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「地方?都市部?外国人はどこへ・・・」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

この4月、日本で働く外国人の受け入れを拡大する新たな制度がスタートしました。日本で働くための新しい在留資格の試験も始まり、外国人の受け入れに向けた動きが本格化しています。人手不足解消への期待の一方で、いま、ある懸念が広がっています。それは、「外国人は都市部に集中して、地方には来ないのではないか」というものです。

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【解説のポイント】

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解説のポイントです。▽新たな制度で何が変わるのかを踏まえたうえで、▽過去の受け入れケースから課題を探り、▽求められる対策を考えます。

【新制度 これまでと何が違う?】

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新たな制度では、人手不足が深刻な介護や外食、建設など14の業種で「特定技能」という在留資格が設けられました。今後5年間で最大で34万5000人余りの受け入れが見込まれています。ただ、いまも、全国でおよそ146万人の外国人が働いています。新たな制度で何が変わるのでしょうか。

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実は、全体の4割以上を占めるのは技能実習生や留学生のアルバイト。表向きは働くためではなく、技能を移転する国際貢献や学ぶために日本にやってきた人たちですが、人手不足の現場で貴重な戦力となっているのが現状です。新たな制度では、こうした現状に合わせ働くことを目的とした在留資格、「特定技能」を設け、名実共に、労働者として受け入れるのです。技能実習生は3年の経験があればこちらの特定技能に試験なしで移行できます。そこで、これまでと大きく異なるのが、同じ業種の範囲内で転職ができるようになることです。技能実習生には転職は認められておらず、そのことが低賃金や人権侵害につながっていると繰り返し指摘されてきました。自分の意思で働く場所を選ぶ。当然といえば当然のことですが、技能実習生が働いている事業者や新たに外国人の受け入れを希望する事業者からは「賃金の高い都市部に外国人が流出してしまうのではないか」「地方の人手不足はさらに厳しくなるのではないか」。こうした懸念が出ているのです。

【懸念は現実に・・・】
実は今、日本で働いている外国人のケースをみると、こうした懸念、すでに現実となっているようです。

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およそ10年前、日本と東南アジアの国々の間でEPAという協定が結ばれ、介護福祉士の国家資格をとれば、転職もでき、事実上定住も可能になるという制度ができました。今回、私は、この制度ができた当時取材した青森県の介護施設のその後を改めて取材しました。青森県むつ市の介護施設では現在、60人の高齢者が暮らしています。この10年の間にインドネシアとベトナムから17人を受け入れました。一軒家を購入して寮を整備したり、日本語の先生を雇ったりして介護福祉士の資格取得をサポートしました。その結果、10人が合格。施設側はそのまま残ってくれるものと思っていました。しかし、試験に合格した全員が施設を去っていたのです。
施設を運営する中山辰巳さんは「外国人にとって東北というのは大変厳しいところ。寒さや雪、方言、そういう様々な障害があることがわかった。施設に残ってもらえなかったのは残念だが仕方がない」と話します。

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【なぜ 外国人は都市部に】
なぜ外国人は青森の施設を去ったのか。取材を進めたところ、そのうちの1人に会うことができました。インドネシア人のアハマド・クルニアワンさんです。青森では4年間働きましたが、雪や寒さなどふるさととは全く異なる生活環境に悩みがつきませんでした。
今は大阪の介護施設で働くクルニアワンさん。賃金の高さが魅力だったといいます。さらに、イスラム教徒のクルニアワンさんにとって、何より大事だったのが、モスクが近くにある環境でした。そして、悩みを相談できる仲間が多く住んでいることも大阪を選んだ理由です。休みの日には自宅にインドネシア人の友人を招き、一緒に食事を楽しみます。
クルニアワンさんは「悩みを話し合うことで気持ち切り替えることができ、日本でもっとがんばることができる」といいます。青森の施設に対していま、どんな気持ちでいるのかたずねると、「日本語や介護技術などを教えてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです」と話していました。

【求められる対策は】
これまで働いていた外国人が地方から都市部に移ってしまう。そして、これから受け入れる外国人も都市部を選んでしまうのではないか。こうした懸念に政府はどう応えようとしているのでしょうか。大阪に移ったクルニアワンさんがあげていた理由に沿って見ていきます。

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まず、賃金。企業が働く人に支払わなければならない最低賃金は都道府県ごとに異なり、都市部のほうが高い傾向です。政府は都市部などに外国人材が過度に集中しないよう必要な措置を講じるよう努めるとしていますが、具体策は見えてきません。まずは現状を把握するとともに、家賃や生活費の安さ、通勤時間の短さなど地方で働くことのメリットをアピールしたいとしています。しかし、新たに受け入れる外国人がまず取得する在留資格の「特定技能1号」では家族が一緒に来ることが認められていません。いわゆる「出稼ぎ」モデルとなっているともいえます。単身者の受け入れを前提とした制度の構造そのものが都市部への集中を招くという指摘もあります。政府はこの制度について2年後を目途に検討し必要があれば見直すとしていますが、どのように外国人を受け入れ社会を維持していくのか。幅広い議論をしていく必要があります。

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そして、クルニアワンさんが大阪に移った理由としてあげていたモスクと仲間の存在。つまり故郷を離れた異国で安心して働き、生活できる環境です。政府は全国およそ100か所に様々な相談を一元的に受け付ける窓口を設ける計画ですが、交付金を支給する対象になるのは、都道府県と政令指定都市、そして外国人が多く住んでいる自治体に限られています。特定の地域への人材の集中を防ぐというのであれば外国人が少ないところや、これから受け入れようというところへの支援についても必要に応じて検討していかなければなりません。
働く外国人の奪い合いは国内の都市部と地方だけではありません。他の国との間でもすでに始まっています。外国人に日本を選び、とどまっている理由を聞くと、賃金の高さだけでなく、治安の良さや消費地としての魅力をあげる人が少なくありません。新たな制度が成功するかどうかは、日本の、そしてそれぞれの地域独自の魅力を磨き、外国人にとっても働きやすい、そして住みやすい地域をつくれるかどうかにかかっていると思います。

(堀家 春野 解説委員)

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