野では大きく出遅れています。総理の演説はそうした危機感を背景にアフリカでの存在感を高めたいという狙いが伺えます。競争がますます激しくなる中で日本はどのような戦略でアフリカに臨めばよいのでしょうか。
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アフリカの現状と日本の立ち位置を見たうえで、7回目を迎えたTICADの焦点と、アフリカの発展と安定のために日本はどのような役割を担うことができるのか考えます。

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まず、アフリカといえば、貧困や紛争、飢餓など、今も「暗黒大陸」のイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。たしかに20世紀までアフリカだけが発展から取り残されました。当時私が取材したテーマも内戦やテロ、難民、飢餓など、明るい話題はほとんどありませんでした。
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そのアフリカに転機が訪れたのは2000年代に入ってからです。豊富な地下資源を背景に高成長を続け、内戦から立ち直ったルワンダはIT産業を軸に急成長して「ルワンダの奇跡」と呼ばれました。エチオピア、コートジボワールなどでも経済成長率が7%をこえ、「最後のフロンティア」に各国企業が次々と参入しています。
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ことし5月には、アフリカの55の国と地域が経済統合をめざすアフリカ大陸自由貿易圏(AfcFTA)が発効し、来年7月の運用開始に向けて準備が始まっています。総人口12憶人、GDP2兆円をこえる巨大な市場に世界の熱い目が注がれています。
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しかし、日本はアフリカ進出の波に乗り遅れました。アフリカへの投資額は今や世界の上位10か国にも入っていません。地道な援助と支援は高い評価を得ていうものの、ビジネスの分野では欧米だけでなく中国やトルコなど新興国にも大きく水をあけられてしまっているのです。アフリカとの貿易も伸びず、世界全体のアフリカへの輸出額がこの10年間で17%増えたのに対し、日本は27%も減っています。アフリカに進出した日本の企業は800弱、まだ動きは慎重です。東南アジアなどと比べてアフリカは遠くリスクが大きいというのが進出をためらう理由のようです。

アフリカの期待にこたえて民間の投資をどれだけ拡大できるか、それが日本の課題であり、今回のTICADの最大のテーマです。
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TICADは冷戦終結後間もない1993年、日本が世界に先駆けて始めたアフリカの開発に関する国際会議で、当初は5年に1度、6年前から3年に1度開かれています。
当初は援助が議論の中心でしたが、今では貿易と投資が主要なテーマとなり、今回もビジネス環境の整備を全面に打ち出しています。そのために日本が重視しているのが、人材の育成と質の高いインフラ整備に加えて、イノベーションの促進やアフリカで急速に広がっている起業、スタートアップへの支援を通じた民間セクターの育成と産業の多角化です。デジタル化の進展によりアフリカでは携帯電話による送金や決済サービスが急速に普及しました。その顧客データをもとに様々なビジネスが生まれています。こうしたビジネスチャンスをいかにつかむか、各国がしのぎを削る中、出遅れた日本にとって第三国との連携がカギとなります。会議にはトルコやインド、フランスなどの企業も参加し、日本と外国の企業による連携の動きが活発化しそうです。日本の市場が縮小する中で、グローバル化にこれ以上乗り遅れないためにも、日本の企業は知恵と攻めの姿勢が求められています。

民間の投資とともに、日本がこれまで地道に取り組んできた支援ももちろん欠かせません。アフリカの安定と持続的な発展のためには、改革と自立の後押しが必要です。
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2年後、アフリカの人口は20憶をこえ、世界の4人に1人がアフリカ人となります。若く豊かな労働力は魅力ですが、一方で人口増加に対処するために食料の自給率を上げなくてはなりません。水資源の枯渇が深刻化しているだけに農業の改革が急務であり、日本の人材育成と技術指導が極めて重要です。JICAによるコメの生産量倍増計画もその一つです。

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ここはケニア南部、ナイロビから車で2時間ほどのところにある稲作地帯です。日本は1980年代半ばからこの地域の灌漑事業に携わってきました。水不足が深刻だった地域は用水路が網の目のように張りめぐされ、二期作によって田植えと稲刈りが同じ時期に行われるところもあります。コメ農家の数は30年で2倍に増え、生産量は3倍近くに増え、今ではケニアのコメの8割がここで生産されています。日本製の農機具が活躍し、車やテレビの保有率も上がるなど生活水準も大幅に向上したということです。

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稲作の技術指導にあたっているJICAの尾形佳彦チーフアドバイザーは、「稲作は日本が世界に誇る技術です。コメは適正な技術で収量が上がる、まさに日本がもっとも得意とするところです」と話しています。

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灌漑地域を拡張して米の生産量をさらに増やすため、近くの山間部では新たなダムの建設が日本の手で進められています。ダム建設からコメの生産まで日本の技術がいかされ、ビジネスチャンスも広がっています。
農家は収穫したコメを持ち寄って精米し、販売しています。ケニアでは経済発展に伴って中間層が増え、都市部でコメを食べる人が増えています。今はまだコメの自給率は20%ほどですが、将来はコメの輸出をめざしています。

人材育成はビジネス環境の整備にも成果を上げています。

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こちらはナイロビ市内の車のシートの製造工場です。壁には「カイゼン」の文字が見えます。6年前のTICADで打ち出された産業人材育成支援により、この会社でも「生産・品質管理」とマ-ケティング、財務管理の分野で改革が行われてきました。5つのS(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)と、効率的な生産と品質管理に取り組んだ結果、雑然と置かれていた機材や製品が整頓され、無駄のない作業や働きやすい職場への提言が次々と出されて職場環境は格段に改善され、生産性が40%以上向上したということです。販売部長は、「仕事を早く、効率的に行うように心がけるなどカイゼンによって社員の意識が変わりました」と話しています
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日本の高い技術力と経験をいかした支援は高く評価され、まさに日本のソフトパワーでもあります。今後はこうした支援をいかにビジネスにつなげていくかが課題です。同時に忘れてはならないのは、現地の人々のニーズにこたえ、仕事や暮らしぶりがよくなるのか、といったアフリカの視点に立つことです。アフリカでは今も各地で紛争が続き、世界の難民の3分の1がアフリカ出身者です。貧困と失業、格差や異常気象など難民や移民を生み出している根本的な問題を解決することが、ビジネス環境を整えるためにも不可欠です。ただ、一国では限界があます。国際機関と各国政府、民間や市民社会が一体となってアフリカを後押しする必要があり、TICADはその重要な場です。日本の存在感を高めるためにも、アフリカの変化を的確にとらえ、長期的な戦略をもって取り組むことが求めらています。

(二村 伸 解説委員)

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