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「食料自給率過去最低 打開は出来るか」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

みなさんの中には、お盆で里帰りし、田舎でのお米や野菜を楽しんだ方も多いかもしれません。その食料生産がいま、危機的な状況に陥りつつあります。農林水産省が先週発表した、日本の食料自給率は去年、過去最低にまで落ち込んだことがわかりました。
一方で世界では、干ばつや豪雨などの、異常気象が頻発し、食料生産が、不安定になることが指摘されています。
国内農業は私たちに、将来にわたって、安定的に食料を供給することができるのか。この問題について考えます。

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食料自給率は、国内で消費される食料のうち、どの程度、国産でまかなえているのかを示す、いわば農水産業の成績表とも言えるものです。

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これはそのカロリーベースでの食料自給率の推移ですが、統計を取り始めた1965年をピークに下がり続け、昨年度は前の年から1ポイント下がり、37%と、過去最低となりました。
37%を記録したのは、冷夏でコメの歴史的な不作だった1993年以来で、タイ米などを、緊急輸入して、大騒ぎとなったことを、覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

今回の原因、去年は、コメが、前年並みを維持し、甜菜など、砂糖の生産が伸びたものの、去年、北海道を中心に、低温などの天候不順に見舞われ、小麦や大豆が大幅に減少になったこと。牛肉や乳製品などの輸入が大幅に伸び、国内産の割合を減らしたことが、自給率の低下を招いたと農林水産省は説明します。

しかし問題は、こうした短期的な理由より、長期にわたって自給率の低下に歯止めがかかっていないことです。政府は、2000年以降、45%を目標に、様々な政策を駆使し、食料自給率の向上を図ってきました。しかし自給率は上向くどころか、差は開く一方です。

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背景にあるのが農業の弱体化です。食料を供給するためには、農地と、それを利用する、担い手の農家が不可欠です。
しかし目標を掲げた2000年と比較しても、農地面積は483万ヘクタールから442万ヘクタールと9%の減少。農家の担い手は246万人から169万人と30%も減少しています。
しかもこの担い手のうち、60才以上が70%以上を占め、特に若い世代の農家が少なくなっています。

仮にこの農地と担い手で、カロリー優先で作付けを行った場合、食卓はどうなるのでしょうか。

これは農林水産省が栄養バランスを考慮した上で、カロリーを優先的に考えた生産による食事のイメージです。

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メインとなるのは面積あたりの収穫量が多い芋類で、朝と昼は焼き芋中心。夕飯にはご飯は出ますが、焼き魚がある程度で、野菜は浅漬けとじゃがいも。
卵は1ヶ月に一個。牛乳は5日にコップ1杯、肉は一日7グラムとなっています。
こうしたメニューでとれるエネルギーは、平成30年度で一日一人あたり、およそ2300キロカロリー。成人男子が必要なカロリーは、2000キロカロリー程度ですので、カロリーだけを考えた場合、これで十分です。
しかし食生活としてはきわめて味気なく、現在の様に、食卓に肉や野菜や求め始めると、途端に不足します。

もちろん、戦時中のように、海外から食料が輸入できないという事態が、起こるとは思いません。今後も私たちの食卓は、国内だけではなく、一定の輸入に頼るという状況は変わらないでしょう。

しかし、世界の食料生産を巡る状況は、人口増加に加え、このところの異常気象で厳しさを増しています。こうした状況を示す報告書が先週、また一つ発表されました。

こちらは、スイスのジュネーブで行われていたIPCC国連の気候変動に関する政府間パネルが、公表した、地球温暖化により食料生産が、不安定になるとする報告書です。

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報告書によりますと、農産物などを生産する陸上の平均気温は、産業革命前に比べ1.53度と、海面を含む地球全体の2倍近く上昇。世界各地で頻発する熱波や、干ばつ、豪雨の頻度が増えたのは、温暖化の可能性がきわめて高いと指摘しています。

その上で、こうした異常気象によって、食料供給が不安定となり、人口が90億人に達するような場合、2050年には穀物価格が、最大23%、上昇する可能性もあると、しているのです。

では、食料供給を安定させるため、農地を増やせるかというと、なかなかそうもいきません。
農業は、異常気象の影響を受ける一方で、家畜を飼ったり、窒素肥料を使うことで、大量の温室効果ガスを出す、排出源でもあります。
報告書は、農業を含めた土地利用は、排出量全体の23%を占めると指摘。農業や林業による、土地の適切な管理を求めています。

世界は食糧増産のため、数百年にわたり、森林を切り開いて、農地などに転用してきました。しかし今後、森林を伐採すれば、その影響は農業自身に、跳ね返ってきます。
農家に対しては、温室効果ガスを減らす努力が求められると共に、森林を伐採しての農地拡大は、今後ますます、難しくなると、考えなければ、ならないでしょう。

こうした海外での状況を考えれば、国内で一定の食料生産を確保すること、ますます重要になっています。
ではどうすればいいのか?

7年前、政権に復帰した安倍政権は「農林水産業。地域の活力創造プラン」として、3つの柱を掲げ、農業の生産力を高めることを求めてきました。

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まずは農地を集約し、大規模化して、低コストの農業を実現すること。10年間で意欲ある農家に農地全体の8割を集約するとしました。

また、生産だけでなく、加工まで手がける6次産業化を推進し、その市場規模を、来年までに10兆円とすること。
そして輸出を今年中に1兆円に伸ばすことです。

農業生産に関わるコストを下げ、農家所得を、増やすことで、担い手の数を増やし、農業生産力を高める狙いがあります。

農家の数が減少し続けてきたのは、所得が少なく、儲からないと思われてきたからです。
ただ、こうした政策を続けた結果、2018年の主業農家の所得は、667万円と、5年前に比べ30%以上増加。一定の効果は出ています。
しかしそれでも、農家数の減少が止まらないのはなぜか。

農業は農地や農業機械など、大規模な投資が必要な産業です。
ところが、現政権は農業振興策の一方で、TPPやEUとの経済連携などの国際化を進め、さらに今後は、アメリカとの交渉も控えています。
多くの農家から聞こえてくるのは、政府として、どこまで国際化を進めるのか、そして今後の農業を、日本の中でどう位置づけていくのか、その先行きが見えない不安です。

今年は、今後10年間の農業政策の方向性を決める、基本計画策定の年で、来月から本格的な議論が始まります。当然、食料自給率も大きなテーマの一つです。

政府としては、現在の自給率低下をどう捕らえ、今後の日本農業の姿をどう描いているのか。
その将来像を示すと共に、生産者の不安を払拭し、生産力の低下を止めることが重要だと思います。
そして食料を消費する私たちも、議論の行方を、関心をもって、見ていくことが重要だと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)


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