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「難民受け入れ拡大 変わる社会と課題」(時論公論)

二村 伸  解説委員

閉鎖的と批判されていた日本の難民受け入れ制度が変わります。祖国から逃れて国外の難民キャンプなどで暮らす人を対象とした「第三国定住制度」による受け入れを見直し、その数をこれまでの2倍から3倍に増やすほか、対象となる国も大幅に拡大する方針です。欧米諸国に比べるとその数は微々たるものですが、アジアの先導役として重要な一歩だと評価する声が聞かれます。

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難民とは、迫害や紛争などによって住む家を追われ、国外に逃れて保護を求めている人たちで、日本を含む国際社会はこれらの人たちを保護する義務を負っています。
そうした難民が日本で暮らすには、日本まで来て難民の認定を受けるか、すでに難民として滞在している国から日本に移住するかの2つの方法があります。

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「第三国定住」は、後者の祖国に戻ることも避難先の国に定住することもできない難民を別の国、第三国が受け入れる制度です。世界の難民の8割が途上国に集中し、それらの国々は重い負担を強いられているため国連は国際社会が分担して難民を受け入れるよう求めてきました。これまでに数十万人が第三国定住制度によってアメリカやオーストラリア、カナダなどに移住し、日本も2010年に国際貢献と人道援助の立場からアジアで初めての試みとしてミャンマー難民の受け入れを始めました。

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最初の5年間はタイのキャンプで暮らすミャンマー難民を、4年前からはマレーシアで暮らすミャンマー難民を年に30人をめどに受け入れてきましたが、来年度以降は、アジア全域の難民に対象を広げ、受け入れる数も年に60人と倍増、5年後をめどに100人以上の受け入れをめざす方針です。アジアに滞在していればシリアやパレスチナなど中東出身の難民やアフリカ出身の難民も受け入れることが可能になりました。またこれまでは家族単位に限られていましたが、今後は単身者でも受け入れ、家族の呼び寄せも可能となります。閣議決定を経て、来年にも受け入れる難民の面接が始まる見通しです。

なぜ見直すことになったのか、それは難民危機に対処するために財政支援に加えてより多くの難民を受け入れるよう求められていたことに加えて、去年12月に国連総会で採択された「難民に関するグローバルコンパクト」、難民保護のための国際的な枠組みで、難民を受け入れている国の負担を軽減し、第三国定住による受け入れを各国が増やすよう求められたことが背景にあります。

アメリカやヨーロッパで、難民の受け入れに反対する声が高まっている中での日本の受け入れ枠の拡大は大きな意味があり、国際社会に前向きのメッセージになると思います。とはいえ、それは簡単なことではありません。年に30人の受け入れでも試行錯誤が続いただけに、数も対象も増える以上、新たな対応が求められます。

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これまでに第三国定住制度で日本に来た難民たちは、44家族の174人です。
UNHCR・国連難民高等弁務官事務所から推薦を受けた日本への移住を希望する難民の中から面接を経て選ばれた人たちです。
難民たちは最初の半年間、東京の難民事業本部で日本語の学習や日本の習慣やマナー、健康管理、さらには近所づきあいや電車の乗り方など日本での生活に適応できるように様々なことを学びます。さらに、住居と仕事の斡旋を受け、自分たちだけで生活を始めます。

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現在、34家族が首都圏を中心に関東地方で暮らしていますが、去年広島県・呉市で、そして今年は神戸市でも定住を始めるなど、居住先が西日本にも広がりました。難民たちが従事している仕事は、部品の組み立てや木材加工、食品加工などの製造業や清掃業、それにサービス業などです。また、日本に来たときはまだ幼かった子どもも2人が大学に進学、11人が高校で学んでいます。日本生まれも15人になりました。

そうした人たちが日本でもっとも苦労しているのは言葉です。半年間の研修後も、日本語のサポートは続けられますが、仕事や日常生活で通訳なしに意思の疎通を行うことができるようになるまでには長い年月を要します。また、ミャンマーの山岳地帯やタイの難民キャンプで暮らしてきた難民たちにとって未知の国だった日本の文化や習慣を理解するのも容易なことではありません。

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難民たちが自立し、社会に溶け込むためには、自治体と企業、学校、保育所、それに支援団体など地域の連携が重要です。日本語の習得に加えて仕事や生活の相談、学校との連絡などを日常的にサポーする態勢が必要です。企業も難民を単なる労働者ととらえるのでは長続きしません。政府は今後地方での定住を広げたいとしていますが、それには国主導の定住促進から地方自治体を中心とした受け入れ態勢の整備が必要だと思います。これまでは難民が日本に来て言葉を学び、仕事と住居を確保するまで国主導で行われ、難民たちが暮らすことになる地方自治体には最後に通告する仕組みでした。それでは地域をあげて難民を支える環境を整えるのは容易ではありません。
カナダやドイツのように地方自治体や民間レベルで積極的に難民を受け入れ、語学教育や雇用などの面倒を見ている国も少なくありません。
日本でも地方から受け入れの手を挙げるような態勢が望まれます。そのためには人材の育成や予算措置など、自治体への支援が不可欠です。

また、慣れない日本での生活には同じ国や民族の人たちのサポートが大きな支えとなります。地方で生活を始めた難民の家族が首都圏に移り住んだ理由として多いのが、相談できる人がいなかったことです。孤立しがちだった家族が同じミャンマー人の支援によって仕事にも慣れ、子どもたちに笑顔が戻ったというケースもあります。これからミャンマー難民だけでなく様々な国の難民が日本にやってくるだけに、日本国内で暮らす外国人コミュニティーの活用がこれまで以上に重要になってくるのではないでしょうか。

さらに、難民への理解が深まらないのは、難民について知らない人が多いことも原因として考えられます。難民に支援の手を差しのべたいが、何をすればよいのかわからないという人も大勢います。難民たちが社会に溶け込むためには、より情報を公開し、地域の人たちが積極的に参加する機会をつくることが重要です。これから拡大していく外国人労働者への支援策を、難民にも適用するのも一つの方法でしょう。

難民への理解を深め、共生を進めることは多様性のある社会の形成につながります。難民を積極的に雇用している企業は、「職場の仲間を気遣うようになり、それが顧客サービスにもつながっている」と話しています。難民を受け入れるメリットも大きいのです。今回の見直しが、難民鎖国と批判されてきた日本への見方が変わるきかっけとなり、アジアの国々にも広がることを関係者は期待しています。ただ、第三国定住難民が増える一方で、日本での難民認定は他国と比べても非常に厳しく、認定制度も見直すべきだといった声も根強く聞かれます。難民をどれだけ受け入れ、自立から社会参加につなげるか、長期的な戦略が求められていると思います。

(二村 伸 解説委員)

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