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「全国学力テストの役割は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

小学6年生と中学3年生を対象にした全国学力テストの結果がきょう、公表されました。今回は、中学3年生に初めて英語のテストが加わりましたが、データの一部が取れないといった想定外のトラブルが起きるなど、準備期間に余裕がないまま新たに英語を加えたことへの付けが露呈した形です。

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▽異例となった英語の学力テスト
▽英語導入にあたって、当初から課題が指摘されていました。事前の準備は十分だったのか
そして▽学力テストの役割は
以上3点を中心に、考えます。

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全国学力テストは、学校がテストの結果をもとに教育の成果を検証して指導の改善に役立てることを目的に2007年に始まりました。小学6年生と中学3年生を対象に1時期を除き、全員が受ける形で実施されています。当初は、国語と算数・数学でしたが、2015年から3年に1度理科の試験も行われています。さらに今年から、中学校の学力テストに英語が加わりました。英語も理科と同じく、3年に1度実施する予定です。

初めて行われた英語の学力テストについて、文部科学省は、一部の結果を参考値という扱いにして、都道府県別の結果を公表しないとしています。学力テストでは異例のことです。どうしてなのか。今回の英語のテストでは、これまで中学校の一斉テストで行われたことのない新たな形式のテストが初めて導入されました。英語の4技能である「聞く」「読む」「書く」「話す」をすべて測るというものです。4技能のうち、「話す」テストは、従来のペーパーテストでは測ることができません。当初「話す」テストは、面談で行うことも模索されました。それでは学校側の負担が大きすぎることもあって、最終的に決まったのが、パソコンを使うものでした。生徒1人1人がそれぞれ、あらかじめ学校がテストの内容をインストールしたパソコンにマイク付きのヘッドホンを利用して解答を声に出して録音するという方式です。録音した解答は、学校ごとに全員の分をUSBメモリに記録して文部科学省が委託した業者のもとに送られ、採点することになりました。
しかし、学校のパソコンなどの整備は、設置する自治体の教育委員会ごとに行われるため機器や種類もまちまちで、整備の進捗状況も学校によって異なるのが実情です。そのため、この方式のテストが決まった時から、対応できない学校が出ることが想定されていました。最初から全員が受けられない可能性があることから、この「話す」テストが参考値扱いされることになったのです。

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結果はどうだったのでしょうか。想定通り、430あまりの中学校がハード上の問題を理由に「話す」テストの実施を見送りました。その結果、今回、英語の「話す」を含む4技能テストを実施した中学校は9489校でした。ところが実施した学校のうち、17.5%にあたる1658校で、業者に送られた音声データに何らかの事情で不具合があり、一部採点ができない生徒がいたのです。この中には、音声データは記録されているものの雑音が入って聞き取れないものがある一方、データそのものが作成されてなかったり、テストを受けた生徒数より音声データが少なかったりしたものもあったということです。

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機種が異なるパソコンで同じテストを行うため、トラブルの可能性は、指摘されていました。文部科学省は英語の学力テスト導入の本番を1年後に控えた去年、全国136の中学校に協力を求め、およそ2万人の生徒を対象に予備調査のためのテストを行っています。この中で、同じようにデータに不具合が見つかるトラブルが15校であったことが報告されていました。しかし、あくまでも新しい英語のテストを実施するにあたって問題点を洗い出すことが目的だとして、結果に関わらず、今年から英語を導入する方針は崩さないとしていました。本来、予備調査で問題点を把握し、それがトラブルにつながる可能性があるのであれば英語の導入を延期することも考えられたはずです。
文部科学省は、データが取れたものを分析した結果、英語の4技能のうち、とりわけ「話す」技能全般に明確な課題があることがわかったと説明します。即興で会話のやり取りができないなどを例示し、英語の学力テストを実施した意義はあったと強調しています。しかし、英語教育の専門家からは、これまで言われてきたことに過ぎないとの指摘もあります。学力テストの英語は、4年前にまとまった「生徒の英語力推進プラン」をきっかけに導入に向けた動きが加速し、今年からの導入が決まりました。いったん決めた導入時期にこだわった形です。

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今回の結果を受けて、文部科学省は「各学校のパソコンの多様性について把握しきれないまま英語のテストを実施した」ことを認めました。それでも専門家によるワーキンググループでトラブルの原因を検証したうえで、3年後には全校で実施すると言います。本当に課題はクリアできるのか。今回、予備調査やパソコンへのテストのインストールといった準備に時間を取られたあげく、データが取れなかった事態を考えれば、結果的に英語の学力テストに翻弄される形になったのは、学校現場であることを忘れてはならないと思います。

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ここまで英語について見てきましたが、最後に学力テスト全体の役割について考えたいと思います。そもそも全国学力テストは、学校の序列化を生むことなどへの懸念があり、根強い反対意見があります。文部科学省は、その役割は、教育の成果を検証して指導の改善に役立てることだと繰り返し説明してきました。それは果たせているのか。学力テストは、小学6年生は、5年生まで、中学3年生は、2年生までに学んだことがテストの対象範囲です。教育委員会や学校が学力テストの結果を検証して改善された授業を受けるのは、1年下の学年ということになります。そのため、今の制度ではテストを受けた子ども自身が受ける恩恵は不十分との指摘があります。

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こうした指摘を受けて、全国学力テストに頼らず、自治体が独自の学力テストを行う動きが出始めています。埼玉県は、小学4年生から中学3年生までを対象にした独自の学力テストを4年前から始めました。毎年の調査結果を子どもたち1人1人が見比べることで、学年を追うごとに学力がどう変化しているのか、自分自身で状況を把握できるのが特徴です。さらに結果を受けて、どの部分でつまずいているかを把握し、その部分の力を身につけるための「復習シート」を作って学力の定着をはかっています。埼玉県の独自の学力テストには、今年から福島県や高知県などの一部の自治体が共同で実施する形で参加しています。一方で、多くの自治体が財政的に厳しい状態であることや、民間に委託して行うことへの是非、全国テストに加えて別の学力テストを行うことが学校の負担を増すのではないかという意見もあります。本当に子どもたちのことを考えればどういう方法が最善なのか、模索する必要があります。

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当初、国語と算数・数学だけだった全国学力テストは、理科に英語と、肥大化している形です。その学力テストで測れる学力には限りがあり、来年度の小学校から順次実施される新しい学習指導要領が求める思考力・判断力・表現力といった力をすべて明確に測ることは不可能です。毎年60億円の経費をかけて小中あわせて200万人を対象に行うテストに見合った教育の質の向上につながるのか。年中行事とすることなく、学校や子どもたちの負担も含めて常に検証することが求められます。

(西川 龍一 解説委員)

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