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「揺らぐ日本経済 どう考えるか消費増税」(時論公論)

今井 純子  解説委員

きょう発表された、今年1月から3月のGDPは、2四半期連続のプラスとなりました。しかし、中身を見てみると、経済の弱さが透けて見える内容となっています。このところ浮上している、経済の悪化を理由に消費増税の3度目の延期があるのではないか、と疑う声を完全に打ち消すには力不足のようです。この先、日本経済は大丈夫なのでしょうか。消費増税をどう考えたらいいのでしょうか。きょうはこの問題を見ていきたいと思います。
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【GDPの結果】
(表面上はプラス)
まずは、GDPの推移。前の3ヶ月と比べた成長率が、一年間続いたらどうなるかを示した、年率の数字を見て見ます。グラフのゼロより下だと、経済は悪化。上だと改善したことを示します。きょう発表された、1月から3月の速報値は、プラスの2点1%となりました。
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(しかし、悪い内容)
GDPは、去年、マイナスとプラスを繰り返してきました。それが、今回、2期連続のプラスとなり、これだけを見ると、日本経済は、好調さを取り戻したかのように見えます。しかし、中身を見てみると、GDPの半分以上を占める「個人消費」をはじめ、「企業の設備投資」「輸出」と、景気を支えてきた主な項目は、そろってマイナスになりました。ただ、GDPの計算には輸出から輸入を引いた純輸出が反映されます。今回は、輸入が、企業の設備投資や個人の消費が弱まったのを受けて、大幅な減少となったことから、計算上、GDPを押し上げた形です。経済の専門家からは、見た目とは違って、内容が悪い。経済の弱さを示す結果だと指摘する声が上がっています。
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(背景には中国の減速)
経済が弱い。その背景にあるのは、中国経済の減速です。去年、一定の減速を容認してまで、地方政府などが抱える過剰な債務の削減を優先してきたところに、アメリカとの貿易摩擦が追い討ちをかけ、一気にブレーキがかかりました。中国政府は、次々、景気対策を打ち出しましたが、
▼ 工業生産の伸び率は4月も、前の月と比べて3点1ポイント縮小。
▼ 消費の水準を示す統計も、16年ぶりの低い水準にとどまりました。
このため、日本から中国向けの電子部品や生産設備などの輸出が減少し、設備投資を抑制する動きが出たほか、株価が下がったことなどから、個人消費にも影響が広がり始めた形です。
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【景気の実態と、くすぶる消費増税延期の憶測】
(景気動向指数は「悪化」)
政府は、今年1月、日本の景気回復が戦後最長となった可能性が高いという見解を示しました。それが、様々な経済指標から機械的にはじきだされる3月の景気動向指数の基調判断が、「悪化」に下方修正されました。景気後退の可能性が高いことを示しています。正式な認定は、1年から1年半後に、専門家による研究会で行われるため、まだ、可能性が高いという段階にすぎませんが、見た目以上に悪い今回のGDPの中身からは、景気回復の足取りが揺らいで、止まりそうになっている。黄色信号から、いつ赤信号に変わるかわからない状態だということが、透けて見えているように思います。
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(消えない 消費増税の延期の憶測)
今、景気の動向に大きな注目が集まっているのは、消費増税の行方がかかっていると、多くの人が見ているからです。景気の雲行きが怪しくなってきたこと。そして、世論調査で内閣の支持率が高まっていることを受け、このところ、与野党の一部から、安倍総理大臣が衆参同日選挙に打って出るのではないか。その大義名分として、景気の悪化を理由に消費増税の3度目の延期に踏み切り、その信を問うため、ということを掲げるのではないか。そのような憶測の声が上がっていました。政府は、あくまでも、「リーマンショック級の出来事が起きない限り、引き上げる」としていますが、安倍総理大臣は、2016年に、突然「世界経済は、危機に落ちるリスクに直面している」として、2度目の増税延期に踏み切っています。そして経済を取り巻く環境は、その時より悪いとみられています。今回GDPが表面上プラスだったことで、疑いの声はいったん弱まるかもしれませんが、完全に打ち消すには力不足で、いつまたその声が強まるか、わからない状態が続くことになりそうです。
