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「大相撲 令和の宿題」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員

今度の日曜日12日に令和最初の大相撲夏場所が初日を迎えます。
新時代の幕開けに相応しく、22歳の貴景勝が新大関として花を添えます。
平成の時代、大相撲界は激震を繰り返し大きく姿を変えました。
平成の大相撲を振り返り、令和の時代、大相撲に何が求められるのか考えてみたいと思います。

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令和最初の場所を迎えるに当たって日本相撲協会の八角理事長は、「相撲は、伝統文化。国技として100年後の世代にしっかりと伝えていく礎を築いていきたい」と話しています。

令和の大相撲について考える為に、まず平成の大相撲を振り返ります。

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そのポイントは大きく3つです。
① 国際化 ②負の遺産の噴出 ③組織の大変革です。

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まず、国際化ですが、こちらが平成元年と2年の各場所の優勝力士です。
千代の富士時代の晩年、九州場所で小錦が初優勝しました。
これが、昭和47年名古屋場所の高見山以来2人目の外国出身力士の優勝でした。その翌年は、年6場所全て日本出身力士が優勝していますが、実はこれが日本出身力士が年6場所全て優勝した最後の年となりました。
昭和の時代、外国出身力士の優勝は、1回しかなかったのが、平成は113回を数えました。

平成元年初場所の番付で、十両と幕内力士64人のうち、外国出身力士は小錦一人でした。令和最初の今度の夏場所の番付では、十両と幕内力士70人のうち、外国出身力士は5カ国17人です。

平成に誕生した大関は、25人いましたが、外国出身力士は10人。国もアメリカ、モンゴル、ブルガリア、エストニア、ジョージアと広がりを見せました。

平成に誕生した横綱は10人いましたが、このうち6人が外国出身力士でした。
平成の大相撲界は、強い日本出身力士に、外国出身力士が挑む構図から、強い外国出身力士に、日本出身力士が挑戦する構図へと大きく様変わりした時代でした。

二つ目の負の遺産の噴出は、文字通り不祥事の続発でした。

平成19年の時津風部屋の力士暴行死事件から始まり、大麻問題、野球賭博問題、八百長問題、繰り返される暴力問題や傷害事件などが続出しました。

中でも根深く深刻なことは、死者を出し横綱2人を引退に追い込んだ暴力問題です。平成の終わりに暴力問題再発防止検討委員会が作られ、かつてない大規模な暴力の実態調査、日本相撲協会員と元協会員あわせて968人からアンケートや聞き取りを行いました。

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こちらが暴力を見聞きした人の割合です。平成が始まった頃25%前後、平成19年の力士暴行死事件の後ガクッと減り10%前後で横ばいが続きます。去年は8.7%まで減ってはいますが、人数にすれば70~80人。
まだこんなに残っていると見るべきだろうと思います。

その報告書の中で、日本の社会やスポーツ界が、指導の方法として暴力が時に有効な手段として考えられ許容されてきた時代があって、その時代背景の中で、相撲界では指導・教育を目的とした暴力は有効な手段として許されるという共通認識があったと指摘しています。

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三つ目の組織の大変革は、平成26年に公益財団法人に移行したことです。

それまでの相撲協会は、部屋の独立性が強く、日本相撲協会は各部屋の集合体という感じの組織でした。この組織では、続出する不祥事に対応できず、責任の所在の不明確さや危機管理能力の欠落など時代に対応できない批判にさらされました。公益法人に移行したことで、相撲協会と部屋と力士の関係が明確な契約で結ばれ、責任の所在が明確になりました。

さて、それでは令和の大相撲にまず何が必要でしょうか。
公益財団法人として生まれ変わった日本相撲協会が、組織をあげて取り組むべき3つのポイントをあげたいと思います。

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① 国際化とどう向き合うか ②負の遺産の根絶 ③ケガ対策と土俵の充実

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こちらが、平成に入ってからの外国出身力士数の推移です。
一度増えて減った後、平成12年からモンゴル勢の活躍とともにヨーロッパ勢も加わり急激に増えてピーク時には61人にのぼりました。多彩な力士が登場し新たなファンも開拓しました。海外からの観客も目に見えて増えて来ました。

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しかしこの急激に増えだした平成12年以降、表ざたになった不祥事は98件ありますが、その内外国出身力士がかかわったケースが74件です。この数字は、外国出身力士が増えると不祥事が増えるという単純なことではなく、相撲協会の外国出身力士の受け入れ体制や指導方法が整っていないことを表していると思います。

相撲協会もとりあえずの対応として、しっかりと面倒を見られるのは各部屋一人ではないかと、相撲協会内で外国出身力士は一部屋一人という申し合わせ事項を作ることによって人数を減らし、現在は46部屋に9カ国32人の在籍となりました。果してこの対応のままでいいのか。

暴力問題再発防止検討委員会の報告書でも、「大相撲は伝統的な日本文化を象徴するものであり、勝負に勝つことだけが尊いのではなく勝負の方法自体も品格を持った内容を期待されており、卑怯な振舞いを避け、相手に対する思いやりの心も必要である。勝負を行うに相応しい品格及び礼儀作法も期待されている。これを全く違う文化の価値体系の中で生まれ育った力士に短期間に理解させるには、大変な努力が必要。」と指摘しています。

外国出身力士の受け入れを今後増やすのか減らすのか。そして入門後の教育をどうするのか。さらに言えば、海外公演や海外巡業など海外への普及活動をどうするのか。
国際化と相撲道の両立を実現させる為の方向性を、相撲協会として示す必要があると思います。

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二つ目の負の遺産の根絶は、再発防止検討委員会の報告書でも、相撲の指導における暴力は目に見えて減る傾向にある中で、生活の指導での暴力が残っていると指摘しています。生活面での暴力の根絶は、大相撲の根幹である部屋制度維持の為には不可欠です。
厳しい稽古と暴力との境界線、厳しい生活指導と暴力との境界線をしっかりと引き、相撲協会が組織をあげて一体となって、暴力は何があっても許されないという意識改革を徹底し定着させる必要があると思います。

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最後に、ケガ対策と土俵の充実です。
平成の終盤、横綱大関が揃って15日間取りきることは珍しくなりました。
又ケガをおして出場した力士が、気力なく大負けするケースも毎場所見るようになりました。この状態が続くと土俵の内容に響いてくると思います。
ケガの治療、リハビリなどもこれまでは本人まかせ,部屋まかせが伝統です。

一方他のプロスポーツ、例えば大リーグの大谷選手やテニスの錦織選手は、
最先端の医療スタッフに支えられ、必要な情報はファンに説明しています。
公益法人となった相撲協会は、協会として最先端の医療体制を整え、少なくても看板である横綱大関のケガの治療、リハビリまで主導してもいいのではないかと思います。

相撲協会も、相撲診療所にリハビリ施設を設置し、若い力士限定にケガ対策をはじめるなど試行錯誤を始めました。この取り組みをしっかりと一歩一歩進めていって欲しいと思います。長い歴史の中でどの時代でも大相撲が支持されたのは鍛え上げられた力士同士の手に汗握るような攻防があったからです。その環境を守る為に時代に合った努力が必要だと思います。

大相撲という伝統文化を守る為に、何を守り、何を変えるかの選別とそれをファンに対して丁寧に説明する姿勢が令和の時代には必要だと思います。

(刈屋 富士雄 解説委員)


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