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「飛躍なるか 日本の宇宙ビジネス」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

令和の新時代の日本の宇宙開発は、民間ロケット初の宇宙到達で幕を開け。
北海道のベンチャー企業の小型ロケットが打ち上げられ、国内では民間として初めて高度100キロの宇宙超えに成功。
今後民間による宇宙ビジネスが拡大していくことへの期待。
しかしここまで失敗も続いたほか、世界はさらに先を行っており、課題も。
今後宇宙ビジネスを拡大していくためには何が必要なのか、水野倫之解説委員の解説。

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ロケットは全長10mと大型ロケットの5分の1と超小型。
先週末、千人が見守る中、北海道大樹町の施設から発射された。
ゆっくりと上昇を続け、高度100キロの宇宙空間を超え113キロまで到達、その後予定通り北海道沖の太平洋に落下し、打ち上げは成功。

開発したのは北海道のベンチャー。
社員は若者中心20人あまり。実業家の堀江貴文さんの出資を受けて、6年前から本格開発。

目指すのは格安ロケット。
日本が国家として開発したH2Aは34回連続成功の超高性能ロケット。
しかし衛星打ち上げ受注は6基にとどまり、世界では売れてない。
特注部品を使い、1回あたり100億円と打ち上げコストが高いから。

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そこでこの会社ではその10分の1以下のコストを目指し、部品はIT機器などに使われる市販品。
また古い技術も活用し、コストを100分の1に。
さらには機体の広告や有料の観覧席など、民間ならではのアイデアで資金も。
こうして宇宙へたどり着いたのが今回のロケットで、国家でなくとも、ロケットビジネスをできる可能性を示した功績は極めて大きい。

最終的な狙いは、超小型衛星の打ち上げビジネスへの参入。
電子部品の小型化が進み、重さ数10キロの超小型の衛星でも性能のよいものが安く開発できるようになり去年は欧米を中心に250機が軌道に投入され、農場の作物状況把握や、海水温を調べ養殖魚へのえさのタイミングを決めるなどのビジネス利用がすでに始まっている。
日本でも金属の球を放出して大気に突入させ人工流れ星を作ってイベントに利用する超小型衛星などをベンチャー企業が軌道に投入しており、今後も世界で毎年数百機、打ち上げの需要があると予測。

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しかし打ち上げるロケットが世界的に足りない状況で、超小型衛星は大型のロケットで相乗りして軌道に投入されている。
人工流れ星衛星も相乗りで軌道投入されたが、希望より100㌔高い軌道に投入された。自力で高度を下げなければならず、ビジネスの開始に時間がかかる影響。
そこで今、希望する軌道に安く投入できる超小型衛星専用のロケットが待望されているわけで、彼らの狙いもここ。

ただ今回の打ち上げ成功で、彼らが打ち上げビジネスに参入できるかというと、まだ高いハードル。
今回の機体では宇宙に到達するのが精一杯で、衛星を投入するにはさらに30倍ほどのエネルギーが必要になるなど、技術的にかなり難しくなるから。

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ただ開発に向けた技術的課題も見えてきている。
ロケットはこれまで2回失敗を経験。
特に去年の2号機は装置の設計ミスから配管が破損、エンジンが止まって墜落、爆発。
独自開発にこだわっていた彼らも今回は宇宙航空機構やメーカーのOBなど国のロケット開発経験が豊富な専門家を探して、協力を依頼。
指摘されたのは彼らの若さからくる経験不足。
会社では失敗の原因となった機器の単独での試験はしていたが、エンジンと同時に作動させる試験は行っていなかった。

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過去に多くの失敗を経験している専門家は、「ある機器の振動が別の機器に影響して失敗したこともあり、機器全体をくみ上げた試験も行うべきだ」と指摘したと言う。
試験のノウハウが少なかった会社はアドバイスを受け入れ、機器をすべてくみ上げ飛行できる状態にした燃焼試験を2回行い、今回の打ち上げに臨んだ。
今回は日本の過去のロケット開発の失敗経験が生きて成功にこぎ着けられた、とも言える。

今後会社では2023年の超小型衛星打ち上げビジネス参入を目指して新型ロケットの開発を進める方針だが、若い彼らの経験不足を補うためにも国の技術的な支援が重要。

というのも世界では100社近いベンチャーが小型ロケット開発をしているとみられ、すでにアメリカの会社が軌道投入に成功してビジネスを始めており、競争は激しくなるとみられ、時間的な余裕はあまりない。

国内ではほかにも数社がロケット開発を目指しているが、同じように経験者が多いわけではない。
愛知県に拠点を置くベンチャー企業が開発を進める機体は飛行機のような形をしているのが特徴。独自技術でロケットエンジンとジェットエンジンを組み合わせ、打ち上げ後は飛行機のように戻り再使用することでコストダウンを目指している。
最終的には人を乗せた短時間の宇宙旅行が目標。
ただ16人の社員は多くが若く、ロケット開発の経験は少なく、飛行や燃焼試験を繰り返して知見を積み重ねている。

アメリカでは国として宇宙開発に民間を活用する大胆な方針を決め、低軌道への輸送は民間に任せるため、技術を積極的に開放、人材も供給。
今やスペースXなどベンチャー企業のロケットが主役となったという経緯。

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一方日本も宇宙産業の強化を打ち出し、国内の市場規模を2030年までに倍増させる目標。これを受けて宇宙機構もベンチャーとの共同研究制度で、支援に乗り出してはいる。しかしその範囲は一部にとどまっているなど、十分とは言えない。
ベンチャーによる安いロケットが実用化されれば、政府の小型衛星も安く軌道に投入できるメリットもある。アメリカのやり方も参考に、さらに支援を強化することを検討する必要。
またベンチャー企業が技術的な相談ができるような窓口があれば、原因究明や試験再開が速やかにできる。
今回の民間ロケット宇宙到達をきっかけに民間主役の宇宙利用が進むよう、大胆な支援策の検討を進めてもらいたい。

(水野 倫之 解説委員)

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