「2019参院選 『直面する課題』と『展望』」(時論公論)
2019年07月22日 (月)
太田 真嗣 解説委員
安倍長期政権の評価が問われた、今回の参議院選挙は、自民・公明の与党が勝利し、
『安倍1強』と言われる政治体制は変わりません。ただ、投票率は50%を割り込み、国民の政治離れはさらに進んでいます。今夜の時論公論は、今回の選挙結果を踏まえ、日本の政治が直面する課題と今後の展開を考えます。
今回の参議院選挙で自民・公明の与党は、改選議席の過半数を獲得。安倍政権は、引き続き、安定した基盤のもと政権運営にあたることになりました。
これは、選挙の勝敗を決めるとされる全国32の1人区の結果です。前回・3年前は、与党の21勝11敗でしたが、今回、与党は、福島や三重など22の選挙区で勝利しました。一方、立憲民主党などの野党は、候補者を一本化し、秋田や滋賀など10の選挙区で議席を獲得しました。
今回、自民・公明の与党が獲得したのは、あわせて71議席。ちなみに、3年前に勝利した時の獲得議席は70でしたから、今回も、ほぼ同程度の勝利と言って良いでしょう。
これに対し、野党側は、立憲民主党と維新の会が議席を伸ばしましたが、国民民主党と共産党は減らし、政権の土台を揺るがすことはできませんでした。一方、憲法改正に前向きな、いわゆる改憲勢力は、改正の発議に必要な参議院の3分の2を確保できませんでした。
今回の選挙の流れを決めたのは何か。私は、投票率、特に無党派層の参加がポイントだったと思います。これはNHKの出口調査での各党の支持率です。
このうち、「特に支持する政党はない」という無党派層は21%。比例代表の投票先を見ますと、およそ3割が与党、6割あまりが野党に投票しています。
このデータで、私が気になったのは無党派層自体のボリュームです。試しに投票の1週間前に行ったNHKの世論調査と並べてみますと、出口調査では、無党派層の割合だけが特に少ないのが目立ちます。もちろん、調査方法が全く違うので断定はできませんが、有権者のうち、特に無党派層が、今回、あまり投票に行かなかった可能性があります。
今回、投票率は48点80%と、50%を切り、過去2番目に低い水準となりました。一般に、投票率が下がると、組織力が強い候補が有利になるとされています。
そうした投票率の伸び悩み、特に無党派層の足が投票に向かなかったことが、結果として、各党の組織力の差を際立たせることになり、今回の選挙の流れを決めたように思います。
今回の選挙では、『年金』や『消費税』といった、国民に身近な問題に焦点が当てられましたが、有権者からは、「何がポイントか分からない」、「どこに投票するか決められない」という声も多く聞かれました。組織などに縛られない無党派層の悩みは、魅力ある政策、あるいは、説得力のある言葉を有権者に最後まで届けられなかった、政治の『力不足』を示していると言えます。
では、今回、争点となった内外の諸課題に、政治は、どう取り組もうとしているのでしょうか。
まずは、秋に消費増税を控える中、経済の成長をどう維持していくかです。
政府は、10月の消費税率の引き上げは予定通り実施する一方、軽減税率の導入など、「十二分の対策を講じる」としています。しかし、仮に、景気にブレーキが掛かるようなことになれば、高い
支持率を維持できなくなり、求心力が一気に低下する恐れもあります。
また、国民が安心できる年金制度の確立も待ったなしです。ただ、その議論の前提となる、将来の年金額の見通しは選挙中には示されず、議論は深まっていません。
一方の外交も懸念材料が山積みです。日米の貿易交渉について、アメリカは、早期の決着を強く求めています。そうした中、トランプ大統領が、「日米安全保障条約は不公平だ」と不満を示し、関係者の間には、「交渉を有利に運ぶための揺さぶりではないか」との警戒感が広がっています。
また、アメリカは、イラン情勢をめぐり、ホルムズ海峡の安全確保に向けた有志連合の結成を同盟国などに呼びかけています。政府は、「現時点で自衛隊を派遣する考えはない」としていますが、今後の対応によっては、大きな議論を呼ぶことになりそうです。
さらに、次の国会以降、憲法をめぐる議論も注目です。これまで自民党は、改正に向けた具体案を議論するよう強く求めてきましたが、今回、改憲勢力が参議院で3分の2を失ったことから、戦略の見直しを迫られることになりそうです。その最初の試金石が、憲法改正の手続きを定める国民投票法改正の問題です。各党が意見や立場の違いを乗り越え、冷静に議論できる環境を作れるかどうかが大きな鍵となります。
では、政治は、今後、どのような展開を見せるのでしょうか。
焦点は、衆議院の解散・総選挙がいつになるかです。与党内では、今後の日程を踏まえると、「秋の消費増税直後は難しい」として、「早ければ年内」、そうでなければ、「来年夏の東京オリンピック・パラリンピックの後」といった説が囁かれています。
そこで問題になるのは、安倍総理の自民党総裁としての残り任期との関係です。衆議院議員の任期は、再来年の10月までですが、安倍総裁の任期はその前の9月まで。一応、議員の任期の範囲内に収まっています。安倍総理は、「任期延長は全く考えていない」としていますが、それでも自らの手で衆議院の解散・総選挙に打って出るのか。それとも次の総裁に判断を委ねるのか。それを占う意味でも、近く、行われると見られる、次の内閣改造と党役員人事で、安倍総理が、どのような布陣をするかが注目です。
一方の野党側も、次の衆議院選挙を睨み、戦略の見直しを求められます。今回の結果、立憲民主党は、衆参両院で、名実ともに野党第1党となりました。巨大与党に対抗するには、今回同様、野党の共闘が欠かせませんが、野党再編には消極的な枝野代表は、今後、どのような形でリーダーシップを発揮するのか。「いまの政権が駄目だから…」ではなく、積極的に「政権交代をすれば、この国が良くなる」と思えるような政策と、それを実現できる体制を示すことができなければ、多くの支持を得るのは難しいでしょう。一方、他の野党と一線を引く、日本維新の会は、今回、新たに議席を得た首都圏などで、更に勢力を広げることができるかが課題です。
安倍総理は、来月1日に臨時国会を召集する考えを示しましたが、これは新議長を決めることなどが目的で、本格的な臨時国会は、秋以降になる見通しです。
ただ、国民は、いまの国会の姿をどう見ているでしょう。参議院は、定員を6増やしましたが、選挙制度の抜本改革は先送りされたまま。行政の不祥事が続く中、「国会は、監視機能を果たしていない」という厳しい声もあります。与野党が、互いに『審議拒否だ』と非難し合う姿は、国民にどう映っているか。国会改革は急務です。
今回、選挙の投票率は50%を切り、改めて国民の政治離れが指摘されています。選挙の投票率は、天候など様々な要因に左右されますが、最大の要素は、時の政治への信頼と期待でしょう。
今回の低投票率は、決して、単なる結果ではなく、飽き足らない、いまの政治に対する国民の警鐘と受け止めなければなりません。
(太田 真嗣 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら
太田 真嗣 解説委員