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「分極化するEU 統合の行方は」(時論公論)

二村 伸  解説委員

今月23日から26日まで行われたヨーロッパ議会選挙は、統合を推進してきた中道右派と中道左派の2大会派が大きく議席を減らし、代わって反EUや反移民を掲げる極右などEUに懐疑的な政党や環境重視の政党などが躍進しました。選挙を受けて28日、さっそく臨時のEU首脳会議が開かれ、ヨーロッパ委員会の次期委員長などの人事をめぐる協議が始まりましたが、議会の勢力図が複雑化したため人選は難航しそうです。一方、EU離脱をめぐって迷走を続けるイギリスは、合意なき離脱を求める政党が圧勝し、メイ首相辞任後の離脱への道のりはますます不透明感を増しています。

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ヨーロッパ議会は各国の議会とは異なり、ヨーロッパ委員会の活動をチェックするEUの立法府の役割を担っています。これまで注目度は低かったのですが、ポピュリズムやナショナリズムが高まり、EUが岐路にあるといわれる中だけに今回は有権者の関心も高く、投票率は2000年代に入って最も高い51%で、前回を8ポイント上回りました。

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開票はまだ一部の国で続けられており、議席数が若干変わる可能性もありますが、最新の獲得議席予測はこのようになっています。政治信条を同じくする各国政党の集まりである会派は8つあり、▼ドイツの与党・キリスト教民主同盟やスペイン国民党など中道右派の政党グループ「ヨーロッパ人民党」が178議席を獲得して最大会派となったものの、前回より39議席減らしました。▼次いでドイツ社会民主党やフランス社会党など中道左派の政党グループ「社会民主進歩同盟」が、33議席少ない153議席となっています。各国で政権を担い、ヨーロッパの統合を推し進めてきた2つの会派あわせても331議席にとどまり、40年前にヨーロッパ議会の選挙が始まって以来初めて過半数を割り込みました。代わって議席を増やしたのが反EUや反移民などを掲げる極右政党などEUに懐疑的な政党と、緑の党などの環境重視の政党、それにリベラル派の政党です。

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国別でみてもEUを代表する国々が衝撃的な結果となりました。
▼イギリスでは、EUからの合意なき離脱を求める離脱党が圧勝。与党保守党は5位、得票率は1けたと惨敗でした。
▼フランスでは極右政党「国民連合」がトップとなり、共和党と社会党の2大政党が大幅に議席を減らしました。
▼イタリアでも極右の「同盟」が30%をこえる得票率で第一党に躍進しました。
▼これら3か国のほか、ドイツでは社会民主党が歴史的敗北を喫し、連立政権の存続が危ぶまれる事態となりました。
なぜ、EUを引っ張ってきた主要政党が支持を失ったのか、イタリアの同盟を率いるサルビーニ内相の言葉がその理由を端的に表しているのではないでしょうか。「人々は権力を持ったエリートに仕えるヨーロッパにうんざりしている。選挙結果はヨーロッパが変わる兆しだ」。一般市民の声に耳を傾けず一部のエリート、特権階級のための政治に、有権者はノーを突き付けたというのです。大きな権限をもちすぎたEUから主権を取り戻すべきだというEU懐疑派の主張は多くの有権者に受け入れられやすく、政府への不満の受け皿となったのです。リーマン・ショック後の厳しい財政事情により手厚い社会福祉が打ち切られたことや、グローバル化によって格差が拡大したことも政府への不満、政治不信を助長しました。中道左派と右派の政策の違いが見えにくくなったことも、既存の政党の支持率低下につながっています。

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では、今回の選挙結果が、ヨーロッパの統合にどのような影響を及ぼすでしょうか。統合を推し進めてきた主要政党が議席を減らしたものの、同じ親EUであるリベラル派の政党や緑の党が議席を大きく増やしたことに安堵する人が、私が話をしたEUの政治家でも大勢いました。2大会派とリベラル派や環境派による親EUが多数派を形成することになれば、分裂の危機や統合の後戻りは避けられるからです。とはいえ、EUの分極化が進み、発言力を増す極右勢力の抵抗も予想されるだけに、貿易や移民・難民の受け入れをはじめ個別の政策では合意形成が難しく、物事が決まるまで時間がかりそうです。
さらに多くの国で協調より自国第一主義が幅を利かせています。アメリカ・トランプ政権の保護主義やロシアの拡張主義に対抗するためには各国の結束が何よりも重要ですが、現状では1つにまとまるのは容易ではありません。EUがこれ以上求心力を失えば国際社会における存在感の低下は避けられません。

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危機を脱するにはEUの改革は避けて通れませんが、懸念されるのは統合の両輪であるドイツとフランスの溝が深まっていることです。マクロン大統領が提唱したユーロ圏共通予算の創設にドイツは消極的。一方、ヨーロッパ委員会の次期委員長にメルケル首相が推す、ヨーロッパ人民党代表であるドイツ人のウェーバー氏を、マクロン大統領は政治経験が少ないとして否定的です。

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そしてもう一つのEUのリスク要因がイギリスです。来月7日に辞任するメイ首相の後任にだれがなるのか、そしてEU離脱に向けて国をまとめきれるのか、懸念が強まっています。
7月にはイギリス全土の保守党党員による郵便投票が行われ、新しい党首が選ばれて、首相に就任することになりますが、メイ首相の辞任表明後すでに11人が後任に名乗りを上げ、最有力候補のジョンソン前外相をはじめほとんどが離脱派です。ヨーロッパ議会選挙でも離脱党が圧勝しただけに、合意なき離脱の可能性が高まったと市場関係者は警戒を強めています。10月の離脱期限までに協定案がイギリス議会で可決され円満離脱となるのか、あるいは合意なき離脱に向かうのか、みたび離脱延期の可能性もあり、イギリスとEUは先の見えない不安定な状況が続きそうです。

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さらに、今回スコットランドではEU離脱に反対する政党が第一党になりました。スコットランド自治政府のスタージョン首相は、イギリスからの独立の是否を問う住民投票をあらためて行いたいとしており、スコットランドの独立論争が再燃する可能性もあります。

このようにEUとイギリスはさまざまな課題と不安材料を抱えています。加えて今年はEUの人事の年であり、ヨーロッパ委員長の他、EUの大統領、それにECB・ヨーロッパ中央銀行総裁の顔ぶれが一新するため、これらのポストをめぐる各国の駆け引きが激しくなりそうです。冷戦の終結を象徴するベルリンの壁崩壊からまもなく30年、自由と民主主義の理念のもと寛容と共存、結束を重視して統合を進めてきたEUはこのまま深化を続けるのか、それとも価値観の多様化によって亀裂を深めたあげく行き先を見失うのか、EU各国指導者には国際社会の不安を払拭するための努力を望みたいと思います。

(二村 伸 解説委員)

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