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「G20 プラスチック・温暖化 持続可能な未来は描けるか?」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

 今週末、大阪で開かれるG20サミットでは、海洋プラスチックごみが議題に挙げられると見られるなど環境問題を含む「持続可能な成長」がひとつの焦点になっています。そこでG20が持続可能な未来を描けるのか?環境問題に焦点をしぼって展望します。

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 先進国と新興国の首脳が集うG20サミットの正式名称は、「金融・世界経済に関する首脳会合」。元々は財務大臣や中央銀行総裁の会合としてスタートしましたが、今では国際秩序から保健衛生まで幅広いテーマを首脳が話し合う場になっています。

 日本が初めて議長国を務める今回、米中摩擦を抱える世界経済を始め様々な議題が想定されますが、その中で海洋プラスチックなどの環境問題も焦点になると見られています。この環境問題に関しては、首脳会合に先立って具体的な交渉を行うべくG20では初めて各国の環境大臣らが集まる会合も行われました。

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 今月16日まで長野県軽井沢で「エネルギー・環境閣僚会合」としてエネルギー問題と環境問題を共に取り上げる形で開催され、原田環境大臣と世耕経済産業大臣が議長を務めたのです。
 G20で環境問題が重視されるようになってきた背景には、世界経済が成長を続ける上でも今や温暖化などの環境問題が大きなリスク要因であり、その解決には先進国だけでなく新興国なども含めて取り組む必要があることや、逆に環境対策が新たな経済成長の原動力にもなるとの認識が広がってきたこともあると言えるでしょう。
 この閣僚会合の交渉結果は大阪の首脳会合に生かされますが、ではそこでどんな合意がまとまったのか詳しく見ていきます。

 軽井沢で各国の閣僚が合意した共同声明の中で、環境分野に関し特に注目されたのが、海洋プラスチックごみと地球温暖化にどう対処するか?という問題です。
 まず、最近特に関心を集めている海洋プラスチックごみの問題。

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 今や年間およそ800万トンものプラスチックが世界の海に流入しているとも推計され、食物連鎖などを通じて私たちの体内にも取り込まれていると見られています。WWF(世界自然保護基金)は今月、私たちは週に5グラム、クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取しているとする研究結果を発表するなど懸念が広がっています。
 日本はG20を前に、レジ袋有料化の義務化や使い捨てプラスチックを2030年までに25%減らすことなどを軸とした「プラスチック資源循環戦略」をまとめました。こうした取り組みを国際的に進めていけるかが注目される中、閣僚会合では「海洋プラスチックごみ対策実施枠組」を作ることに合意しました。しかしその内容は、「各国が自主的に行動し、情報を共有する」というもので「何を、いつまでに、どれだけ行う」といった具体的な数値目標などは一切盛り込まれていません。
 海洋プラスチックについては、つい先日ASEAN(東南アジア諸国連合)も海洋ごみの削減に合意する「バンコク宣言」をまとめたように、問題意識が先進国に限らず広がっていて意見の対立は少ないとも見られていたので、閣僚会合でもっと具体性のある合意をまとめられなかったのかは問われるところです。
 今後に期待できる点を探すとすれば、閣僚声明の付属文書に、まだ正確に把握されていない海洋プラスチックの測定方法や人体への影響などについて、科学的な知見を得ることを奨励すると書き込まれたことです。例えば、地球温暖化問題ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が長年にわたり温暖化の予測や影響などの科学研究をまとめ、その報告がパリ協定などの議論の土台にもなってきました。このように海洋プラスチックでも科学的知見をまとめる存在が必要と考えられ、その先には国際条約など拘束力のある枠組み作りが求められるでしょう。そうした具体的な行動に今後つながったなら、今回の環境閣僚会合の成果と評価できるのではないでしょうか。

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 そして厳しい状況が浮き彫りになったのが地球温暖化対策です。今世紀末の気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには2050年頃にはCO2の排出を実質ゼロにする必要があると見積もられ、CO2の削減強化は待ったなしの状況です。
 しかし、パリ協定からの離脱を宣言したアメリカの存在によって開催前から具体的な進展は難しいとの見方もあり、議長国の日本は当初から「アメリカを取り残さない」として、アメリカと他の19カ国が対立する構図になるのを避けることに重きを置いていました。
 その結果は、温暖化が進むことを前提としてそれに備えることを意味する「適応」と被害を減らすための強靱なインフラ整備の重要性を挙げて、各国の取り組みを情報共有する付属文書を合意するに留まりました。温暖化を食い止めるCO2の削減強化に踏み込むこともなく、パリ協定自体には「留意する」としているだけです。
 去年アルゼンチンで開かれたG20では、「パリ協定署名国は、それが不可逆的であることを再確認し、完全な実施にコミットする」と要するにアメリカとパリ協定を守る国々とを分けたような首脳宣言を発表しました。これに対し今回は、「アメリカを取り残さない」ことを重視し、確かに分裂は避けられました。しかし、その内容は必ずしも前進と言えるのか?G20全体がパリ協定に「留意するだけ」とも見えるものになったことは、むしろ世界全体の温暖化対策を後ろに引き戻すことにもつながりかねず、今後も注視していく必要があるでしょう。

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 このように前哨戦とも言える軽井沢の閣僚声明は評価の難しい点もあり、今週末の首脳会合でどれだけ踏み込めるかが注目されますが、その行方はさらに予測が困難です。
 まず世界経済を巡る目の前の課題が深刻な中で、環境問題のような直接は痛みが見えにくい分野で各国首脳がどの程度議論を深められるのか?そして、アメリカのトランプ大統領がこうした問題にどの程度向き合う意思を見せるのか?ただ、去年中国などへのプラスチックごみの輸出が止まったことで日本だけでなくアメリカも処理できないプラごみが国内に溜まり困っている現状があります。経済だけでなく環境問題も、今や超大国と言えど一国だけで解決するのは容易ではありません。
 こうした中改めて考えるべきキーワードはやはり「持続可能性」ではないでしょうか?経済成長でも環境分野でも、一時的には自国の利益を最優先する一国主義が得をするように見えても、長期的に成長を持続していくためには国際協調が欠かせない。G20はそうした認識を共有する場でもあったのではないでしょうか。
 そして、様々な困難に直面している時だからこそ、G20が日本で開かれてよかったと言われるような成果が得られるか、首脳会合には問われていると思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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