NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「消費増税まで半年 景気は大丈夫か?」(時論公論)

今井 純子  解説委員

日銀の短観で、企業の景気判断が大幅に悪化していることがわかりました。半年後に迫った消費税率の引き上げについて、延期を求める声が強まることも予想されます。日本の景気の先行きは大丈夫なのでしょうか。消費増税の壁を乗り越えることはできるのでしょうか。この問題について考えてみたいと思います。

j190402_01.jpg

【企業判断に、大幅なブレーキ】
(短観の内容)
 まず、きのう発表された短観の内容です。
 こちらは、景気が「よい」と答えた企業の割合から、「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数の推移です。
 今回、3月の調査で「大企業の製造業」は、プラス12ポイント。前回12月と比べて、7ポイント悪化しました。また、「大企業の非製造業」(青い線)も、プラス21ポイントと、3ポイント悪化しました。この先、3ヶ月先の景気についても、製造業・非製造業、ともに、さらに悪化する見通しです。

j190402_02.jpg

(製造業を中心に悪化の方向)
 今回、製造業の下落幅は、2012年12月以来、6年3ヶ月ぶりの大きさです。去年、自然災害などの影響で少しずつ悪化した後、横ばいになっていた景気判断ですが、ここへきて再び、しかも一気に悪化の方向に向かい始めたようです。

【背景には、世界の同時減速】
(世界の同時減速)
 背景にあるのは、世界ほぼ同時に経済の勢いが弱まっていることです。
 こちらは、OECDが先月、発表した世界の主な地域の今年の成長率の見通しです。カッコの中は、去年11月時点の見通しと比べたものです。

j190402_03.jpg

このように、
▼ ヨーロッパが大幅に引き下げられたほか、中国やアメリカも下方に修正されました。
▼ 経済の勢いが弱まった、その起点=始まりは、中国です。去年一定の減速を容認してまで、地方政府などが抱える過剰な債務の削減を優先してきたところに、アメリカとの貿易摩擦が追い討ちをかけ、一気にブレーキがかかりました。そして、その影響が、輸出やビジネスの落ち込みを通じて、ヨーロッパやアメリカに広く波及しているのです。
▼ また、ここ数年、世界でデータセンターやスマホ向けに半導体の生産が積極的に行われた結果、需要がだぶつき、生産の調整が行われていることも、世界経済の足を引っ張る要因となっています。

(日本にも影響)
そして、この世界経済の勢いが落ちたことによる冷たい風が、日本にも吹きつけてきています。輸出は、中国向けの電子部品や生産設備などを中心に大きく減り、生産も、減少傾向に転じました。成長見通しも下方に修正され、企業の景気判断を大幅に悪化させたのです。

j190402_04.jpg

【景気は大丈夫か】
(景気は正念場)
 実際、景気はどうなのでしょうか。景気の状況を示す1月の景気動向指数は、景気がすでに後退局面に入った可能性を示しています。一方、政府は、1月に景気回復が戦後最長を超えた可能性があるとしており、今も、個人消費と設備投資の増加が続いていることから、全体として景気は緩やかに回復しているという見方を変えていません。後退なのか、回復の勢いが弱まっているだけなのか。その判断はこの先行われることになりますが、いずれにしても、これまで経済をけん引してきた輸出と生産が減少していることで、景気に黄色信号がともっている。正念場を迎えているという点は、間違いないようです。

j190402_06.jpg

(先行き下げ止まりの見通しも)
 では、先行きはどうでしょうか。この先、どんどん悪化するわけではない。下げ止まるのではないかという見方をする専門家も多くいます。なぜなのか。2点あげたいと思います。

(各国で対策)
 ひとつは、各国で対策が出始めているという点です。
▼ 世界経済の勢いが弱まった、その起点となった中国は、債務の削減を最優先させる姿勢から、景気に配慮する姿勢に転換しました。金融緩和に加え、インフラ投資の拡大、家電や自動車の買い替えに対する補助金、大規模な減税など、次々と景気対策を打ちだし、ここへきて、製造設備などへの投資や製造業の景況感といった統計が市場予想を上回って上昇するといった動きも出ています。また、先月行われた全人代=全国人民代表大会では、アメリカとの経済対立をこれ以上激化させることを避けるために、アメリカへの配慮を示す姿勢も打ち出しました。
▼ 先進各国の金融当局も、景気を支える姿勢に転換しています。アメリカのFRBは、これまで続けてきた利上げを、今年は一回も行わずに見送る。ヨーロッパ中央銀行も、少なくとも今年いっぱいは利上げを見送ることを決めました。

(半導体需要拡大の期待)
2つ目は、半導体の需要拡大への期待です。これまでのデータセンターやスマホに加え、今後、AI・人工知能や自動運転といった新しい技術に向けた需要が増えること。さらに、今後、今より通信速度が10倍程度で、大量のデータをすばやく送ることができる次世代の通信規格「5G」(ふぁいぶ・じー)の運用が世界で始まり、新しい機器やサービスに向けた需要も拡大することが期待されています。在庫の調整が終われば、半導体の需要は再び拡大する。そういう期待も広がっています。

(海外頼みには不安も)
こうしたことから、日本の景気は今後、下げ止まり、今年後半には、少しずつ改善の方向に向かうのではないか。という見方も専門家からは出ています。ただ、海外頼みの面が強く、米中の貿易摩擦やイギリスのEU離脱などの行方次第では、期待通りにいくか心配な面も残ります。

j190402_09.jpg

【国内の対策は】
(消費増税は、対策を進めることが大事)
 こうした中、日本では半年後に消費増税を控えています。どう考えたらいいのでしょうか。確かに、景気への不安から、増税の延期を求める声が強まることは予想されます。ただ、今年度の予算には2兆円を超える増税対策が盛り込まれています。短期的には、増税の負担を上回る規模です。また、幼児教育・保育無償化を期待して、こどもに習い事をさせる家庭もでています。スーパーなども、レジの改修など、軽減税率への対応を急ピッチで進めています。半年を切った今、ここで増税が延期されるようなことがあれば、混乱の方が大きく、経済にはマイナスではないかという指摘もあります。景気の動向に目配りは必要ですが、よほどのことがない限り、ここまできたら、予定通り増税に向けて、きちんと対策を進めることが大事ではないでしょうか。

j190402_11.jpg

(企業は、設備や人への投資を!)
その上で、本当に大事なのは、内需を支えるための企業の役割。設備や人への投資の強化です。AIやIoTなど、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。また、人口減少で、人手不足も続く見通しです。新しい時代を勝ち抜くために、研究開発や設備投資に力を入れること。そして、消費増税の壁を乗り越えるためにも、さらには、よい人材を確保するためにも、思い切って賃金やボーナスを引き上げたり、新しい技術を身につける研修を強化したりと、人への投資にも力を入れることが欠かせません。企業は、全体で、昨年度3年ぶりに減益に陥った見通しですが、それでも、利益の水準は、過去最高に近い水準です。抱える現金・預金も262兆円と、一年前より10兆円増えています。景気判断の悪化で、慌てて身をすくめるのではなく、自らの体力を高めるために、おカネを使う。その余裕はあるはずです。

j190402_13.jpg

 長期的な視点で、新しい時代に必要な取り組みを着実に進めること。それが、結局は、今の景気の正念場を乗り切るためにも、また、日本経済の根本的な競争力を高めるためにも、一番の近道ではないかと思います。

(今井 純子 解説委員)

キーワード

関連記事