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「プラスチックはどこへ行く?」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

 廃棄物の国境を越えた移動を規制する「バーゼル条約」でプラスチックごみが規制対象に加えられ、今後プラごみを海外へ輸出することが困難になると見られています。そして一昨日5月20日、国は国内に溜まり続けているプラごみの処理を進めるための施策を打ち出しました。現代生活に欠かせないプラスチック、そのゆくえが問われています。

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 世界180か国以上が加盟するバーゼル条約は、先進国から途上国へのいわゆるごみ輸出によって途上国の環境汚染などが起きるのを防ぐ目的を持ち、有害な廃棄物が国境を越えて移動することを規制しています。今月10日スイスで開かれていた締約国会議で、この規制対象にリサイクルに適さない汚れたプラスチックごみを加えることが決まりました。2021年からこうしたプラごみの輸出には相手国の同意が必要となり、洗浄されていないペットボトルや他のものと混ざった使用済みプラスチックなどは実質的に輸出が困難になると予想されます。

 そもそもプラスチックは軽くて丈夫で加工しやすいことなどから世界中で爆発的に使用量が増えていますが、これに伴いいくつもの問題も出てきました。例えばまず石油資源を大量に消費して作られること。そしてプラごみを焼却すれば二酸化炭素が増え地球温暖化につながること。一方で燃やさず投棄すれば海洋プラスチック汚染にもつながります。中でも今回の規制の背景にあるのは、今や世界的な広がりを見せている海洋プラチックの問題です。

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 環境中に捨てられたプラスチック製品などは、やがて川から海へと至り細かく砕かれて微粒子となります。こうしたいわゆるマイクロプラスチックはサイズは小さくなっても自然に分解することはなく海の中に溜まり続け、その量は2050年には世界の海の魚の総重量を超えるという見積もりさえあります。
 マイクロプラスチックは既に魚や海の生き物の体内から多く見つかっており、食物連鎖を通じて私たちの体にも蓄積することが懸念されています。こうした海洋プラスチックがどこから流出しているのか国別に見ると、中国や東南アジアが多いと推計されていて日本は少なそうに見えますが、実は日本も当事者です。

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 こちらは日本のプラごみの行き先をまとめたものです。日頃から、ペットボトルやプラごみをきちんと分別して出している方が多いと思いますし、よく「日本は使用済みプラスチックの8割以上も有効利用しているリサイクル先進国だ」とも言われます。

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しかし、実はこの有効利用の大半は「焼却・エネルギー回収」と「輸出」に占められています。この「エネルギー回収」というのは、「サーマル・リサイクル」と呼ばれることもありますが、要するにプラごみを燃やしてその熱などの一部を何らかの形で使うことで、国際的にはリサイクルとは見なさないのが一般的です。
 また、輸出されたものは全てリサイクルされている分類になっていますが実態は必ずしもはっきりしません。一昨年まではこの輸出の多くは中国へのものでしたが、去年は中国が輸入を禁止したため主に東南アジアに輸出されていました。つまり、海洋プラスチックの主な流出元とされる国々には日本からのプラごみも供給されているのです。
 バーゼル条約の規制対象になったこともあり、今後こうしたプラごみの輸出は益々困難になると見られます。そして既に中国の輸入禁止などの影響で、国内には処理しきれないプラごみが増加しています。

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 こうしたプラごみをどうするのか?一昨日、環境省が当面の対策をまとめ、自治体に協力を求める通知を出しました。まず、輸出に頼れないプラごみを国内でリサイクルするため、リサイクル設備の整備を進めるというもの。そのための補助金の拡充や事業者への周知に力を入れます。そして自治体の枠を超えた広域での処理も推進します。また、プラごみを排出する事業者に対して、リサイクルしやすいよう分別して出すことの徹底や適正な処理費用を負担するよう指導します。さらに、プラごみの受け入れ先が不足していることで不法投棄が増えることも懸念されるため、その監視の強化なども自治体に求めています。
 ではこれで、行き場のなかったプラごみが国内で資源として循環するようになるのでしょうか?プラごみのリサイクルが本当に進んでいくためには回収・再生されたプラスチックが広く利用される必要がありますが、コストや品質の問題もあり軌道に乗るにはまだまだ時間もかかるでしょう。
 そのため緊急避難的にプラごみの焼却処分を増やすことも打ち出されました。
 具体的には、本来家庭ごみなどの一般廃棄物を燃やすための市町村の焼却炉で、事業者が出す産業廃棄物のプラごみも受け入れて燃やしてほしいと国が要請したのです。石油から作られたプラスチックを燃やすことは地球温暖化の面では本来決して望ましいことではありません。しかし、現状では行き場のないプラごみを処分するため、やむを得ないとも考えられているのです。

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 では結局、プラスチック問題を解決するにはこの先どうすれば良いのでしょう?
 海洋プラスチック対策と温暖化対策を両立させるのは簡単ではありませんが、今すぐできることとしては、やはりプラスチックの使用量を減らすことがあるでしょう。レジ袋の有料化や飲食チェーンがプラスチックストローを廃止するなどの動きもその一環と言えます。
 その上で中長期的には石油由来の現在のプラスチックを温暖化につながらない再生可能な素材に切り替えていくこと。そして、使用後はきちんと回収し再利用できないものは最終的には燃やしてエネルギーを利用するというのがひとつの方向性ではないでしょうか。例えば紙や木製製品あるいは植物から作られるいわゆるバイオマスプラスチックなどは、元々光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収してできているため、それを燃やしてもトータルでは二酸化炭素は増えない計算になります。そして、最終的に確実に回収して燃やせば海洋プラスチックの増加にもつながらないためです。
 ただ、社会の隅々まで様々な用途で使われているプラスチックは、単一の方法だけでは置き換えることは難しいでしょう。植物由来のプラスチックを増産することで食糧供給などに悪影響を与えるようなことももちろん避けなければなりません。再生可能でより優れた新素材の開発も加速する必要があります。

 来月日本で開かれるG20でもプラスチック問題が議題となる見込みで、政府はそれまでに使い捨てプラスチックの削減や国内での再利用などを柱とする「プラスチック資源循環戦略」を策定する方針です。プラスチックに依存する現代社会の仕組みをどう変えていくのか?広く叡智を集め、長期的なビジョンを打ち出すことが求められています。

(土屋 敏之 解説委員)

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