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「どうなる米中対立~G20大阪サミット~」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長
髙橋 祐介 解説委員 / 加藤 青延 解説委員 / 増田 剛 解説委員

大阪でG20サミットが始まりました。アメリカと中国が貿易問題をめぐって激しく対立する中で、あす開かれる米中首脳会談に世界の関心が集まっています。会談に臨むトランプ大統領と習近平国家主席の双方の思惑、そして大きな転換点に差し掛かりつつある米中関係が今後どうなっていくのか読み解きます。

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【大阪G20はいま】
今村)
まず議長国日本がどうG20に臨んでいるのか大阪で取材している増田委員がお伝えします。

増田)
こちら大阪の国際メディアセンターは、熱気に包まれた一日が終わろうとしています。今回、安倍総理が最も神経を使ったのが、米中の正面衝突を避けることでした。議長国の日本としては、米中の対立が会議全体の雰囲気に悪影響を及ぼし、首脳宣言がまとまらなくなるような事態は、万が一にも避けなければなりません。
このため、安倍総理はG20開幕前、習近平主席、トランプ大統領とそれぞれ会談しました。中国とは関係改善が進み、アメリカとは強固な同盟関係にあるという日本の独自の立場を生かし、習主席には対話を通じた問題解決の可能性を指摘。トランプ大統領には習主席との会談内容を説明し、柔軟な対応を促しました。これ以上の制裁と報復の応酬は、日本経済のみならず、世界経済全体の後退にもつながりかねないという思いからです。
アメリカと各国の対立をどう和らげるかも課題です。G20の常とう句だった「反保護主義」は、前回の会合ではアメリカの反対で見送られました。今回は日本として反保護主義の姿勢を貫きつつ、アメリカが納得できる表現をどう打ち出すかが、課題になります。あすのセッションでアメリカがどう出るのか。米中首脳会談の行方はどうなるのか。日本が、そして参加各国が、固唾を呑んで見守っています。


【① 会談の狙い】
今村)
あすの米中首脳会談は、閣僚級の貿易交渉が事実上決裂し、お互いに高い関税をかけあって対立がエスカレートする中で行われます。まず、アメリカ側はどのような狙いで臨むのでしょうか?

髙橋)
一気にブレークスルーまでは無理でも最低限、貿易交渉を元の軌道に戻す。それが今回アメリカ側の目標とするラインでしょう。会談を持ちかけたのは、トランプ大統領の方でした。もともと合意間近と思われた交渉が一転、先月物別れになったのは、中国が合意文書案に大幅な修正を求めて「約束を破ったからだ」と大統領は言うのです。

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そこで中国を引っ張り戻すための“切り札”として振りかざしたのが、中国からの輸入製品ほぼすべてを対象とする追加関税でした。その一方で、対中強硬派のペンス副大統領が、中国の人権問題をテーマに予定したスピーチを延期させるなど、会談への誘い水もかけました。ですから、ここまではトランプ大統領の狙い通り事が運んだと言えるかも知れません。しかし、会談が仮にうまく行って、双方が“一時休戦”まで漕ぎ着け、ひとまずアメリカが関税発動を見送ったとしても、米中対立がそのまま緩和に向かうとは思わない方がよさそうです。アメリカが中国に構造改革として求めている政府補助金や知的財産権の保護、外国企業の技術を強制移転させる問題など、まだ何ひとつ解決していないからです。
                           
今村)
一方の中国側ですが、習近平主席が当初アメリカとの会談に応じるのか微妙だという見方もありましたが、中国側は会談にどう臨もうとしているのでしょうか?
 
