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「日米首脳会談 期待と懸念と」(時論公論)

増田 剛  解説委員
神子田 章博  解説委員

(増田)
アメリカのトランプ大統領が、令和になって初めての国賓として、おとといから日本を訪れています。きのうは、ゴルフや大相撲観戦など、異例なほどの歓待を受けたトランプ大統領。きょうは、即位された天皇陛下と、外国の首脳として初めて会見した上で、安倍総理大臣との日米首脳会談に臨み、貿易や北朝鮮問題、イラン情勢などをめぐって、意見を交わしました。国を挙げての「もてなし」は、会談の成果につながったのか。会談の内容と今後の課題について、経済担当の神子田解説委員とお伝えします。

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神子田さん、注目されていた貿易問題については、議論を加速させることで合意しましたね。

(神子田)
トランプ大統領は、記者会見で「アメリカの目標は輸出を促進するための貿易障壁を取り除くことだ」と述べ、日本との間の貿易赤字を削減に改めて意欲を示しました。またトランプ大統領は、首脳会談の冒頭で「おそらく8月によい発表ができるだろう」と述べています。この8月という時期について、日本政府としては、夏の参議院選挙への影響を考えると狙い通りともいえます。ただ嵐の前の静けさととらえたほうが良いのではないでしょうか。

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実際にトランプ大統領は、きのうツイッターで、貿易問題の中でも「農業と牛肉」を強調し、「大きな数字を期待すると述べました。農家はトランプ大統領の重要な支持基盤で、日本への農産品の輸出の大幅な拡大は、来年の大統領選挙を有利に進めるうえで欠かせないからです。
焦点はアメリカ産農産物の関税をどれだけ引き下げるかです。
去年秋の日米首脳会談後の共同声明では、「TPP環太平洋パートナーシップ協定の水準を上回る幅の関税の引き下げには応じないとする日本の立場をアメリカ政府が尊重することで合意しています。このため、日本としてはあくまでTPPの水準の範囲内での関税引き下げにとどめたい方針です。これに対しトランプ大統領はきょうの記者会見であえて発言を求め「アメリカはTPPとは関係ない。何も縛られていない」と述べており、交渉の行方は予断を許しません。
またこの共同声明では、自国の自動車産業の製造と雇用の増加をめざすアメリカの立場を日本政府が尊重することが盛り込まれています。このため、アメリカが農業で日本側の要求をのんだとしても、返す刀で自動車分野での日本の譲歩を求めてくる可能性があります。

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トランプ大統領は、おとといの夕食会で、トヨタ自動車の豊田章男社長ら日本企業の幹部に対し、アメリカへのさらなる投資を呼びかけました。今後日本メーカーが輸出を一定の範囲内に抑え現地生産の拡大をせまってくる可能性もあります。今後8月に向けて交渉が激しさを増していくことが考えられます。

(増田)
そして北朝鮮問題です。トランプ大統領は、記者会見に先立って、拉致被害者の家族と面会し、「安倍総理は、この問題を最も重視している。我々は共に働きかけ、皆さんの家族を故郷に連れ戻したい」と述べました。

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首脳会談では、安倍総理も、拉致問題の前進に向け、前提条件を付けずにキム・ジョンウン委員長との日朝首脳会談の実現を目指す方針を説明。キム委員長と二度にわたり会談した経験を持つトランプ大統領に、側面支援を要請しました。トランプ大統領は「全面的に支持する。あらゆる支援を惜しまない」と応じました。安倍総理としては、まずは、首脳会談のハードルを下げ、トランプ大統領の協力で会談を実現し、その後の国交正常化交渉の中で、拉致問題の解決を図る戦略です。これに対しては、「拉致問題が置き去りになるのではないか」と懸念する声があるのも事実です。安倍総理も、リスクがあることはわかっているでしょう。それでも、「北朝鮮はトップダウンの国。トップと会って話をしなければ、何も進まない。トランプ大統領が拉致問題の解決に意欲をみせている今がチャンスだ」と考えているのです。

(神子田)
今回の会談では、北朝鮮に加えて、イラン問題も話し合われたようですね。

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(増田)
そうです。イラン産原油の輸入禁止など圧力を強めるトランプ政権に対し、イランは、対抗措置として、核合意の一部の義務に従わないと表明しました。トランプ政権は、中東に原子力空母や戦略爆撃機を派遣するなど、緊張が高まっています。

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こうした中、安倍総理は、来月中旬にも、イランを訪問してロウハニ大統領と会談する方向で検討しており、会談で、トランプ大統領にこれを伝えました。イランと伝統的に友好関係にある日本としては、アメリカとイランの仲介役を担い、緊張緩和を図る狙いがあります。トランプ大統領は「イランも話したがっていると思うし、私たちも話したい。誰も恐ろしいことが起こるのを見たいとは思っていない」と応じ、安倍総理の仲介に期待する考えを示しました。日本は、原油の大半を中東からの輸入に頼っていますので、中東の緊張が激化することは、日本にとっても看過できません。仮に、アメリカとイランの間を仲介し、緊張を緩和することに成功できれば、安倍総理としては、面目躍如ということになるでしょう。

(神子田)
日米関係の親密度が深まることで懸念されることもあります。アメリカと中国の関係が悪化している中、日本がアメリカに歩調を合わせれば、日中関係に影響が出てくるというも問題です。具体的にみてみます。

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トランプ政権は、今月15日、ファーウェイがアメリカの安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしているとして、アメリカ企業が電子部品などをファーウェイに販売することを原則として禁じる措置を発表しました。このことが、日本の民間企業の活動に影響を及ぼしています。携帯大手会社がファーウェイ製のスマートフォンの販売延期や予約の受付停止を相次いで決めたのです。背景には、スマホの製造に必要な半導体や、スマホに使われているグーグルの基本ソフトがファーウェイの新製品に供給されなくなる可能性が指摘されていることがあります。

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さらにパナソニックでは、ファーウェイ向けに供給している電子部品などの中に、アメリカ企業から調達した部品や技術を組み込んでいるケースがあり、アメリカ政府による規制の対象になる可能性があるということです。パナソニックでは、従来からアメリカの輸出管理の法令を遵守してきているとして、対象となるものがないか具体的に洗い出すようグループ各社に通達しました。
 このようにアメリカのファーウェイに対する規制は、日本と中国の間のビジネスにも栄養を及ぼしています。現在日中関係は改善が進んでいますが、日米の同盟が一段と深まる中で、アメリカの対中圧力に日本が同調すれば、日中関係ではマイナスに働くおそれが出ています。日中両国の経済は密接に結びついているだけに、日本が今後アメリカと中国との間で苦しい対応を迫られる場面も懸念されます。
トランプ大統領は、あすが、滞在最終日ということになりますね。

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(増田)
はい。トランプ大統領は、あす午前、神奈川県の横須賀基地で、安倍総理とともに、自衛隊最大の護衛艦「かが」に乗船します。まさに、日米の強固な同盟関係を目に見える形で内外にアピールするのです。
安倍総理とトランプ大統領の親密な関係は広く知られています。今回は、それを一層強く、世界に認識させることになりました。トランプ大統領の思考や好みを分析し、トランプ大統領個人に的を絞る安倍総理の外交アプローチ。これは、確実に日本の外交力を底上げしてきたと思います。ただ、その一方で、自国第一主義に走りがちなトランプ大統領に過度に同調することへの危うさを指摘する声があるのも事実です。強固な二国間関係を築いていく中で、日本外交が戦後培ってきた多国間協調への配慮も忘れない。日本に今、求められているのは、その絶妙なバランスに基づく国益の追求だと思います。

(増田 剛 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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