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「参院選公示 焦点と争点」(時論公論) 

伊藤 雅之  解説委員

参議院選挙が、7月4日公示され、21日の投票日に向けて選挙戦が始まりました。この選挙が、どのような意味を持ち、何が争点になるのか考えます。

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第2次安倍政権の発足から6年半余り。選挙の最大の焦点は、「1強多弱」と称される政治状況が維持されるか、転換していくのかにあります。安倍総理大臣が、2021年秋の自民党総裁の任期満了をにらみつつ、安定した勢力で求心力を維持できるか。野党側にとっては、反転攻勢の足がかりを築けるかということになります。

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では、選挙の勝敗を判断する目安となる数字はどこにあるのか。これはいくつかあって、絞り込まれてはいません。ポイントになるのは、「過半数」と憲法改正に関係する「3分の2」です。

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まず「過半数」です。参議院の定員は6増えました。3年ごとに半数ずつ改選されるので今回改選される議席は前回より3増えて124になります。
安倍総理は、参議院全体で与党が過半数を維持することを目標にあげています。自民・公明両党は、改選されない非改選議席が70あるので、今回53議席獲得すればよいことになります。ただ、53議席の場合、野党側が改選議席の過半数を占めることになるので、目標としては控え目すぎるという見方があります。
そこで、自民党内から出ているのが、今回改選される124議席の過半数63を目指すべきだという意見です。
予断は許されませんが、過去2回の参議院選挙で、与党は、いずれも70議席以上を確保していますので、これも、必ずしも高いハードルとはいえません。
これとは別に、自民党は、単独で、参議院の過半数を確保しています。これを維持できるラインは67議席。自民党が、今の選挙制度になってから最も多くの議席を取った6年前の65議席を上回る必要がありますので厳しいハードルです。

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「3分の2」はどうでしょうか。現在、自民・公明両党と憲法改正に前向きな日本維新の会や無所属の議員を加えた勢力は、衆参両院で憲法改正の発議に必要な3分の2を占めています。参議院では、こうした改憲勢力が非改選で78議席を占めているので、3分の2を維持するには86議席が必要となります。過去2回の結果と比べますと、かなり高いハードルといえます。一方、選挙の帰趨を占うとされる定員が1人の「1人区」で候補者を一本化した立憲民主、国民民主、共産、社民の各党にとっては、改憲勢力の3分の2を阻止することができるかどうかが、選挙結果を評価する一つの指標になりそうです。与党と憲法改正に前向きな勢力が3分の2を維持できれば、安倍総理は、自信を持って憲法改正に向けた取り組みを加速させることになりそうです。一方、維持できなければ、憲法改正が具体的な政治日程から遠ざかる可能性があります。ただ、維持されなかった場合でも、自民党は、野党側に、より幅広く協力を求める必要があり、より柔軟な姿勢で臨むことになれば、憲法論議そのものは、逆に進むのではないかという見方もあり、改憲勢力の議席数は大きな注目点です。

では、実際に、安倍総理が求心力を維持できる議席数はどこにあるのか。参議院全体で与党の過半数から改憲勢力の3分の2まで開きが大きく、選挙情勢も踏まえて、引き続き議論になることも予想されます。

さて、今回の参議院選挙を考えるうえで、気がかりな点があります。それは選挙への投票意欲が、現状では、決して高くないことです。

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NHKの最新の世論調査で、参議院選挙に投票に行くかどうか聞いたところ、「必ず行く」が49%、「行くつもりでいる」が30%でした。これを3年前の前回の選挙と比べてみますと、この時の投票率は、参議院選挙では、過去4番目に低い54.7%で、同じ時期の調査では、「必ず行く」が60%でしたから、今回は、11ポイントも低くなっています。前回の調査方法は、「固定電話」を対象にしていましたが、現在は、「携帯電話」も組み合わせていますので、単純に比較できませんが、「必ず行く」という人が50%を割り込んでいたのは驚きでした。
通常国会の会期末まで吹いていた「解散風」が止んだことで、選挙への関心も薄れたという面があるのかも知れません。ここからは有権者の投票意欲を選挙の争点との関係で考えてみたいと思います。

まず、10月に予定されている消費税率の引き上げの是非です。毎日の生活や経済に直結する課題です。与党側は、「社会保障の充実のためにも引き上げは必要で、景気への影響を抑えるために十二分の対策を講じている」と主張。野党側は、「増税できる経済状況にはない」などとして、凍結や中止を訴えています。ただ、10月まで3か月を切り、事業者を中心に社会全体が引き上げを前提に準備を進め、消費者も税率引き上げの賛否とは別に、大きな買い物をする時期を考え始る人も多くなっているようです。引き上げに向けた流れは簡単には変わらないのではないかという見方が少なからずあるように思います。
また、消費税率の引き上げは、過去2回延期されましたが、いずれも政府・与党の側が引き上げの延期を判断し、その後の国政選挙で理解を求めました。今回は状況と構図が大きく違っていることも、投票意欲に微妙な影響を与えているのではないでしょうか。

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金融庁の審議会がまとめた報告書をめぐり注目を集めている年金制度をはじめとする社会保障のあり方も争点です。こちらも国民にとって身近な課題です。ただ、これまでの各党の議論を聞いていますと、この分野ならではの特徴がでているように思います。まず、年金制度が非常に複雑なことです。例えば、年金の支給額が少ない人への対策と制度そのものの抜本的な改革が、同時に語られることがあります。また、年金だけでなく、高齢者の雇用機会の確保をはじめとする働き方や、介護や医療、子育て支援とのバランスなど、多くの制度とも深く関係しています。さらに、給付の水準と国民の負担をどう考えるか、財源を確保するための安定した経済成長や、財政再建とどう両立させるかなど、論点は非常に多岐にわたります。有権者にとって、関心は強いものの、限られた期間で、主張の違いや実現可能性を判断しにくい争点でもあります。

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こうしたこともあって、選挙戦全体としては、与党側が「好調な経済、G20大阪サミットの成功など政権の実績」を強調するのに対し、野党側は、「金融庁の報告書を受け取らないなど、都合の悪いことにふたをする政権の政治姿勢」を批判する構図となっています。対決色が強まる一方で、政策論争は必ずしもかみ合っていないことも有権者の関心が高まらない要因のように思います。

では、社会保障のあり方など、国民の関心の高い争点を、選挙への関心や、投票意欲の向上に、どう結びつけていけばよいのでしょうか。有権者、とりわけ、投票率が低い傾向にあると指摘される若い世代にとって、今回の選挙は、将来、どういう人生を設計し、そのために望ましい社会の姿や急速に進む少子高齢化をどう乗り切るかを考えるよい機会になるはずです。

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国民の審判を受ける政党や候補者など政治の責任が重大であることはいうまでもありません。選挙戦では、とかく政策のメリットばかりが強調されがちです。しかし、国民が知りたいのは、政策の良さだけではなく、副作用やマイナス面も示した上で、なぜ必要だと考えているのかであり、実現への道筋を含めた説得力を求めているのではないでしょうか。これに応える姿勢がなければ、政治への関心は薄れ、政治不信につながりかねません。その意味で、今回の参議院選挙で問われるものは、政治が国民をつなぎとめることができるかどうかにあるように思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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