加藤)
習主席としては本来、首脳会談前にすべてを事務レベルできっちり固めておきたかったはずです。予測不能なトランプ大統領に首脳会談で振り回される事だけは避けたかったからです。しかし実務レベルの交渉で合意文書の内容がかなり煮詰まってくると、中国の主権が侵されかねない内容になったとしてひっくり返してしまい、かえって当初の目論見とは逆の結果になったのです。

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そこで、G20サミットの直前に、自らの立場を補強する新たなカードを集めました。それは、アメリカと対立する主要国の首脳らと次々に手を握る事でした。具体的には、今月14日にイランのロウハニ大統領と会談。さらに20日から21日にかけて北朝鮮で金正恩委員長とも会談しました。今回の米中首脳会談では、そうした会談の成果を披露することで、国際社会における中国の存在や役割を強調し、単なる米中二国間の取り引きだけには絞り込ませないという作戦であるように思えます。


【② 双方の思惑】
今村)
二国間の取引に持ち込ませないといっても、貿易摩擦がさらに激しくなれば、中国経済がさらに打撃を受けることになり、習主席も厳しい立場になるのではないでしょうか。

加藤)
習主席としては首脳会談で、中国側がアメリカ側を強く押すのも引くのも具合が悪いというジレンマの状態にあるように思えます。中国を見る上でのキーワードは「共産党“独裁”体制の堅持」です。習近平国家主席にとって、これが何よりの絶対命題だといえます。
それというのも、習近平指導部は、国内の言論統制を強化し、共産党の意向に従わない人を徹底的に排除するというやり方で14億の民を統治してきたのです。その統治の正当性を示す手段として、習近平政権は、経済発展、特に最先端技術の発展を柱に据え、将来的にはアメリカをも凌駕する一大強国にしてみせるという目標をかかげてきました。それがアメリカをいたく刺激することになり、今日の米中貿易戦争になったのです。
もし中国がアメリカに対して強く出れば、経済的により強い締め付けを受けることになり、目標に掲げた経済発展は行き詰まってしまいます。逆にアメリカ側に易々と譲歩すれば、国内の強硬派から弱腰と見られ、習近平指導部の権威は失墜してしまうおそれがある。いずれにしても「共産党独裁体制の堅持」にとってはマイナスなのです。

今村)
今回の会談に向けて習近平主席は、アメリカをこれ以上刺激しないよう事前に配慮する姿勢も見られましたね。

加藤)
トランプ大統領を下手に刺激すると、やぶへびになりかねないという警戒感があるためだと思います。このため、このところの中国側の姿勢は、G20も米中首脳会談も、穏便にやり過ごしたいという気持ちが強くにじみ出ているように思えます。中国のメディアは、米中の対立が表面化すると、アメリカに対してかなり強硬な論調を発信し続けてきたのですが、習近平主席は最近、トランプ大統領を「友人」と呼び大変ソフトな姿に“変身”しました。香港では、このG20サミットに合わせて、中国への容疑者送還を可能にする条例案の完全撤回を求める大規模な抗議運動が続いていますが、香港当局は、今のところ比較的寛容な姿勢を保っています。これも、米中首脳会談でこの問題をアメリカ側から追及されたくないという中国側の思惑を反映したものでしょう。

今村)
一方のアメリカ側ですが、来年の大統領選挙に向けた動きが活発化しています。トランプ大統領は、民主党の有力候補に対して劣勢に立たされているという世論調査もあるそうですから、「中国とのディールは急がない」と言うほどの余裕はないのでは?

髙橋)
選挙まで1年半近くある今の段階では、そうした世論調査も参考程度かと思います。ただ、現職の強みを最大限発揮して、再選への道筋を確かなものにすることは、トランプ大統領にとっての至上命題です。中国との関係を見る上でもキーワードは「トランプ“再選”が至上命題」です。
この再選の成否を最も大きく左右するのは、おそらく経済です。いまの好調なアメリカ経済をトランプ政権最大の実績と位置づけているからです。景気を冷やすリスクを増やさないためにも、中国とは出来るだけ早く、どんなに遅くても年内にはディールに持ち込みたいのが本音ではないでしょうか。
しかし、いまの米中対立は、両国の覇権争いの様相を呈しています。トランプ政権は、すでに中国の通信機器大手ファーウェイと関連企業を安全保障上の懸念を理由に排除しています。先日もまた中国のスーパーコンピューター企業5社を懸念先のリストに追加しました。5Gや人工知能などといったハイテク技術は、安全保障の問題でもあります。いまの時代は、従来別々に考えられてきた経済と安全保障が、互いに密接に絡むところに特徴があります。この問題はやはり短期で解決することは難しいでしょう。いまのアメリカ議会は、党派の違いを超えて、ある意味トランプ政権以上に中国に対しては強硬ですし、国内世論も、中国からの覇権をかけた挑戦には厳しい視線を向けているからです。


【③ 今後の見通し】
今村)
ワシントンでは議会も含めて中国への厳しい見方がさらに強まっているということは、アメリカの中国に対する見方が大きく変わろうとしていうようにみえますが、米中対立の行方をどうみますか?

