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「平成から令和へ これからの日本に託されるものは」(時論公論)

西川 吉郎  解説委員

きょう(1日)次の元号が発表されました。令和という元号のもとで新しい時代が扉を開こうとしています。この節目を前に、大きな災害や人口減少などこれまでなかった経験をした平成の30年間を振り返りながら、平成から令和に向けて日本はどのような道を歩もうとしているのか、新しい時代にどう向き合えばよいのか、考えます。

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戦後右肩上がりと言われ、拡大を続けてきた日本の社会は平成で土台が大きく変わりました。▼少子高齢化が急速に進み、日本の人口は2007年をピークにして減少に転じました。同時に、人口は東京への一極集中がすすみ、都市と地方の格差が広がることになりました。平成の間、阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめとする大きな災害が続きました。被害は人口減少に悩む地方を直撃し、犠牲は高齢者に集中しました。被災地には民間の大勢の人たちが自発的に支援に駆けつけるようになりました。
▼経済は、バブルの崩壊、リーマンショックをへて、異次元の金融緩和の中で景気は拡大基調に転換しましたが、実質賃金は伸び悩み景気の回復を実感するには力に欠けています。
▼また、政治は平成はじめの選挙制度改革の結果、確かに政権交代が起こりましたが、自民党が政権にもどると自民党が多数を占める一強多弱の状況が現れています。投票率は次第に下がっており、政治と国民の距離はより開きました。
日本は社会の高齢化と大きな災害に特徴付けられる平成を通じて、将来の暮らしに対する不安が広がる一方、介護保険制度が設けられたりなどくらしを守るセーフティネットが育っても行きました。

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▼一方、世界も大きく変わりました。平成が始まった1989年には、アメリカのブッシュ大統領とソビエトのゴルバチョフ書記長が会談、冷戦の終結を宣言しました。
二つの超大国のけん制というたがを失った世界は多極化に向かいました。主要国首脳会議G7に加えて主要20カ国によるG20という新たな枠組みが設けられ、より広い協調をさぐる場もできました。しかし、逆に中国の台頭によって、アメリカ、中国、ロシアの3カ国の間に新たな大国関係が生まれ、アメリカと中国の間の貿易摩擦、アメリカとロシアのクリミア併合に起因する対立で、それぞれの関係は新冷戦とも呼ばれるほどの緊張をはらんだものになっています。一方、トランプ大統領のアメリカ第一主義やイギリスのブレグジットを始めとするEU離脱の動きなど民主主義的な先進国で自国第一主義の動きが広がっています。世界は新しい秩序ではなく、無秩序に向かっているようにもうつります。グローバリズムは転換点にあります。

さて、間もなく幕が開く令和の時代、これから私たちのくらしや社会はどうなっていくのでしょうか。日本の高齢者は2040年代に向けてその数も割合も増え続けます。一方、15歳から64歳までの社会を支える現役世代はすでに減少に転じている上、2025年以降減少のスピードが加速化する見通しです。労働力不足はいっそう深刻になることは避けられません。

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社会の活力を維持していくためには、どうすればよいのでしょうか。まず、働き方をかえることす。健康を維持するためだけでなく、長時間労働を抑え休暇とりやすくして誰もが働きやすい環境を整える。これまで仕事についてこなかった高齢者、女性、障害者、さらには外国人など、多様な人材に活躍してもらう。そうした機会を作っていくことです。

特に女性について言えば、世界経済フォーラムが毎年発表する男女格差の報告書で日本は去年も149か国中110位です。単純な労働の担い手にとどまらず、企業の経営や政策の決定の場に女性が進出するような社会づくりが大切です。
そして、人工知能AIなど情報科学技術の活用です。任せられる仕事はAIに任せて人手を減らすことができます。ただ、その分の人手を切り捨てるのではなく、ヒトでなければできない新しい仕事に回ってもらえるための仕組みづくりも必要です。ますます国際競争が激しくなってくると予想されるAI技術を育てていくことは日本の産業を守っていく上でも不可欠です。
そして、外国人材の受け入れです。きょうから新しい制度が始まっていますが、受け入れ態勢づくりはむしろこれからです。日本が外国人に選ばれる国になれるのかどうか、制度にとどまらず、どのように日本に入ってくる外国人と共生をはかっていくのか、私たち自身も問われることになりそうです。
年代やライフスタイルにあわせて柔軟な選択ができる働き方やいくつになっても再教育の機会があるなど、多様な働き方、多様な働き手を支えていくという発想が必要です。

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くらしの安心安全を守る公的なセーフティネットの整備も令和の課題となります。年金、医療などを柱とする社会保障ですが、正社員として定年まで働くことを前提としており、非正規社員を十分にカバーできていないなど、多様化する働き方に対応できていません。子育て支援も十分効果を挙げておらず、子供の数は減り続けています。どの分野にどの程度の施策や財源を振り向けるのが適切なのか、今年10月には消費税率の引き上げが予定されているように、財源をどのように確保するのかとあわせて、時代に合わせた制度の見直しが必要な時期にあります。
そして、いわゆる国の借金の残高は1100兆円をこえ、国内総生産GDPに対する比率では世界一高くなっています。これ以上将来の世代にツケをまわすことはできず財政再建は必須の課題です。

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それでは政治の役割は何なのでしょうか。これまで見てきたように、広い意味での働き方改革や社会保障制度改革によって、私たちが感じる将来の生活への不安を解消し、いっそう安心安全なくらしを実現することです。財政問題では痛みを伴う判断をする覚悟が求められるかもしれません。それには、国民との距離を縮めることが欠かせません
食料やエネルギーを外国に多く依存する日本にとって安定した供給を確保するために自由貿易主義を貫いていく以外に術はないように見えます。
そのためにも、国的な協調体制を率先して支えることが日本の役割となります。

来月1日には令和の時代に入ります。
世界は国と国との関係を超えて一体化しています。貿易摩擦が起こるのも経済が先行してより密接に国同士結びついているからで、政治が経済に遅れてやってきたと見ることができます。また、地球温暖化対策や伝染病の予防など、地球上の国、地域の連携・協調`そして相互依存の関係は不可欠なだけでなく、不可避なものとなっています。
にもかかわらず、自国第一主義の動きが世界の先行きを見通しの悪いものにしています。加えて、日本も人口減少というこれまでなかった時代にはいっています。
ますます、これまで経験したことのない領域にはいっていく令和の時代、より多くの解、こたえをそろえておくことこそが必要です。柔軟さと多様性を尊重する中に、解を見つけようとする姿勢が、何よりも大切になるのではないでしょうか。

(西川 吉郎 解説委員長)

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