NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「F35墜落から2か月 大量購入計画の行方は」(時論公論)

増田 剛  解説委員

アメリカから導入した航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35。
4月上旬、このF35が墜落した事故は、世界に衝撃を与えました。以来、懸命の捜索が続けられてきましたが、防衛省は、事故からまもなく2か月になるのにあわせて、事故原因を究明するための捜索を打ち切りました。一方で、日本政府は、今後10年程度で、F35を147機購入する計画を進めています。総額で優に1兆5000億円を超えるビッグプロジェクトです。世界で初めてのF35Aの墜落事故は、この大量購入計画に影響を与えるのか。そして、日米貿易交渉の駆け引きの中で、F35が帯びるに至った「政治性」とは何か。
今夜は、こうした問題について考えます。
j190607_01.jpg

解説のポイントです。
まず、今回の事故の経過と原因究明の状況をおさえ、事故が、F35の大量購入計画に影響を与える可能性について考えます。
その上で、F35の背後に透けて見える、貿易交渉をめぐる日米両国の思惑をみていき、今の日米関係の深層を考察します。
今月4日、岩屋防衛大臣は、今回のF35の墜落事故について、事故原因を究明するための捜索を打ち切ったと発表しました。
j190607_02.jpg

「事故原因を究明すべく、捜索や引き揚げの活動を徹底してきたが、」「これ以上、事故原因の究明につながる材料は出てこないと判断した」。
青森県三沢市の東135キロの太平洋上で、訓練中だったF35A1機が墜落したのは、4月9日の夜7時半ごろでした。パイロットは「ノック・イット・オフ=訓練中止」と無線で伝えたのを最後に連絡が途絶え、レーダーからは、機影が消えました。
以来、自衛隊とアメリカ軍による懸命の捜索が続けられましたが、現場海域の水深は1500メートルもあり、捜索は難航しました。残念ながら、パイロットの行方はわからず、岩屋大臣は、きょう、捜索の状況から、パイロットの死亡を認定したと発表しました。一方、事故原因については、これまでに、エンジンや主翼の一部は発見されましたが、事故原因を究明するためのカギとされたフライトデータレコーダーのメモリーは、見つかっていません。
こうした状況をふまえ、事故からまもなく2か月になるのを前に、防衛省としては、区切りをつけたかったのでしょう。
j190607_03.jpg

では、その墜落事故が世界に衝撃を与えたF35とは、そもそもどのような戦闘機なのか。
F35は、アメリカを中心に9か国が共同開発した最新鋭戦闘機で、敵のレーダーに探知されにくいステルス性と、戦闘に関するデータを瞬時に統合・共有する情報ネットワーク機能の高さが特徴です。ステルス性と情報機能に優れ、敵の防空網をすり抜けて侵入できるF35は、従来の戦闘のあり方を根底から変える「ゲームチェンジャー」であり、最先端の技術が凝縮された機体は、いわば「軍事機密の塊」です。
アメリカ軍が今回の捜索に全面的に協力したのも、機体の一部が、万が一にも、中国やロシアの手に渡らないようにするためだったとみられています。高性能の戦闘機開発をアメリカと競う中国やロシアは、F35の情報を、それこそ、破片や付着した塗料の類であっても、のどから手が出るほど、ほしいだろうと思います。
j190607_04.jpg

一方、事故原因の究明は、どの程度、進んでいるのか。
防衛省は、事故機と一緒に訓練していたF35の機体同士の通信データや、地上の基地が捉えたレーダー情報を分析し、一緒に訓練していた隊員から聞き取りも行って、原因究明を進めています。今のところ、パイロットが平衡感覚を失った状態になった可能性が高いとみているようです。ただパイロットが、なぜそのような状態になったのかは、なお判然としません。
j190607_05.jpg
今回の事故の原因が、パイロットの体調の異変ではなく、機体そのものの不具合だったという結論になれば、計画に影響することは避けられないとみられていました。こちらをご覧ください。

F35は、任務の特性にあわせて、A型、B型、C型の3つのタイプが開発され、このうち、F35Aは、地上の滑走路を離着陸するタイプ、F35Bは、艦船での発着ができるよう、短距離での離陸と垂直での着陸ができるようにしたタイプです。
日本は、空軍力を強化する中国やロシアの動向をふまえ、航空戦力を優位に保つ必要があるとして、今後10年程度でF35Aを105機、F35Bを42機、あわせて147機導入する計画で、これまでに、F35A13機が三沢基地に配備されました。墜落したのは、このうちの1機です。
j190607_06.jpg

ただ、岩屋防衛大臣は、事故が起きた後も、「計画を変更する考えはない」と強調してきました。
背景にあるのが、F35が帯びている「強い政治性」です。
F35は現在、米英はじめ13か国が調達計画を進めています。今回の事故の調査で、仮に、F35に機体の不具合があり、それが事故原因に関係しているという結論になれば、そして、日本が調達計画を変更するようなことがあれば、それこそ、世界中に影響を与えることになります。しかも、F35は、「バイ・アメリカン」を提唱するトランプ大統領がトップセールスをかける主力商品です。先月28日、来日中のトランプ大統領は、神奈川県の横須賀基地で、海上自衛隊最大の護衛艦「かが」に乗り込み、安倍総理とともに、自衛隊員とアメリカ軍兵士に訓示しました。トランプ大統領のF35についての力説ぶりは際立っていて、「日本は、アメリカの同盟国の中で、最大規模のF35戦闘機群を保有することになる。この護衛艦も、F35を搭載できるように改修され、様々な脅威を抑止できるようになる」といった具合でした。
j190607_07.jpg
ある政府関係者は、「対米関係を考えれば、日本に、F35の購入計画を変更する選択肢はない」と話していました。
日本はアメリカから、F35を147機導入する計画です。
1機あたりの価格は100億円以上、貿易という観点でみれば、総額で1兆5000億円を超えるビッグビジネスです。
「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領は、米国製品購入拡大と対日貿易赤字削減を強く求めており、日本にとって、F35は、事実上、その要求に応えるメッセージになっています。
j190607_08.jpg
日米貿易交渉で、アメリカは、自動車への追加関税をちらつかせながら、農産物の関税引き下げを求めています。トランプ大統領は、来日中、貿易交渉の「8月決着」に言及し、参議院選挙後の早期妥結を求める姿勢を鮮明にしました。ただ日本は、農産物の関税をTPP水準までしか引き下げる考えはありません。

そこで、期待しているのがF35です。F35の大量購入は、同盟強化の象徴として内外にアピールできるだけでなく、対米黒字を減らし、貿易不均衡を緩和する効果もあります。日本にとっては、農産物での妥協を抑えるカードになっている感すらあります。
ただ、こうした両国の思惑、特に、日本のF35購入が対日赤字削減につながるかのように公言するトランプ大統領の姿勢には、「安全保障を貿易に絡めて良いのか」という批判も聞かれます。外交と通商をめぐるパワーゲームの中で、強い政治性を帯びるに至ったF35の購入計画。その姿は、安全保障と貿易の狭間で揺れる今の日米関係そのものを象徴しているようにも映ります。
j190607_09.jpg

(増田 剛 解説委員)

キーワード

関連記事