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「残業は減らせるか?~働き方改革法 施行」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

今や、国をあげての取り組み、といって過言でないのが働き方改革です。その取り組みを更に推し進めるための法律が、今月から施行されました。
働き方改革関連法です。
その最大の柱が、わが国で初めての、残業規制の導入です。
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しかし、足元の現実は、まだ遠いところにあります。つい昨日も、新たな過労死の被害が、記者会見で明らかにされました。
人工衛星の管制業務にあたっていた31歳の男性が、3年前、自殺しました。
達成困難なノルマや、長時間労働があったとして、労働基準監督署から過労死と認定されました。
亡くなった男性の母親は、「今でも息子がこの世からいなくなってしまったことを受け入れられない」と無念の思いを明かしていました。
いつまでこんな悲惨なことを繰り返すんでしょうか?どうすれば残業規制を徹底し、長時間労働をなくせるんでしょうか?

〔 何が焦点か? 〕
そこできょうは、
① 実は、複雑な残業規制
② 懸念される「しわ寄せ」と「抜け穴」
③ そして必要なのは労働時間の「見える化」
この3点について考えます
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[ 複雑な 残業規制 ]
まず、今回の残業規制ですが、残業についての規定は、もともと、かなり複雑な仕組みになっています。
そもそも、残業は、基本的には法律で禁止されています。
労働基準法では、一日8時間、週40時間を越えて働かせてはならない、と明確に定めています。
これを法定労働時間といいます。

ただ、労使で36協定(サブロク)、これは、労働基準法36条に基づくのでこう呼ばれますが、この36協定を労使が結べば「月45時間、年360時間」まで、残業させることが可能です。

さらに、この36協定に、特別条項というものをつければ、年間6ヶ月までは、もっと多くの残業をさせることが可能になります。 
問題なのは、この6ヶ月については、これまで上限がなかったことです。特別条項で決めさえすれば事実上、いくらでも残業させられる、という仕組みでした。これが、過労死などの大きな原因になっている、といわれていたわけです。
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そこで、新たな制度では、この特別条項をつけても超えられない上限をつけました。それが、この一番上の赤いラインです。
主な条件は4つ。
▼一月の残業は、最大100時間未満。
▼複数月の平均では80時間まで
そして、全体としては、
▼年間で・720時間まで。
さらに▼最低でも6ヶ月は、月45時間まで。
このように、一月、複数月、そして、年単位と
二重三重に、こまかく残業を規制しています。

そして、これを破れば、罰則です。6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金です。
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[ 懸念される「しわ寄せ」 ]

本来、企業が本当に残業を減らそうとすれば、
仕事を減らすか、
ヒトを増やすか、
どちらかの対応が必要です。
つまり、働き方改革に本当に必要なのは、実は、経営改革です。
人員体制や組織の見直しが不可欠です。
しかし、そういう対応が不十分なまま 会社が、残業時間だけ、減らすよう社員に圧力をかければどうなるでしょうか? 

それが、懸念される「しわ寄せ」です。この「しわ寄せ」には、二つのことが懸念されています。

▼一つは「残業隠し」です。
サービス残業や、持ち帰り残業、などともいわれます。どれも、意味は同じです。本当は残業しているのに、していないことにする。先日、この「残業隠し」の一端が、労働基準監督署が是正勧告した案件で明らかになりました。
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是正勧告を受けたのは、日立製作所の子会社で、申告した社員が先日、記者会見しました。
この会社では、複数の社員について残業代の一部が払われていなかったとして労働基準監督署から是正勧告が出されました。
会見によりますと、残業時間が会社の基準を超えそうになった時、上司からこうしたメールが送られてきたということです。
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中を見ますと、
「総務から、残業100時間未満にするよう言われた」。
「承認済みの勤務票を差し戻すので、残業時間を下げてください」
というようなことが書かれていて、残業隠しにつながるような、なまなましい内容が書かれています。
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社員によりますと、この月の残業時間は実際は185時間でしたが、会社の記録では105時間になっていたということです。

子会社が是正勧告を受けたことについて、日立製作所は、「真摯に受け止め、適切な労働時間管理や健康管理を徹底して参ります」とコメントしています。
残業隠しは、長時間の残業だけでも問題なのに、その上、お金もつかない。
文字通り、タダ働きを強いられる、というものでこれは悪質な法律違反です。
労働基準監督署に厳しく目を光らせてもらいたいところです。

▼そして、もう一つの懸念される「しわ寄せ」は中小企業への影響です。

どういうことかというと、今回の残業規制が適用されるのは大企業は今年4月からで、すでに適用が始まっています。しかし、中小企業は、来年の4月から。一年、適用が猶予されています。
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このため、今までのような残業ができなくなった大企業が、その分の仕事を、まだ規制が適用されない中小企業に発注し、結果として、中小企業がさらに長時間労働を強いられるおそれがあります。

中小企業庁や厚生労働省が注意するように呼びかけています。

[ 残業規制の「抜け穴」 ]

そして、もう一つ、注意が必要なのは、残業規制には、実は「抜け穴」が存在するということです。
それは、休日労働です。

さきほどの残業規制の4つの条件をご覧ください。四つのうち、上の二つの条件には、休日労働が含まれます。しかし、下の二つの条件には、休日労働は含まれません。

つまり、休日に出勤させて働かせれば、年間720時間より、もっと働かせることが可能になるわけです。これでは、長時間労働を減らすという本来の趣旨にもとります。できるだけ早く、この抜け穴を法改正でふさぐべきです。
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[ 必要なのは「見える化」 ]

このように、長年、長時間労働が当たり前だった組織で、残業を減らすのは、簡単なことではありません。
では、どうすればいいのか?

今回の法改正ではそのための重要な一歩が義務化されました。
それは、管理職も含めた、すべての労働者について、労働時間の把握を義務化したことです。いわば、労働時間の「見える化」です。

具体的には、タイムカードや、パソコンの使用時間の記録など、客観的な方法で労働時間を記録して、それを3年間保存することを求めています。
これまでは、一般の労働者に対して、労働時間の把握を義務づけていたわけですが、その対象を、管理職にも拡大し、会社全体の労働時間を見える化して、長時間労働を是正しようというわけです。
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[ まとめ ]

人口減少で働き手が減る中、豊かな社会を維持して、一人ひとりがイキイキと働けるためには残業を減らすことは、待ったなしの課題です。

新しい令和の時代から働きすぎをなくせるよう「見える化」した労働時間をもとに、各職場で徹底して話し合うことが必要です。

(竹田 忠 解説委員)

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