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「イージス・アショア 国民の理解は得られるのか」(時論公論)

増田 剛  解説委員

北朝鮮のミサイルの脅威に対応するためだとして、政府が導入を決めた迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。週末に開かれた日本とアメリカの外務・防衛の閣僚協議、2プラス2でも、計画を推進していくことを確認しました。ただ、内外の現状をみますと、計画が順調に進んでいるとは言いがたく、すでに運用開始の遅れや、導入経費の膨張の可能性が指摘されている上、配備候補地の自治体や住民からは、反対の声があがっています。
イージス・アショアに、地元の、そして、国民の理解は得られるのか。
この問題について考えます。

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解説のポイントです。

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政府が、イージス・アショアの配備計画を推進する狙いと背景をみていった上で、運用開始時期や設置費用をめぐり、現在、浮上している課題を検証します。その上で、配備候補地の住民が抱える不安や懸念をみていき、今後、政府が果たすべき責任について考えます。

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先週末、ワシントンで、日米の外務・防衛の閣僚協議、2プラス2が開かれ、共同文書が発表されました。北朝鮮に対し、完全で検証可能かつ不可逆的な方法で、全ての大量破壊兵器と弾道ミサイル計画の放棄を求めるとともに、F35やイージス・アショアといった高性能の装備を日本へ導入し、日米同盟の能力を強化する重要性を確認しました。このように、日米防衛協力の中心的存在となっているのが、陸上配備型の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」です。

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現在、日本のミサイル防衛は、イージス艦に搭載する海上配備型のSM3と、地上配備型のPAC3の2段構えです。日本に落ちてくるミサイルを、SM3が大気圏外で撃ち落とし、撃ちもらした場合は、PAC3が大気圏内で撃ち落とす仕組みです。イージス・アショアは、このイージス艦のミサイル迎撃機能を地上に配置するもので、2基で日本全体をカバーできるとされています。

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政府は、北朝鮮のミサイル発射が相次いでいたおととし12月、迎撃態勢を拡充するため、アメリカからの導入を決定し、この時点では、2023年度中の運用開始を目指すとしていました。また、日本の北と西にバランスよく配置することや日本海側にあることを理由に、秋田市と山口県萩市にある自衛隊演習場が配備候補地となりました。

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その後、去年6月の米朝首脳会談を経て、北朝鮮との緊張は緩和しましたが、政府は「北朝鮮が日本全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有していることを踏まえれば、北朝鮮に対する脅威認識に変化はない」として、当初の方針通り、配備計画を進める構えです。
ある防衛省幹部は、「脅威は、攻撃する『意思』とそのための『能力』の二つの要素からなる。北朝鮮は今、『意思』はないかもしれないが、『意思』は一瞬にして変わり得る。一方で、『能力』は変わらない以上、我々としては、備えを進めなければならない」と説明しています。
ただ、現時点での国内外の状況をみますと、計画は順調に進んでいるとは言い難いのが実情です。
今月2日、政府は、長島昭久衆議院議員が出した質問主意書に対する答弁書を閣議決定しました。

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イージス・アショアには、ロッキード・マーティン社製の最新レーダーLMSSRが搭載される予定ですが、答弁書は、イージス・アショア本体とLMSSRについて、2019年度から5年間かけて製造した後、性能の確認や設置の作業を行うと記載しています。これに基づくと、運用開始は、どんなに早くても2024年度以降になります。2023年度中の運用開始という当初方針と矛盾するのではないか。これについて問われた岩屋防衛大臣は、「防衛省が『必ず2023年度に運用開始する』と明言したことはない」と当初方針を軌道修正し、2023年度中の運用開始は難しいことを示唆しました。

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この背景には、LMSSRが今なお開発段階にあり、しかも、LMSSRの採用を決めた国が日本だけという事情があります。
先月、アメリカ国防総省がLMSSRの性能確認のための実射実験を行う必要があるとして、そのための試験施設を日本の費用負担で建設できないか、日本側に打診していると一部で報道されました。
政府は、実射実験を行うことの必要性も含め、アメリカ側と協議中だと説明しており、岩屋大臣は、協議次第では、追加の費用負担が生じる可能性があるという認識を示しています。

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イージス・アショアの費用について、政府は当初、2基で1600億円と見積もっていました。その後、最新レーダーを搭載することなどを理由に費用は膨らみ、現在は、取得価格のみで2基で2400億円となっています。しかも、導入後30年間の維持運用経費を含めると、総額は4400億円近くになるとされています。
仮に試験施設の建設費まで追加されることになれば、野党などからの批判が一層強まることは確実です。アメリカとの交渉経過も含め、政府の姿勢が厳しく問われることになるでしょう。
一方、政府が配備候補地としている秋田市と山口県萩市。地元の自治体や住民は、計画をどのように受け止めているのでしょうか。

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萩市の配備候補地に隣接する人口およそ3300人の阿武町。今回の計画に大きく揺れています。これまで開かれた住民説明会では、「北朝鮮の攻撃対象になるのではないか」とか、「レーダーが発する電磁波が健康に影響するのではないか」といった不安の声が数多く出されました。しかも、阿武町は、迎撃ミサイルが発射された場合、そのルートの真下にあたります。「ミサイルの部品が落下することはないのか」。様々な懸念が浮上していますが、住民の多くは、「政府から納得できる説明はない」と受け止めています。

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去年9月、町議会は、計画の撤回を求める請願を可決しました。今年2月には、計画の撤回を求める住民グループも発足。現在、会員数はおよそ1400人と、町の有権者の半数近くにのぼります。
こうした状況をふまえ、花田憲彦町長は、自民党員ですが、計画への反対を公式に表明しました。秋田市や萩市など配備候補地となっている他の自治体も、「政府は、住民の理解を得られるよう説明を尽くすべきだ」と強調していますが、自治体として反対を決断したのは、阿武町だけです。花田町長が反対する最大の理由は、イージス・アショアが、町づくりの方向性に合わないからです。他の多くの自治体と同様、少子高齢化という課題に直面している阿武町。移住者を呼び込むIターン事業を積極的に進め、町の存続を図ろうとしてきました。この10年でおよそ250人が移住するなど、実績もあげてきたといいます。ただ、花田町長は「町に移住してくる人たちは、自然の中での健康な暮らしを、人一倍、志向している人たちだ」といいます。
「イージス・アショアの配備が決まれば、新たな移住者が来なくなるばかりか、今いる人たちが出て行く恐れすらある。これは、ある意味、町の存亡に関わる問題だ」と、危機感を募らせています。
政府は、配備に適しているかどうかを確認する現地調査を、来月中にとりまとめ、地元自治体に説明したいとしています。ただ、その時の政府の姿勢が、丁寧さや誠実さを欠き、配備ありきと受け止められるようなものになれば、住民の理解を得るのは難しくなるでしょう。
国家の安全保障の必要性と、実際にそれを支える地域住民の理解をどう両立させていくのか。不安と反発を強める住民を前に、政府に課せられた説明責任は、重いと言わざるを得ません。

(増田 剛 解説委員)

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