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(消費増税に向けて 進む準備)
ただ、そもそも日本の国の借金は、1100兆円を超えています。主な先進国で最悪なのが、さらに悪化している状況です。また、増税まで4か月半を切り、様々な準備も進んでいます。
▼ 少子化対策のため、消費増税の財源を使って、幼児教育・保育の無償化を実施することを盛り込んだ法案も成立しました。
▼ また、企業も、軽減税率の導入に向けてレジの改修などを急ピッチで進めています。
▼ 増税後に、消費が落ち込むことを防ごうと期間限定で導入される、現金以外で支払いをした場合のポイント還元制度に参加する中小の店の募集も始まっています。
ここで、3度目の増税延期となると、日本はもはや消費増税には踏み切れない。借金を返すことができない国と思われ、マーケットの混乱を招く恐れがあります。準備を進めている人たちの間に混乱が起きることも避けられません。
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【どう考えるか】
(日本経済を取り巻く不安の雲)
では、どう考えたらいいのでしょうか。きょう発表されたGDPは、1月から3月の過去の結果です。消費増税を最終的に判断する上で、大事なのは、今。そして、これからの経済です。先行きも、たしかに、日本は、不安の雲に覆われています。米中貿易摩擦がますます激化する懸念がでているほか、これから本格化する日米の貿易に関する協議で、アメリカ側が自動車の輸出などに関して理不尽な要求をしてくる懸念もあるからです。
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(雲の下には 底固い内需)
ただ、不安の雲の下。内需の現状を見てみますと・・
▼ 企業の業績は、昨年度は3年ぶりに減益となりましたが、4月から始まった今年度は、一部上場、およそ1500社を見ると、今のところ、全体で増益に転じるという見通しもでています。
▼ 企業が抱える現金・預金も、この6年で36%増えています。AI=人工知能や自動運転など企業を取り巻く環境が大きく変化している中、日銀の短観では、今年度の設備投資について堅調な計画が示されています。
▼ さらに、人口が減っている中、人手不足の状況は、この先も続くと見られています。
内需を支える基礎的な条件は、まだ崩れていない。底堅さを保っていると言ってもいいでしょう。
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(不安の雲は当面晴れない前提で対応を!)
これまでのトランプ大統領の言動をみていると、その在職中、あるいは、アメリカと中国の覇権争いが続く限り、貿易摩擦は続き、外需の不安の雲は形を変えて日本を覆い続ける可能性が高いように思えます。いつまでも不安の影におびえて、消費増税の延期を繰り返すようであれば、財政の健全化も持続可能な社会保障も果たすことはできません。私たちが受ける介護や医療などの公的なサービスが低下することにもなりかねません。そうした事態を避けるためには、不安の雲が晴れないことを前提に、企業は生産や調達のルートを見直す。設備投資や研究開発に力を入れて競争力を高める。その上で、消費増税に耐えられるよう、一段と賃金を増やし家計の力を高める。このように内需の基盤を一段と強くする企業の取り組みとあわせ、政府も、不安の雲が当面晴れないことを前提に、長期的な視点で対応を考え、よほどの土砂降りにならない限り、予定通り消費増税に踏み切り、社会保障への不安をなくしていくことが必要ではないかと思います。
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【まとめ】
この先は、まず、今週24日の月例経済報告で、政府が景気の実態について、どのような認識を示すのかが、注目されます。消費増税を、政治の駆け引きの道具に使うのではなく、どうしたら、日本経済、そして私たち国民の暮らしのためになるのか。それを一番に今後の対応を考えてほしいと思います。
(今井 純子 解説委員)

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