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「自動運転 逆走事故 問われる安全対策」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

自動運転の安全性を、どう確保したらいいのでしょうか。
横浜市を走る新交通システム「シーサイドライン」で2019年6月1日、列車が駅を出発した際、逆向きに動き出して車止めに衝突しました。この事故で乗客14人が重軽傷を負いました。列車は、運転士がいない自動運転でした。
なぜ、このような事故が起きたのか、国の運輸安全委員会による調査が進められています。

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▽今回の事故の状況を見ながら、
▽異常があっても守るべき乗客を、なぜ守れなかったのか、
▽今後、自動運転の安全対策をどう進めていく必要があるのか考えます。

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まず、事故の経緯を見てみます。

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事故は、6月1日、横浜市を走る新交通システム「シーサイドライン」で起きました。始発の駅である新杉田駅を5両編成の列車が出発しようとしたところ、駅を出る方向とは逆向きに走り出し、25メートルほど先にある車止めに衝突しました。この時のスピードは、時速20キロを超えていたとみられ、およそ30人の乗客のうち、14人が重軽傷を負いました。

シーサイドラインは、ATC=「自動列車制御装置」とATO=「自動列車運転装置」という2つのシステムにより、無人で自動運転されています。
どのように運転しているのか、運転士が操作するときと比較しながらみてみます。

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運転士がいる有人運転の場合、駅を出発してから制限速度を守り、前の列車と安全な距離を保つように運転し、運行ダイヤに沿って次の駅まで列車を走らせます。

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制限速度オーバーをしたり、前の列車に接近しすぎたりすると、ATCが働いて自動でブレーキがかかります。

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無人で自動運転する場合は、ATOが搭載されています。ATOは、運転士の役目をコンピューターが代わりにするものです。あらかじめ、どこでどれくらいのスピードを出すのかといった運転の仕方が入力されています。
制限速度を守るようプログラムされていますが、ATOが仮に速度オーバーや他の列車と接近するような運転をすると、有人の時と同様にATCが働いて、速度をコントロールし、事故を防ぐ仕組みになっています。
さらに運転指令所があります。すべての列車を集中管理し、安全に運行されていることを確認するほか、駅ホームの状況をモニターカメラなどで監視しています。

こうした安全対策があるにもかかわらず、なぜ事故が起きたのか。原因は、いまだ調査中ですが、この事故には不可解な点が多いとされています。その一つが、直前まで順調に運行していた点です。

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事故を起こした列車は当日、朝から15往復していますが、異常は見られなかったということです。
また、終点の新杉田駅に到着したとき、ATOが次の出発の準備をしますが、この手順にも問題ありませんでした。地上側から進行方向の切り替えを指示が列車に送られ、列車のATOは、方向の切り替えが完了したことを信号で返します。こうしたやり取りは正常に行われ、列車のライトは、上図の左が前を示す「白」、図の右が後ろを示す「赤」でした。出発の準備は、整ったはずでした。

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しかし、走り始めると逆の方向に進み、車止めにぶつかったのです。
列車は、出発の準備ができていたにも関わらず、逆走したことから、原因は地上設備ではなく、車両側にあったのではないかとみられています。それが電気系統なのか、コンピューターのプログラムに問題があったのか、運輸安全委員会などの調査を待たなければなりません。

ここで、私が気になるのは、何らかの不具合があったにしても、14人もの重軽傷を出し、乗客の安全を守れなかった点です。

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新交通システムには、国がつくった「新交通システム設計基準」という技術基準があります。ここには安全確保を図るために「異常が起きた場合に安全側に作用するよう考慮する」と記されています。これは通常の仕組みが働かないとき、別の仕組みが乗客の安全を守るという、いわゆる「フェールセーフ」を取り入れるよう求めているものです。フェールセーフは、鉄道や航空機などの交通機関の基本的な考え方です。

では、シーサイドラインのフェールセーフはどうだったのか。

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シーサイドラインには、速度オーバーなどの際に働くATCを二重に備えているだけでなく、両方のATCに異常が起きたときには、別の仕組みで「非常停止」が作動し、乗客の安全を確保するようにしています。これが、シーサイドラインのフェールセーフです。

では今回、なぜフェールセーフが利かなかったのか。

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列車は、前方向(上図の左方向)に進んだ時には、ATCや非常停止によるフェールセーフに守られながら走ることができます。
一方、逆走(上図の右方向)した場合も、ATCや非常停止は機能します。しかし、このとき設定される制限速度は、駅の出発を想定しているため時速40キロです。停止した状態から逆走した列車は、制限速度の40キロ以下であるため、ATCは働きません。つまり、車止めに衝突するまでの間、列車を止めるシステムは事実上ありませんでした。

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この、停止位置と車止めの間が、フェールセーフのいわば「死角」になっていたため、乗客を守ることができなかったと考えられます。

今回の事故で、運行会社は「逆走は想定外だった」と説明しました。
仮に、この列車を人が運転していたと考えると、駅の出発時に逆走することは想定しにくく、何かの不具合で逆走したとしても運転士がすぐに止めようとするでしょう。そうした有人の運転から発想した場合、逆走を「想定する」ということにならないかもしれません。
ただ、ここに自動運転の怖さがあると思います。

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システムが不具合を起こしたとき、相手は人ではなく、コンピューターです。コンピューターの不具合によって、列車が私たちが想像もできない動きをすることは十分に考えておかなければならないと思います。自動運転を導入するからには、フェールセーフが抜け落ちるような条件を極力なくさなければなりません。今回の事故は、自動運転の難しさを、あらためて突きつけました。

では、今後、何が求められるのでしょうか。

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一つは、逆走した原因の究明です。その原因に基づいてシステムの改修をするとともに、自動化とは反対に人が介在する範囲を増やす必要はないのか、見直しの検討が求められます。
そして、もう一つ指摘しておきたいのは、「フェールセーフの死角」に気づかなかった原因についても、徹底した検証が必要だということです。
新交通システムは、
▽ブレーキのほか、
▽乗り降りに使う車両の扉やホームドア、
▽列車が走る軌道など
様々なシステムや設備で構成されています。これらに不具合があると、大きな事故につながる恐れがあります。こうしたシステムや設備のフェールセーフに死角はないのか、検証結果を踏まえて、全国の自動運転の新交通システムや鉄道の安全対策をもう一度点検することが求められます。

自動運転は、新交通システムだけでなく、都心で大勢の人を運ぶJR山手線でも走行試験など実現に向けた基礎的な検討が始まっています。背景には、人手不足、さらにホームドアの設置が進み、自動運転導入に向けた環境が整ってきていることがあります。
そうした中、起きた今回の事故。関係者には、これを重く受け止め、安全な自動運転はどうあるべきなのか、原点に立ち返って考えてほしいと思います。

(中村 幸司 解説委員)

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