髙橋)
ことしは米中の国交樹立からちょうど40年。これまで米中関係は、まるで振り子のように関係悪化と関係改善の間を揺れ動いてきたと言われます。アメリカの歴代政権の対中政策もまた同じように対立と融和の間を行き来してきました。今問われているのは、この振り子が対立に振れたまま止まってしまうかという問題です。

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トランプ政権の「国家安全保障戦略」は中国を「アメリカを追い落とそうと企て、経済的な侵略を働く修正主義国家だ」と位置づけます。中国には粘り強く働きかけ、辛抱強く付き合えば、やがて民主化が進み、既存の国際秩序を尊重する国になるはずだ。そうした楽観論も最近はめっきり聞かなくました。貿易摩擦ひとつとっても、いまの両者の対立は、単に利害の調整を争っていると言うよりは、価値観や世界観そのものを異にする根深い違いをはらんでいるように見えてなりません。アメリカの対中政策は歴史的な岐路に差し掛かっているようです。

今村)
そこで、中国を自国の権益を脅かす競争相手とみなしているアメリカに対し、中国はどう向き合っていくのでしょうか。

加藤)
中国としては、アメリカとの貿易摩擦を長期戦に持ち込もうとしているように見えます。それこそが「共産党独裁体制の堅持」という絶対命題の延命策でもあるからです。
そのためには、将来中国をアメリカをも凌駕する一大強国にするという野心的な看板をおろすことは難しいでしょう。むしろ今後、継続ないし拡大するかもしれません。

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例えば、習主席が提唱した巨大な経済圏構想「一帯一路」は、当初はユーラシア大陸にまたがる陸と海のシルクロードに過ぎませんでしたが、いまや、北極海や南太平洋、中南米、カリブ海までその版図を拡大しています。しかも一帯一路構想は、けっして点と点を結んだ線ではない。例えば次世代の移動体通信、5Gなど、中国式の最先端技術を普及させることで、線を面に変え、圧倒的なシェアを拡大しようともくろんでいるのです。これまでアメリカスタンダードで動いてきた世界を、これからどんどん中国スタンダードに塗り替えようという動きは続くでしょう。ですから仮に、今回の米中首脳会談で、当面の対立関係がある程度緩和されても、「新冷戦」とも言われる米中の対立構造自体はこれからも続き、それが世界の不安定要素になり続けるのではないかと懸念しています。


【まとめ】
今村)
中国は、2049年の建国100年に向けてアメリカに並び覇権国になることを目指していて、二つの超大国の対立は、今後、数十年続き、新たな冷戦に入った見方すらあります。ただ、かつてのアメリカと旧ソ連の冷戦と大きく異なるのは、アメリカと中国が経済的に切っても切れない関係にあり、対立が深まれば、お互いの経済が大きな打撃を受ける相互依存関係にあることです。
二つの超大国に対し、分断ではなく、対話を通じて互いに結びつきを強めることが結果的に相互の利益に繋がると伝えることができるのは、アメリカの同盟国であり、かつ中国とも互恵関係にある日本だとアジアをはじめ世界各国も期待を寄せています。日本が対立する米中の接点としての役割を果たすことができれば、日本外交の国際的な存在感を高めるチャンスでもあります。
国境を越えたヒトやモノの往来が益々加速し、インターネットで世界が瞬時に繋がる時代に逆行する形で、米中が決定的に対立し国際社会の分断が深まるのか、それとも隔たりを抱えつつも、何らかの合意を得ることができるのか、超大国の二人のリーダーはあす大阪で渡り合うことになります。

(今村 啓一 解説委員長 / 髙橋 祐介 解説委員 / 加藤 青延 解説委員 / 増田 剛 解説委員)

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