NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「細る年金 ~ 長期見通し 迫る改革」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

今夜お伝えするのは、年金の長期見通しです。
年金はいくらもらえるのか?
そもそも年金は将来も大丈夫か?
政府が5年に一度、向こう100年間に渡って大がかりな点検をする、
財政検証と呼ばれる長期見通しが、きょう夕方、公表されました。
j190827_01.jpg

【 何が焦点か? 】
結論を簡単に言えば、
年金制度を維持していくためには、
年金の水準を、今より2割程度、下げる必要がある、という厳しいものです。

さらに、このままだと、年金が少ない、低年金の人が増えたり、
世代間格差が広がったりするおそれがあります。

では、どうすれば、いいのか?
年金制度を改正するため、今後大きな焦点となるのが、
働きながら年金をもらう、在職老齢年金制度をどう見直すかです。
今夜は、この3点について考えます。
j190827_02.jpg

【 財政検証とは? 】
まず、今回、発表された財政検証とは、そもそも何なのか?
なぜ、こういうことが必要なのか? 整理します。
j190827_03.jpg
まず、今の年金制度、
基本的な仕組みは、このイメージ図につきます。
公的年金というのは、左側の現役世代が払う保険料が、
そのまま、右側の、今の高齢者の年金として配られる、
という単純な仕組みです。
しかし、この保険料、
人口減少で保険料を払う若い人が減っていきますので、
保険料の総額は減っていきます。
すると、これに合わせて、年金の方も、
水準を下げていく必要があります。
こうして、年金の水準を徐々に下げていく仕組みを
「マクロ経済スライド」と呼んでいるわけです。
j190827_04.jpg
ただ、年金が下がりすぎないよう、
この水準を一定以上にすることを、政府は約束していまして、
この約束が守れるかどうかを点検するのが、財政検証というわけです。

【 財政検証の結果は? 】
その結果を見てみます。

まず、今触れました、
政府が約束している一定の水準。
これは、モデル世帯が年金をどれくらいもらえるかで示されます。
j190827_05.jpg
モデル世帯というのは、
40年間、会社員だった夫と、同い年の専業主婦の妻の世帯です。
この二人が、もらう年金が
現役の男性会社員の、平均の手取り収入の何%にあたるか、
これを所得代替率といいますが、
この所得代替率を50%以上に維持することを
政府は約束しています。

ちなみに、現在のモデル世帯の年金額は、22万円。
一方、現役の平均の手取り収入は35万7000円ですから、
所得代替率は61.7%になります。
これが将来、どう減っていくかを検証しているわけです。

検証では、経済の状況に応じて
6通りのパターンで計算していますが、
このうち三つのパターンをみます。
ケースⅠは、
経済成長が最もうまくいく前提ですが、
それでも、年金は、水準が徐々に下がって、
27年後には、所得代替率が51.9%まで下がります。
今の61.7%と比べると、2割程度下がる計算です。

同じく経済成長が進むケースⅢでも
やがり年金は今後2割程度、徐々に下がって、
2047年度には50.8%に下がります。

そして、経済成長がうまくいかない、ケースⅥでは、
年金の水準は大きく下がります。
まず、2043年度に、約束の下限である50%に下がり、
さらにその後も下がり続けて
36%から38%程度で推移する、としています。

ただ、この場合の前提は
実質の経済成長率がマイナス0点5%ですので、
年金だけでなく、日本の経済全体が
厳しい状況になっていると思われます。

この結果について根本厚生労働大臣は、
「年金は引き続き、所得代替率が
50%を確保できることが確認された」と話しています。

【 格差が拡大? 】
しかし、今回の検証で改めて鮮明になったのは
このままでは、格差が拡大するおそれがあるということです。
格差には、二つあります。
一つは、年金の違いによる格差です。
厚生年金に比べて、国民年金の減り方が
より大きくなる見通しです。
j190827_06.jpg
たとえば、ケースⅢで見た場合、
モデル世帯の所得代替率は、
今の61.7%が、
2047年度には50.8%に低下するわけですが、
実はこの中身をみると、
夫の厚生年金は、25.3%が、24.6%へと、あまり減っていません。
大きく減っているのは、基礎年金の部分で、
10ポイント以上も下がっています。
国民年金の人が受け取れるのは、この基礎年金だけです。
ただでさえ、年金額が少ないうえに
これではさらに、格差が広がることになります。
j190827_07.jpg
また、もう一つの格差は、世代間格差です。
同じく、ケースⅢで見た場合
今の65歳の夫婦は、61.7%もらえますが、
現在50歳の夫婦が
65歳になったときにもらえるのは56.6%
さらに現在30歳の夫婦がもらえるのは50.8%と、
若くなるほど、年金の水準が低下していきます。

【 制度改正を急げ! 】
では、どうすれば、いいのか?
どうすれば年金をもっと充実させることができるのか?
今回の検証では、
年金制度をどう改正すれば、どれだけ年金が増えるのか、
様々な計算をしています。
j190827_08.jpg
その一つは、厚生年金の加入者をもっと増やす、適用拡大です。
たとえば、非正規で働いている人を中心に
一定以上の賃金がある人1050万人が、
新たに厚生年金に加入できるようになれば
ケースⅢの場合で、将来の所得代替率が
50.8%から、55.7%に改善されます。

また、仮に75歳まで働き、
年金の受け取り開始も75歳まで繰り下げられるようにすれば
モデル世帯の所得代替率は、
一気に95.2%に増えるとしています。

また、基礎年金についても、
保険料を払う期間は、現在は60歳までですが、
これを65歳まで延長して、今より5年、長くすれば、
基礎年金だけの所得代替率も
26.2%から、30%に改善します。

【 在職老齢年金の課題 】
ただ、こうした努力は、
いずれの場合も、長く働く、ということが前提になります。
そうなると、そのために、今後、
どうしても議論が必要になるのは
在職老齢年金制度の見直しです。
j190827_09.jpg
この制度は
60歳以降も働きながら年金を受け取る場合、
給与と年金の合計が一定以上になると、
超えた分の半分が、年金からカットされるというものです。

ここで注意すべきなのは、
政府は、最近、年金の受給開始を繰り下げて
後で受け取れるようにすれば、
その分毎月の年金額が増える、ということをPRしていますが、
このカットされる部分は、
繰り下げ受給をしても、カットされたままです。
年金として反映されることはありません。

これでは政府がいくら、長く働くよう旗を振っても
働く意欲をそいでしまう、という批判が強まって、
政府はこの制度を見直す方針です。

今後、必要なことは、格差の拡大を防ぐため、年金全体の底上げを図る。
そして同時に、一人ひとりが年金を増やす工夫や努力が
チャンと認められるよう、制度を改正する。
これが必要なことです。

財政検証によって、
年金が細ることが、確認された以上、
年金制度の改正は、
政府の最優先の課題だと思います。

(竹田 忠 解説委員)

キーワード

関連記事