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「壁にぶつかるコンビニ 迫られる戦略転換」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

平成の時代に急速な店舗の拡大を続けていたコンビニの成長戦略がいま大きな壁にぶつかっています。コンビニ大手各社は、きょう、深刻な人手不足に対応するための行動計画を発表。一連の問題の背景には、加盟店との関係にきしみが生じていることもあります。どのような戦略の転換が求められているのか。考えていきたいと思います。
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人手不足の中でコンビニの運営を持続的なものにするため、各社は加盟店の負担をどう軽減しようとしているのでしょうか。
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各社が明らかにした行動計画では、新規の出店を抑えたうえで、オーナーの業務を代行できる社員を増やしたり、人材派遣会社を通じて、接客業務に長けた従業員を確保する体制を強化する。客が自ら会計を行うセルフレジを各店舗に導入して、接客の負担を減らすことなどが盛り込まれています。

こうした対策はある程度の効果を生むことにはなるでしょう。しかし加盟店の負担の軽減にむけた最大の焦点は、24時間営業をどうするかです。コンビニチェーン側には、短縮営業に容易には踏み切れない事情があるという見方があります。
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コンビニは一部の直営店をのぞいて、独立したオーナーがフランチャイズ契約を結んで店を経営しています。契約では、商品の売り上げから、仕入れの際の原価を差し引いた粗利益のうち、一定の割合を、コンビニチェーンに収めることになっています。残った粗利益のなかから、人件費などの経費を差し引いたものが加盟店の最終的な利益となります。ところが、夜間の間は、日中ほど商品が売れず、深夜勤務となるとアルバイトの時給もあげざるをえません。ましてや人手不足の中では人件費が一段とかさみ、店によっては深夜の時間帯の赤字が避けられないという状況も生じているのです。その一方で、コンビニチェーン側は、売り上げが増えれば、それに比例して収入が入る仕組みです。それが故に、24時間営業にこだわるのではないかというという見方があるのです。
これに対しコンビニチェーン側は、こう反論しています。
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深夜に店を閉めると、閉店の前までに品物を売り切ろうとするため、夜遅い時間の品揃えが薄くなる。さらに、多くの人が朝食を買い求めるかきいれ時にむけて配送された商品を十分に並べることができない。その結果、販売を増やすチャンスを逃してしまうといいます。
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さらに「真夜中になると欲しい商品が買えない」となればその店に対する好感度がさがり、日中の客離れにつながる。逆に真夜中でも欲しい商品がある店だということになると、昼間もその店に行くようになる。こうしたことを総合的に考えると、24時間店を開けているほうが売り上げが増え、加盟店も多くの利益が得られると主張しています。実際に多くのオーナーは24時間営業をのぞんでいるといいます。
一方で、コンビニは、いまや商品を買うだけでなく、公共料金を支払ったり、災害が起きた際にも頼りにされるなど社会に欠かせないインフラともなっています。こうしたなかで消費者からも24時間営業に対する期待の声があるのも事実です。
ただコンビニチェーンと加盟店との間では、24時間営業にとどまらずさまざまな軋みが生まれています。 

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経済産業省が加盟店のオーナーを対象に去年12月から今年3月にかけて行ったアンケート調査です。 
「従業員が不足している」という回答は61%と、4年前の3倍近くに増えていて、6割を超えるオーナーが、「人手不足の際に、人材を派遣するといった支援をして欲しい」として、コンビニチェーン側による支援体制の改善を求めています。さらにコンビニ経営の満足度については、「満足していない」という回答が39%と、4年前の二倍以上に増加。満足していない理由として、「想定したよりも利益が少ないことをあげたオーナーが回答者の3割を越えました。

利益があがりにくくなった背景には、コンビニ業界が急成長した結果、市場が飽和状態にあるという指摘があります。
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最大手のセブンイレブンの店舗数の推移です。平成の30年の間に、店の数はおよそ6倍に増えました。他のチェーンも積極的な出店を続けたことで、コンビニの数は全国で5万5000店を超えています。これまで各社は、人通りが多く利益を生みやすい商圏を狙って出店を続けてきましたが、今後は、そうした商圏をさがすのも徐々に難しくなっていくという指摘もあります。
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さらに一部の加盟店を苦しめているのが、ひとつの地域に集中的に出店する戦略です。コンビニチェーン側は、同じ地域に店を集中させることで、商品を運ぶ物流の効率があがり、ブランドの認知度も増すため、全体として売り上げも増えるとしています。確かにその通りになったことがあったかもしれません。しかしいま個々の加盟店からは、近隣に同じチェーンの店が相次いで出店したため、店の売り上げが減ったという声も聞こえてきます。

右肩上がりの成長が鈍る中で、これまで利益の拡大がカバーしてきた加盟店との間のきしみが表面化したととらえることもできるかと思います。
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こうしたなかで、公正取引委員会も、「オーナーが事業環境の変化を理由に24時間営業の見直しを求めたのに対し、コンビニチェーン側が一方的に拒絶してオーナーに不利益を与えた場合、独占禁止法で禁止する「優越的地位の乱用」にあたる可能性を排除できない」としています。
優越的地位という言葉をきいて、私はある加盟店のオーナーの悲痛な叫びを思い起こしました。
そのオーナーは「自分がどんなに体調が悪くても、一緒に働く家族が過労で倒れて救急車で運ばれても、店を閉めることは片時も許されない」と思い込んでいたのです。これについてコンビニチェーン側にただすと、「いかなる場合でも店を閉めてはいけないということはありません」という答えが返ってきました。考えてみれば当たり前のことですが、この当たり前のことが伝わらないほど、そのオーナーはコンビニチェーン側からのプレッシャーを感じていたのではないか、両者の軋みはそれほど大きなものになっていたのではないかと推察します。

厳しい風当たりを受け、コンビニチェーン側も24時間営業という原則について、加盟店の状況に応じて柔軟に見直す姿勢に転じています。
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セブンイレブンは13の店で深夜の営業時間を短縮する実験をはじめました。コンビニでは朝食用のサンドイッチや飲み物などが深夜に運ばれてきます。さらに、店内でから揚げなどを作る調理器具も利用客の少ない深夜に洗浄しています。こうした作業のために、閉店後にどれだけの労力がかかるのか、短縮営業によって売り上げがどれだけ減り、客離れがどれだけ進むのか、結果としてオーナーの利益を損ねることにならないかなど検討していきたいとしています。ファミリーマートも同様の実験を今年6月から行う予定で、こうした動きは各社に広がりそうです。

しかし最後に肝心なのは、やはり加盟店側とどこまで良好な関係を築いていくことができるかだと思います。
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コンビニ業界の発展は、商品開発などコンビニチェーンによる様々な努力とともに、店のオーナーや従業員、商品を作る人、配送する人。そうした多くのスタッフの頑張りに支えられてきました。
その頑張りに、どこまで敬意をはらうことができるのかが、この先の成否を左右することになるのではないでしょうか。
平成の時代の最後に、大きな壁にぶつかったコンビニ業界。なによりもまず働く人を大切にし、その上で持続可能な利益をあげていく。令和という新しい時代に向けて、そんな理想像に近づくような新たな戦略を求めたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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