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「『超高額』新薬 負担は誰が?」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

医学の進歩が、画期的な新薬を次々と誕生させています。
白血病などの血液のがんの特効薬とされる免疫治療薬キムリアが日本でも承認されました。
明日(22日)からは、公的保険も適用され、使いやすくなります。患者の皆さんにとっては大きな朗報です。
ただ、課題もあります。
それはこの「超」がつくほどの高い値段。
このお金のほとんどは、我々がみんなで負担する公的医療保険から払われることになります。
実は、ほかにも、同じような超高額のクスリや療法が、今後次々と出てくる見通しで、
このままでは公的保険の財政が大きな影響を受けることが避けられないという声があがっています。
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〔 何が焦点か?  〕
そこできょうは、大切な国民皆保険を守りながら、超高額新薬に対応していくために、三つの論点について考えます。
① 価格をどう抑えるか?
② 保険の範囲の見直しとは?
③ 効いたら払う~成功報酬は可能か?
この3点について考えます。
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〔 キムリアとは?  〕
まず、この新薬キムリアが、なぜ、これほど注目されるのか? 整理します。
キムリアは、白血病などの血液のがんを治療するクスリです。スイスの製薬大手、ノバルティスが開発しました。
仕組みはこうです。まず、患者の血液から免疫細胞を取り出します。
その免疫細胞の遺伝子を組み替えて、がんを攻撃する力を強めます。
それを点滴でまた患者の体に戻して、がんと闘ってもらう。
こうすることで、臨床試験では、対象となっている一部の白血病で子どもを含む患者の8割で症状が改善し、大きな効果が認められたということです。

ただ、課題もあります。
それは、その価格です。
キムリアは、一回、投与するだけでいいんですが、その一回の値段が、3、349万円と値付けされました。
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アメリカではおよそ5000万円しますので、それに比べると、抑えられてはいますが、さすがにこの価格、日本で保険が適用されているクスリとしては、過去最高額です。
患者一人一人の免疫細胞から作りだす、究極のオーダーメイドというのが高さの理由です。

といっても、この価格を患者がそのまま負担するわけではありません。
日本の公的保険には、高額療養費制度という仕組みがありますので、この仕組みを使えば年収500万円の会社員がキムリアを使っても負担は40万円程度ですみます。

問題は、クスリの本来の価格3349万円と個人負担40万円の差、この、およそ3300万円はすべて、公的保険が負担する、ということです。
キムリアの対象となる患者は年間200人程度とみられていまして、これだけなら影響はまだ限定的ですが、問題は、同じような超高額新薬が続々と登場する見通しだということです。
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〔 続々と登場する 超高額新薬  〕
たとえば、アメリカですでに承認されている新薬を見てみます。
イエスカルタというクスリがあります。
これは、リンパ種の治療薬で、一回の投与が、およそ4200万円。
さらに、遺伝性網膜疾患、つまり目の治療薬ラクスターナは、一回、およそ9700万円。ざっと一億円します。こうした超高額新薬が、これから日本でも登場すれば、公的保険制度が影響を受けることは避けられません。
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〔 価格をどう抑える?  〕
では、どうすればいいのか?
そこで、検討すべき三つのポイント。
まず、
① 価格をどう抑えるか?
ちなみにクスリが高すぎるとして最近、議論になった例としては、がん免疫治療薬、オプジーボの例があります。
承認された当初の値段は、100ミリグラム1瓶で73万円。
これを年間で使えば、一人、3600万円かかるとして大変な議論が起きました。
で、どうなったか?
オプジーボは、当初は皮膚がんのクスリとして承認されましたが、そのあと、肺ガンなど、他のガンにも使えるようになり、患者が増えたために、値下げが繰り返され、今では当初の4分の1にまで下がっています。

一方、キムリアについては値段の高さに見合うだけの効果が本当にあるのか、今後、費用対効果の観点から検証をして、必要があれば、価格を下げていくことになっています。
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〔 保険の適用範囲の見直し 〕
次は、公的保険でどこまでカバーするのか、その範囲の見直しです。
といっても、今回のような高いクスリを保険からはずす、という単純な話しではありません。
今、議論されているのは、その逆です。
まず、高いクスリ、つまり重い症状を抑えたり、命に関わるようなクスリは、保険を適用する。
逆に、軽い症状のためのクスリたとえばシップやかぜ薬、うがい薬、ビタミン材などは保険から外して、自分で市販の薬を買うようにしてはどうか?という考え方です。
大きなリスクに備えるのが公的保険の本来の役割で、小さなリスクには個人で対応してもらう、それによってバランスをたもとう、という考え方です。
わかりやすい方法ですが、日頃、軽い症状のためのクスリをよく処方されている、という人には、抵抗があるかもしれません。
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〔 成功報酬とは? 〕
そして最後は、日本では、まだ行われていない方式。
クスリが効いたらオカネを払う、という“成功報酬”の仕組みは可能か?という議論です。
すでにアメリカでは、キムリアを対象にこの成功報酬が導入されています。
治療後、一定期間をおいて診断を行い、効果が出ていれば、保険から製薬メーカーにオカネが払われる、という仕組みだそうです。

日本でも膨張する医療費を抑えるには検討の余地がありそうです。
ただ、導入するとなると、効果のある・なしを、どういう基準で判定するのか?
何をもって効果とするのか、など、検討すべき課題が出てきます。
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〔 明かされないコスト 〕
そして、最後に、もう一つ、課題があります。
それは、「明かされないコスト」という問題です。
今回、キムリアの価格について承認をした中央社会保険医療協議会(中医協)では、複数の委員から疑問や意見が相次ぎました。
それは、価格をいくらにするのか判断しようにも、メーカー側の開発費用の情報開示が不十分だ、というもので、まるで「ブラックボックスのようだ」という意見も出ました。
このままでは、画期的な新薬が次々と登場しては情報開示が不十分なまま、メーカー側の申告にもとづいて高い薬価の記録が更新されていく、という事態になりかねません。
お金のある人も、そうでない人も、みんなで負担しあい、支えあう公的保険を適用する以上、メーカー側にもっと情報開示を迫ることができるよう値決めの仕組みの在り方も検討する必要があると思います。
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(竹田 忠 解説委員)

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