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「月面着陸50年 なぜ今再び月なのか」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

アポロ11号による人類初の月面着陸から21日で50年。その後下火だった月面探査だが、ここ数年活発になり、今年は中国の月の裏側への着陸に続いて、インドも近く着陸機を打ち上げ予定。そしてアメリカが2024年から再び人を送ると宣言、日本にも協力を呼びかけ。
半世紀たってなぜ今再び月なのか。日本は有人月探査にどう臨むべきなのか、水野倫之解説委員の解説。

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第2次大戦後、冷戦状態となったアメリカと旧ソビエトは、宇宙開発でも覇権争いを繰り広げ、1957年に旧ソビエトが初の人工衛星を打ち上げ、その4年後に初の有人飛行と立て続けに成功。
後れを取ったアメリカが巻き返しを図ったのが有人月面着陸。1969年7月21日にアポロ11号でアームストロング船長ら2人が月面に降り立った。

しかし覇権争いに決着がつきその後冷戦も終結すると、莫大なコストがかかる月探査は下火になり、代わって国際協力で地球を回る国際宇宙ステーションがつくられ今に至る。

しかし半世紀を経た今、各国は再び月面を目指し始める。

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▽今年中国は、普段地球からは見えない月の裏側に探査機を着陸させることに成功。あらかじめ打ち上げた通信衛星で電波を中継することで通信を確保。今年中にもう1機着陸させ、月の土を持ち帰る計画。
▽インドも近く、米露・中国に続く4か国目の着陸を目指す。
▽さらに日本も宇宙機構が2021年目指して着陸機SLIMを開発中。事前に撮影したクレーターの位置とのズレを確認しながら降下し、誤差100m以内のピンポイント着陸を目指す。

そして半世紀前と大きく違うのが民間が続々と参入してきている点。

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▽アメリカのベンチャーは2023年に有人での月周回計画を発表。日本の実業家がその第1便を買った。
▽イスラエルの民間団体は4月に民間初となる月面着陸に挑戦。失敗に終わったが再挑戦を表明。
▽そして日本でもベンチャーが月面を。
都内のベンチャーが開発中なのは月面着陸船とローバー。
社員は若者中心に60人以上、設計のほか一部組み立てをクリーンルームで行う。
企業などから100億円を調達。来年月を回る軌道に投入して技術的な課題を確認した上で、2年後の着陸を目指す。
トヨタ自動車は今月、社内に月面探査車の専門組織を立ち上げた。燃料電池車の技術を応用して、空気で満たされ宇宙服を着なくても乗れる大型車を宇宙機構と共同開発し、20年代後半に1万キロの走破が目標。

このように官民が競うように月面を目指すのはなぜなのか。
当面の最大の狙いは「水」。
これまでの探査機による調査で、月の南極や北極に氷が存在する証拠。
氷があれば、飲料水になり食料の現地生産も可能に。
さらに電気分解すればロケットの燃料になる水素と酸素も現地で得られ地球から運ばなくても済み、コストを大幅に下げられる。
将来的には月面に生活圏を築くことも夢ではなくなり、月と地球の間の輸送などビジネスを行うことができるというわけ。
ただまだ実際に土の中に氷や水を直接確認した例はないため、水を最初に見つけて主導権を取ろうと官民が競争を繰り広げている。

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こうした中、アメリカ・トランプ政権は再び月面に宇宙飛行士を送る計画。今年、その目標を2028年から2024年に前倒しすると発表。
計画を4年も前倒ししたのは宇宙強国を進める中国を牽制する狙いも。2024年に間に合わせるためNASAは着陸船の開発を民間に委託するなど、計画の練り直し。ただアメリカも1国では無理で、ヨーロッパやロシアに加え日本にも参加・協力を呼びかけ。

これに対して日本はどう臨むのか。

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宇宙機構は輸送船こうのとりを改良して物資輸送で貢献するなど計画を練る。
ただ政府としてはまだ参加を正式に決めてはいないが、すでに今年5月の日米首脳会談で、安倍総理はトランプ大統領と月面探査に向けた協力で合意。
政府は年末までに正式に参加を決める方針。

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ただ日本として明確な戦略を持った上で方針を決める必要があり。
というのもブッシュ政権が有人月面探査を打ち出した時にも、日本はこれに追随する形で参加を検討。しかしオバマ政権に変わるとアメリカは月を否定、日本ははしごをはずされた形。
今回の有人月探査も2期目を狙うトランプ政権の目玉にしたい狙いもあるとみられ、その後どうなるか。
確かに日本人が月面に立てればそれは夢のある話で私も期待したいとは思う。
政府は人が行けば、月面を見ながら調査地点を選ぶことができ効率よく探査を進められると説明するが、高性能ロボットで調べた方がより効率的に探査できるかも。

最大の課題はコストです。アメリカは各国の分担割合など詳細は示していないが、現在日本が毎年負担する国際宇宙ステーションの経費400億円を超える負担となる可能性も。
なぜ有人でなければならないのか、詳細な検討をしていかなければ。

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また民間が意欲的なわけなので、役割分担をどうするのか、なども考えておく必要。
有人月面探査計画に参加するなら、少なくとも公開の場で広く意見を聞いて議論し、国民の理解を得た上で意思決定していくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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